英文契約書の相談・質問集162 準拠法と紛争解決地が平行線なのですがどうすれば良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「準拠法と紛争解決地が平行線なのですがどうすれば良いですか。」というものがあります。

 

 英文契約書では,ほぼ必ず,準拠法と紛争解決方法と紛争解決地を定めます。

 

 準拠法というのは,その契約書に関する争いや解釈について疑義が生じたような場合に,どの国の法律を適用するかという問題です。

 

 また,紛争解決方法と紛争解決地というのは,裁判や仲裁などの紛争の解決策を選択するか,そしてそれをどこの国のどの都市で行うのかの問題のことです。

 

 これらについて英文契約書で定めていないと,国際私法の問題として,準拠法がどこの国の法律になるのかが不安定になります。

 

 さらに,裁判管轄などもその国の民事訴訟法に相当する法律によって決まるということになり,事前に明確ではなく不安定になってしまいます。

 

 そのため,ほぼ全部の契約書において,準拠法と,紛争解決方法とその地が定められます。

 

 ただ,どちらの当事者も,準拠法も紛争解決地も,通常は,自分が属する国を選択したいという事情があります。

 

 そのため,よく起こるのは,互いに自国の法律を準拠法とし,自国の都市を裁判管轄としたり,仲裁地としたりすることを主張し,交渉が平行線をたどってしまい,前に進まなくなるという事態です。

 

 確かに,通常は,慣れ親しんだ自国の法律を適用し,移動コストも安くて済む自国の都市で裁判や仲裁を行うというほうが,自社にとって有利でしょう。

 

 ただ,それは相手も同じですので,どちらも自分に有利になるように主張をし続ければ,いつまでたっても折り合いがつけられないということになってしまいます。

 

 また,この準拠法や紛争解決の地は,いざトラブルが生じたときに,基礎になるような取り決めなので,当事者に与えるインパクトが大きいという特徴があります。

 

 なんとなく,他国の法律を適用し,他国の地で裁判や仲裁をすると聞くだけで,かなり自社に不利で,相手方に有利なのではないかとの「印象」を抱かせるものです。

 

 そのため,いざ,この点で自社に有利な主張を双方が展開しだすと,双方がこだわるため,てこでも動かないような状態になることはよくあります。

 

 このようなときの打開策はいくつか存在します。そのうち,よくある典型例をいくつか紹介します。

 

 まず,代表的なのは,どちらの当事者の国でもない中立的な第三国を選ぶというものです。

 

 例えば,契約当事者が日本企業と,アメリカの企業なのであれば,中立の国として,シンガポールやスイスを選択するということがあります。

 

 第三国の法律を適用し,第三国の都市で裁判や仲裁をするとなれば,フェアだということで,条件を飲みやすくなります。

 

 どの国を選択するかは,難しい問題ですが,どちらの国にも有利にならないような中立国で,かつ,司法制度や法律がきちんと整っていて機能している国を選ぶのが良いでしょう。

 

 例えば,どちらかが地理的に遠すぎるとか,どちらかの国の法律の体系をその国も取り入れているなどとなれば,一方が有利になる可能性があるので,そのような国は選択肢から外すということになることがあります。

 

 また,いざ裁判や仲裁をしたところで賄賂が横行していたり,解決までに無駄に時間がかかりすぎたりするなど,法律・司法制度が成熟していないとその国を選択するメリットが薄いです。

 

 次に,「被告地主義」とも呼ばれることがある方法があります。

 

 これは,裁判の被告,つまり,訴えられる方の当事者が属する国の法律を適用し,その国の都市で裁判をするという内容の取り決めです。

 

 仲裁であれば,仲裁を申し立てられた方の国の法律を適用し,その国の都市の仲裁機関と仲裁規則で仲裁をするということになります。

 

 この取り決めも,どちらかに決定しておらず,いずれの当事者も同じ条件ですので,フェアだと考えられています。

 

 さらに,被告地主義とは逆に,訴訟提起する側,仲裁を申し立てる側の当事者の属する国の法律に従い,その国の都市で訴訟や仲裁をすると決めることもあります。

 

 これも,被告地主義の考えと同様で,どちらかに決まっているわけではなく,お互い条件が同じなので,フェアだという理由からです。

 

 ただし,こうした被告地主義のような取り決めを法律で認めていない国もありますので,規定の有効性については事前調査が必要です。

 

 さらに,準拠法を被告の国や原告の国の法律とすると,実際に訴訟や仲裁が申し立てられない限り,準拠法が決まらないという問題があります。

 

 加えて,仲裁の場合,単に仲裁の地を定めるだけだと,仲裁機関や仲裁規則が選ばれていないという不安定さも残る可能性があります。

 

 このように,準拠法や紛争解決地を,被告や原告の国の法律や都市とする定めには,不安定さが残ってしまうというデメリットもあります。

 

 ところで,相手国の法律を準拠法にして相手国の地で裁判などをするという取り決めが常に自社にとって不利益かというとそうではありません。

 

 相手に対して強制執行をかけるような事態が現実的に想定されるのであれば,むしろ相手国の法律を準拠法にし,相手国で訴訟をしたほうが執行までの費用と時間の面でメリットが大きいこともあるのです。

 

 以上説明したように,準拠法や裁判管轄,仲裁地で交渉が平行線をたどった場合,いくつかの選択肢があります。

 

 この他にもいくつか選択肢がありますが,どういう場合にどのような選択をするのが良いのかは,かなり難しい問題です。

 

 契約書上,その他の条件でどのような事項が交渉されているかも関わってきます。

 

 また,契約書の種類や当事者の立場によって,どの選択をしたほうが良いかどうかも変わってきます。

 

 このように,準拠法と,裁判管轄・仲裁地の問題は,一律にこうすれば良いというような対応策がない問題です。

 

 このあたりをどのように交渉していけば良いかは,正解がなく,なかなか難しいです。

 

 とはいえ,トラブルにはならないだろうと踏んで,いい加減に決めてしまうと,大きなテーマだけに,後で大きな被害にあってしまうこともあります。

 

 この問題は,弁護士の経験値によっても意見が別れたりするので,この点を交渉・調整する場合は,慎重な姿勢で臨んだほうが良いかと思います。

 

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