英文契約書の相談・質問集159 債権回収したいのですが弁護士に依頼すべきですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「債権回収したいのですが弁護士に依頼すべきですか。」というものがあります。

 

 海外取引において,売掛を残すということになると,国内取引の場合に比べて遥かに回収リスクが高いので,そもそもおすすめできません。

 

 そのため,貴社が売主になったり,サービスの提供者になったりした場合,そもそも売買代金や報酬金は,当然ですが事前に支払ってもらうのがベストです。

 

 とはいえ,特にサービスの提供などは,目に見えないものですので,成果物をきちんと確認してからでないと,委託者は報酬の支払いをすることを渋ることも多いでしょう。

 

 そのため,全件において前払いを100%受けるというのも現実的ではないでしょう。

 

 支払いを確保するために担保や保証を取るということも考えられますが,これも実際の実行が難しくてあまり現実的とはいえないこともありますし,相手が担保の提供に応じてくれないことも多いでしょう。

 

 そして,後払いの約束をしたり,分割払いの約束をしたりし,後に,約束どおりに支払いを受けられず,債権回収の問題を生じることは現実問題としてあります。

 

 このような事態になったときは,一般的には,最初は自社で回収に向けて対応し,自社の担当者が相手方の担当者に督促をかけます。

 

 ただ,相手にも支払いを拒みたい事情があるような場合,最初は難癖をつけて支払いを拒絶しますが,そのうち,無視するようになることもあります。

 

 このような場合,債権回収したい当事者は,事態を打開するために,他に何か有効な手だてはないかと考えます。

 

 その際に一つの手段としてありうるのは,弁護士に依頼し,弁護士からクレームレターを出してもらい,法的手続きに移行することを匂わせながら,弁護士に交渉をしてもらうという手段です。

 

 ただ,弁護士を利用しても,当然ですが,それで奏効することもありますし,奏功しないこともあります。

 

 弁護士名義でクレームレターを出し,弁護士が当事者を代理して交渉するメリットは,やはり,後に法的手続きがなされる可能性があるというメッセージを出しながら,交渉できるという点が大きいと思います。

 

 ところが,このいわば「脅し」が通じないことも現実にはよくあります。

 

 例えば,まず挙げられるのは,請求額が少ない場合です。

 

 請求額が少ない場合,そもそも,自社が弁護士を雇うだけで赤字になるということが考えられますので,そもそも弁護士を代理人に立てること自体,コスト面から選択肢に挙がらないかもしれません。

 

 もし,顧問弁護士などが安く対応してくれるということがあって,選択の余地はあるとしても,相手方としても,請求額が少額なのはわかっていますので,相手方も弁護士を立てるハードルが高いということになります。

 

 そうすると,相手方としても,自社で弁護士を立てて対抗するのは現実的ではないと考えて,弁護士からレターが着いたところで,無視するかもしれません。

 

 また,請求額が少ないと,相手方としては,コストや工数の面から,本気で裁判などの法的手続きまではしてこないだろうという算段をすることが考えられます。

 

 裁判をするということは債権回収をする側も,貴重な経営資源である金銭と時間を相当に消耗することになるからです。

 

 このような算段の下,だんまりを決め込んで,弁護士のレターがあっても何も反応しないということもあります。

 

 海外企業を相手に訴訟などをするとしても,最終的な強制執行(相手の財産を裁判所の手続きを利用して強制的に売却しその代金から回収を図る)のハードルも高いですし,強制執行するまでには,相当な時間と費用がかかります。

 

 そうした多大な工数をかけてまで実現すべき権利なのかと改めて考えると,要するに売掛金の問題は金銭の問題に集約されるので,最終的には損得勘定に左右されることになるわけです。

 

 これが,例えば知的財産権侵害などの問題で,勝敗によって,今後の継続的なビジネスが成り立つかどうかなどがかかっているという場合なら,その局面で赤字になってでも遂行することはありうるでしょうが,少額の債権回収ではかなり事情が異なります。

 

 反対に,弁護士を立てたほうが良い場合というのは,相手が本当に訴訟提起などを受ける可能性があると感じ,かつ,現実に訴訟などをされると困るという事情がある場合です。

 

 より具体的にいうと,請求金額がある程度高額で,しかも,債権回収を試みる当事者が勝つ見込みが大きく,相手方は財務状態も悪くなく,資産を持っていて,事業継続を望んでいるような場合です。

 

 このような場合は,本当に訴訟提起などをされて,財産を差し押さえられる危険性があるため,それを嫌がって,交渉に応じることはありえます。

 

 また,訴訟に敗訴すれば,国の制度によっては,勝訴者の弁護士費用を敗訴者が一部負担させられたりします(敗訴者負担制度)し,そもそも交渉や裁判で時間をかければかけるほど,相手方としても弁護士費用がかさみます。

 

 こうしたことを嫌がって,交渉に応じ,早めに解決したほうが得だと思うわけです。

 

 また,日本に子会社などがあり,日本でビジネスをしている場合も,レピュテーションが毀損されることを嫌がって交渉に応じてくることもあります。

 

 このように,簡単にいうと,相手が「訴訟等の法的手続きをされると困る」,「訴訟などで長引かせるよりは,自分も弁護士を立てて,早めに折り合いをつけて和解して金銭的に解決したほうが得だ」と思う場合は,こちらは弁護士を立てて,交渉に進むというのが良策といえます。

 

 債権回収は,最終的には金銭の問題に帰着するので,ある程度冷静に,損得で判断する必要も出てきます。

 

 約束を反故にするような経営者は「けしからん」というお気持ちは非常にわかるのですが,怒りに任せて対応すればするほど,自社が金銭的にも時間的にも大いに疲弊していくのでは,ますます相手を利するばかりともいえます。

 

 この点は,株式投資などをされている経営者の方は,いわゆる「損切り」の重要性を想起するとわかりやすいと思います。

 

 その株に思い入れがあったり,その銘柄に期待を「裏切られた」「こんなはずではなかった」という感情的な怒りがあると,その銘柄自体で損失を取り戻そうとして望み薄のままホールドし続けたり,ナンピン買いをしたりしてしまいますが,結果として損失がより拡大してしまうことがよくあると思います。

 

 そうなるよりは,まだ含み損が小さいうちにその銘柄は損失確定させて売却してしまい,より利益を期待できる株式に乗り換えたほうがよいということはよくあることでしょう。

 

 それと同じことが国際取引に関する紛争にも言えるのです。相手の裏切り行為に対する怒りから,その取引で損失を取り戻そうとこだわってしまうと,結局膨大な弁護士費用や時間を失い,十分な回収もできず,さらに傷口を広げてしまうことが多いです。

 

 そのため,「損切り」を早めにしてしまい,利益を上げやすい別の案件で利益を上げることに集中したほうが,大局的に見て損失を回避することにつながるのです。

 

 「損して得取れ」「負けるが勝ち」の精神でぜひ大局を見てほしいと思っています。

 

 海外取引のトラブルを巡っては,ときに,大局的な視点で考えると,あえて深追いしないということも良策である場合があることを理解されておくと良いでしょう。

 

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