英文契約書の相談・質問集156 海外取引で納期保証をすべきでしょうか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外取引で納期保証をすべきでしょうか。」というものがあります。
海外取引では,当然ですが,物理的距離が国内取引よりも長いですし,通関などの手続き的な壁もあったりします。
そのため,国内取引よりも輸送に時間を要します。
このような海外取引において,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などにおける商品の売主は,納期までに商品を引き渡すことを買主に対して保証すべきなのでしょうか。
納期を保証すれば,もし納期に違反した場合は,売主が買主に対して,納期に遅れたことによって買主に生じた損害を賠償するなどの責任を負うということになります。
一般的には,海外取引においては,売主の立場からすると納期保証はしないという方向で検討することになるでしょう。
前述したとおり,海外取引では国内取引よりも障壁が高いですので,何があるかわからず,納期遅延をしたら責任を負うというのは,売主にとって国内取引に比してリスクが高いからです。
商品の製造に予定より時間がかかってしまったり,商品を仕入れたものの,メーカーの都合によって売主のところに納期までに商品が間に合いそうにないなどの事態が起こったりすると,海外への輸送は時間がかかるため,こうした時間的遅れを埋め合わせるのが難しくなります。
もちろん,通常は,ボイラープレート条項(一般条項)として,不可抗力条項(Force Majeure Clause)が挿入されるでしょうから,不可抗力(自然災害など売主のコントロールが及ばない事由)によって納期遅延が生じたとしても,売主は免責されるということになるでしょう。
ただ,前述のとおり,不可抗力が原因でなくとも,物理的距離が長く,手続き的な障壁も多い海外取引では,納期に遅れてしまうということは国内取引よりも生じやすいのです。
納期遅延の原因が不可抗力ではないとなると,不可抗力による免責規定では売主は免責されないことになってしまいます。
なお,英国法の考えでも,納期については,原則として"Time is not of the essence."という考え方に基づき,納期遅れについて直ちに売主に責任を負わないとされています。
納期遵守が困難であるということと,英国法には"Time is not of the essence."という考えがあることなどから,海外取引では納期については保証しないという取り決めが比較的多くなされています。
もちろん,買主からすれば,その後転売予定があり,転売先への納期が決まっているような場合,納期は重要な意味を持ちますので,納期保証をしてほしいということになるでしょう。
この利害調整は難しいですが,発注について十分なリードタイムを設けておくなど,予め納期遅延が生じないような発注・受注の取り決めを契約書でしておくといった対処法が必要になると思います。
他にも,納期保証をする場合でも,予め損害賠償の予定条項(Liquidated Damages Clause)や責任制限条項(Limitation of Liabilities Clause)などを設けて,万が一納期遅延が生じた場合に売主の賠償すべき損害が不当に拡大することがないように手当することは最低限必要でしょう。
また,前述したとおり,準拠法にもよりますが,最低限,不可抗力(Force Majeure)によって納期遅延をした場合には,売主に責任がないという免責条項は定めておく必要があります。
日本法では,売主に納期遅延による責任を問うためには,売主の責めに帰すべき事由(過失のようなもの)が必要とされているので,そもそも不可抗力による納期遅延について売主は責任を負いません。
ただ,これはあくまで日本法の話ですので,準拠法によっては不可抗力による納期遅延でも売主が損害賠償などの責任を負う可能性があります。
そのため,契約書で不可抗力免責を明記しておく必要があるのです。
不可抗力免責については,買主としてもそれほど抵抗せずに受け入れることが多いかと思います。
以上のように,売主としては,安易に納期の確約をすることは避け,現実的に納期保証が可能なのか,遅延した場合の責任の範囲はどうなるのかなどをよく検討した上で,最終的に決断した内容を英文契約書に落とし込むことをしなければなりません。
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