Foreseeable(英文契約書用語の弁護士による解説
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Foreseeableがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「予見できる」という意味で使用されます。
英文契約書に直接このforeseeableという用語を記載することはあまりないかもしれませんが,この用語自体は重要です。
例えば,損害賠償(Damages),補償条項(Indemnification/Indemnity)などにおいて,どこまでの損害を賠償・補償しなければならないかという問題に,このforeseeableかどうか,つまりは,予見可能性があるかどうかということが影響することがあります。
日本法でも,通常損害(通常生じると認められる損害)と特別損害(特別な事情に基づいて生じる損害)との2つが損害賠償の対象になるとされていますが,後者の特別損害の賠償は,賠償する側が予見可能であった場合にのみ,賠償義務が生じるとされています。
そのため,その損害が生じることがforeseeableかどうかが重要になってきます。
特別損害というのは,転売利益などの逸失利益(逸失利益が常に特別損害に分類されるということではありません)などで議論されることが多いです。
例えば,買主が,売主から商品を購入して,それを自社で使用するのではなく,第三者に転売する予定だったとします。
そうすると,例えば,売主が約束通り商品を引き渡せなかった場合,買主は,その商品の代金が損害となるだけではなく,予定していた転売利益を得られなくなる(逸失利益)という損害も受けるわけです。
この期待された転売利益が,何らかの特殊な事情で相場より高額であったようなケースにおいて,特殊事情による逸失利益分まで売主が賠償する必要がある場合が,この特殊な事情を売主が予見できた(foreseeable)場合だということです。
特殊事情を売主が予見できなかったのであれば,その特殊事情から生じた損害=逸失利益分は賠償の対象にならないということになります。
また,日本の製造物責任法においても,ユーザーが通常予見できる使用方法で商品を使用して怪我などをした場合に,メーカーが損害賠償責任を負うことがあるとされています。
そのため,もし通常予見できないような使用方法でユーザーが製品を使用して怪我などを負った場合は,メーカーは責任を負うことにはならないわけです。
したがって,ここでも,予見可能(foreseeable)かどうかが影響してきます。
ただ,この予見できる(foreseeable)かどうかというのは,幅のある判断の問題なので,一義的に線引できるものではなくあいまいなものです。
そのため,契約書で何も手当していないと,もし損害が生じた場合,各当事者が自分に有利なように予見できた,できないと主張する情景が目に浮かぶでしょう。
こうなると,この議論をしていることがコストですし,最悪裁判などで決着するということになりかねません。
海外取引で裁判をするというのは,非常に費用がかかりますし,時間もかかりますので,あまり現実的ではありません。
こうならないように,事前に英文契約書で明確にしておくことが大切になります。
逸失利益の賠償を含むのか含まないのかを明確にし,もし含まないとするのであれば,免責されることを契約書に明記します。
また,製造物責任についても,使用方法や使用上の注意を説明書などで明確に記載し,何が通常の使用方法ではないのかが明らかにわかるようにしてあれば,使用上の注意を破って使用したユーザーに対してはメーカーが責任を負う必要はないという結論に近づけます。
このように,foreseeableかどうかの判断は難しい面がありますので,foreseeableかどうかで結論が異なるというような事態は避けて,できるだけ事前に契約書で手当をしておくことが賢明といえるでしょう。