英文契約書の相談・質問集153 前文(Recital)は書かなくても良いですよね。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「前文(Recital)は書かなくても良いですよね。」というものがあります。
英文契約書では,多くの場合,Recitalと呼ばれる箇所が契約書の本文の冒頭部分に設けられていることが多いです。
Recital部分は日本語では,「前文」と訳しています。
内容としては,契約当事者がどういう事業をしているのか,この契約の目的は何か,どういう経緯でこのような契約を行うことになったのか,このビジネスのゴールは何かなど,割と抽象的な内容を記載します。
細かくいろいろな内容が書かれていることもありますし,単に当事者の事業の概要と契約の目的がさらっと書かれているということもあります。
日本語の契約書ではあまり見ないのがこのrecital(前文)と呼ばれる部分になります。
和文契約書では,せいぜい,「第1条(目的)」というようにして,本文の条項内で,契約の目的,事業の目的をさらっと書くというくらいかと思いますが,英文契約書では多くの場合にrecital(前文)が記載されています。
英文契約書のこのrecital(前文)部分は,一般的に法的拘束力はないとされています。
前述したような割と抽象的な内容を書くものですので,その部分に権利や義務を記載することはあまりなく,一般には法的拘束力がないとされているのです。
そのため,「法的拘束力もないので,recital(前文)は特に書かなくとも問題ないですよね。」という質問をよく受けます。
確かに,契約書にrecital(前文)が存在しなくとも,もちろん契約は有効ですし,問題はありません。
ただ,recital(前文)にも,法的拘束力がないとしても,一定の役割・機能があります。記載する意味がないわけではありません。
例えば,recital(前文)を読めば,その契約によってどういう当事者が何をしようとしているのか,全体像を理解するのに役に立ちます。
契約書を読んだり,レビュー(審査)したりする際に,どういう当事者がどういう事業を行おうとしているのかを理解していることは,リスクを発見し,利害関係を評価するのに役立ちます。
また,もっと実践的な面では,例えば,契約書の条項の解釈が当事者間で異なってトラブルになったような場合に,その条項の解釈をする際に,recital(前文)に書かれた内容が解釈の指針になり,条項の意味を解釈するのに役立つということもあります。
さらに,例えば,「過失」や「帰責事由」,「material」や「合理的」などの価値判断が入る概念,程度問題といわざるを得ない概念の判定にもこのrecital(前文)が役に立つことがあります。
上記のうち,materialの例でいえば,英文契約書には,通常,「当事者の一方が契約の条項に違反した場合,相手方当事者は,その契約を解除することができる」と定められています。
これを,解除条項(Termination Clause)といいます。
この解除条項(Termination Clause)において,些細な契約条項違反でもすぐに契約を解除することができるとなってしまうと,当事者の地位が不安定になりますので,重要な契約の条項に違反した場合にはじめて契約の解除ができるとされていることがあります。
重要な契約違反というのを,英語では,一般にmaterial breachと記載します。
このmaterialという概念に該当するかどうかで,契約を解除することができるかできないかが決まるわけです。
そのため,このmaterialという概念は非常に重要になります。しかし,これは,「重要な」という意味ですので,程度問題です。
何が重要な違反で,何が軽微な違反であるかは,判断する人によって違うでしょうし,ましてや契約当事者は立場が逆ですから,いずれの当事者も自分に都合の良いように「これはmaterialだ」「これはmaterialではない」と主張するでしょう。
こういう場合に,recital(前文)の内容が役に立つことがあります。
当事者の事業概要や,この契約の目的やゴールなどが記載されていると,それらの内容に照らせば,この程度の違反は軽微であるとか,これは契約の目的やゴールにとって重要だから,material breachに該当するなどと解釈できる場合があるからです。
また,英文契約書には一般条項(General Provisions)として完全合意(Entire Agreement)条項が挿入されるのが一般的です。
この条項がある場合か,または,英米法のParol Evidence Rule(口頭証拠排除原則/法則)が適用されるような場合は,原則として契約書以外の証拠を持ち出せません。
そのため,契約締結の経緯や目的などをメールのやり取りで証明しようと思っても,メールが証拠として認められないことがありえます。
この点,契約書の一部であるrecital(前文)部分は証拠として使えますので,ときに重要な役割を果たすのです。
このように,recital(前文)の内容自体に法的拘束力はないとしても,他の条項の解釈に指針として利用できたり,程度問題となる法的概念について判断するときの判断の指針になったりすることがあります。
そのため,recital(前文)については,記載する必要はないが,一定の役割や意味はあるので,これを重視するのであれば,記載しておいたほうが良いということになります。
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