英文契約書の相談・質問集155 Entire Agreement(完全合意)条項は必ず入れますよね。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「Entire Agreement(完全合意)条項は必ず入れますよね。」というものがあります。
Entire Agreement(完全合意)条項というのは,要するに,「その契約書に書いてあることがその当事者間で約束したすべての内容であって,その契約書に書いていないことは合意していないので,例えば,口頭やメールや他の書面で合意されていたとしても,それらはすべて効力がない」という条項をいいます。
なお,あくまで,Entire Agreement(完全合意)条項を含んだ契約書の発効日までに他の書面などで合意した内容が無効になるということであり,契約締結日以降に契約書ではない別の書面などで合意した効力がどうなるかはまた別の問題ですので注意して下さい。
この契約書締結後の合意の効力の問題は,Entire Agreement(完全合意)条項の問題ではなく,一般的にはAmendment(改定)条項の問題です。
一旦成立した契約書の内容を変更する場合に,どのような手続きを踏む必要があるのかを規定した条項がAmendment(改定)条項です。
これは,契約書の内容の変更の問題ですので,当然ですが契約が発効した後の問題ということになるわけです。
Amendment(改定)条項に記載された手順にしたがって合意をしなければ,契約書締結後の変更の効果は認められないことになります。
話を元に戻します。Entire Agreement(完全合意)条項は,一般条項(General Provisions)としてほとんどの英文契約書に挿入されています。
では,Entire Agreement(完全合意)条項は,必ず挿入したほうが良いのでしょうか。
そういうことではありません。あえてEntire Agreement(完全合意)条項を挿入しないほうが良いこともあります。
例えば,海外取引が決まり,日本法を準拠法として英文契約書を作成するとします。
その場合に,当事者間ではいろいろなやり取りをしていて,契約書には書くような話ではない細かい取り決めなども担当者間の電子メールで合意していたとします。
このような場合に,杓子定規にEntire Agreement(完全合意)条項を入れた契約書にサインしてしまうと,上記の電子メールでの合意は効力を有しませんので,あとで,相手方が「それはメールで合意したにすぎず,契約書に書いていないので,守る必要がない」などと主張してくることがありえます。
また,交渉期間が長く,交渉内容も多岐に渡ったような場合,かなり詳細な内容をメールでやり取りしたり,会議で議論したりしていたという場合もあります。
こうした場合に,契約書にすべて合意事項を書き入れることができず,本来契約書に記載すべきだった内容を当事者も気づかずに漏れてしまっていたということもありえます。
このような場合に,Entire Agreement(完全合意)条項が契約書に挿入されていると,契約書に書かれていない合意によって不利益を受けるほうの当事者としては,「そのような合意は契約書に書いていないから,確かに議事録には残っているが法的効力はない」と主張するでしょう。
そのため,前述したような都合がある場合は,あえてEntire Agreement(完全合意)条項を入れずに,契約書外で合意した内容も有効になる余地を残しておくということもあります。
ただ,例えば,メールで合意した内容が契約書の内容と矛盾しているような場合で,Entire Agreement(完全合意)条項がないときには,契約書とメールの内容のどちらが優先するのかわからないという問題も生じえます。
合意の手法からして契約書の記載が優先されるということになることが多いかとは思いますが,それでもメールを取り交わした経緯などから,逆の場合もあるでしょう。
そのため,Entire Agreement(完全合意)条項を外すのは,その契約書に書いていない内容を後で持ち出されたり,契約書に書かれた内容とは異なる内容を主張されたりするリスクがあるということは認識しておく必要があります。
また,英米法圏では,Parol Evidence Rule(口頭証拠排除原則/法則)という原則がありますので,注意が必要です。
このルールがある国の法律を準拠法にしているような場合は,注意しなければなりません。
このルールは,簡単にいうと,「仮に当事者が最終的に契約書を作成した場合,当該契約書の内容と矛盾し,またはその内容を変更するような他の証拠(例えば口頭による別の合意)を裁判所は考慮しない」というルールです。
前述のように,日本法を準拠法とするような場合,Parol Evidence Rule(口頭証拠排除法則)のような明確なルールはありませんので,契約書外での合意事項も有効となる余地を残しておくために,あえてentire Agreement(完全合意)条項を入れないという手法は機能しえます。
ただ,準拠法が英米法圏ですと,前記のParol Evidence Rule(口頭証拠排除法則)がありますので,Entire Agreement(完全合意)条項がなくとも,ある場合と同じ効果が生じることになります。
そうすると,結局,契約書外の合意の効力を主張できないということになり,契約書外での合意も有効にするためにあえてEntire Agreement(完全合意)条項を外したという意味がなくなる可能性があります。
そのため,Entire Agreement(完全合意)条項について検討する時は,準拠法についても留意する必要があるといえます。
このように,ボイラープレート条項・一般条項の一つに挙げられているEntire Agreement(完全合意)条項ですが,いつも挿入したほうが良いということではありませんので,ケース・バイ・ケースで本当に必要かどうかを考える必要があります。
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