英文契約書の相談・質問集170 独占販売権がもらえない場合どうしたら良いですか。
海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「独占販売権がもらえない場合どうしたら良いですか。」というものがあります。
例えば,日本企業が,販売店(Distributor)(ディストリビューター)となって,海外メーカーの商品を日本国内で販売展開したいと考えていたとします。
この場合,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)(ディストリビューション/ディストリビューターシップ・アグリーメント)を締結して,商品を販売展開していくことになります。
この販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)には,大きく分けて,独占的な販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)と,非独占的な販売店契約(Non- Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)との2種類があります。
なお,たまに独占販売店(Exclusive Distributor)を表す英語として,Sole Distributorという表現を使うことがあります。
このSoleとExclusiveの違いは,一般的には,Soleは「唯一の」という意味ですので,メーカーがその販売地域でほかの販売店(Distributor)を指名できないという制約のみを意味するのに対して,Exclusiveとした場合は,「排他的」という意味ですので,ほかの販売店(Distributor)を指名できないことに加え,メーカーもその販売地域の顧客に直接商品を売れないという制約も受ける点にあるとされています。
ただ,このような解釈が世界中で確定しているわけではないので,このような用語の違いに頼るのではなく,契約書に記載するときは「独占」の具体的な内容を書き込むことをおすすめします。
独占販売権の場合,日本(販売地域・Territory)において,指名された販売店(Distributor)以外には,販売店(Distributor)が指名されないということになります。
そのため,販売店(Distributor)となる日本企業としては,日本における商品販売の利益を独占できるというメリットがありますので,独占販売権(Exclusive Sales Right)を取得するべく海外メーカーと交渉をすることがよくあります。
ただ,海外メーカーとしては,まだ実績がない日本の販売店(Distributor)に,最初から独占販売権を付与することについては,躊躇することがあります。
その販売店(Distributor)に,独占販売権を与えてしまうと,もしパフォーマンスが悪く期待通りに商品を販売展開してくれなかったとしても,契約期間中は,他の販売店(Distributor)を指名できないため,海外メーカーには機会損失が生じてしまいます。
そのため,海外メーカーとしては,最初から独占販売権を付与するのではなく,ひとまず非独占的な販売店契約(Non-Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)を締結して,様子を見たいと考えることがあります。
このような場合,販売店(Distributor)としては,独占的な利益を得ることは不可能になってしまうのでしょうか。
確かに,契約上は,最初から独占販売権を取得するのが難しいことはよくあります。
ただ,海外メーカーとしても,商売ですので,日本の販売店(Distributor)の販売実績がよく,販売戦略やブランディング戦略,マーケティングプランなどが,海外メーカーの考えている内容と合致していたり,販売店(Distributor)が持っている販売チャネルが強固なものであったりすると,その販売店(Distributor)に集中して売ってもらったほう良いと考えることもあります。
販売店(Distributor)の販売網や販売戦略が優れていると,割と短期に商品が売れ出し,先行者利益を生むことがあるのです。
他にも,売り方を工夫し,商品のストーリー作りをしたり,その商品を扱う想いを言語化したりして,商品のファンを増やしていきます。
今は,商品の品質だけでは差別化できない時代ですので,積極的に売り方やファン作りの方法を工夫していきます。
販売店(Distributor)がその業界での老舗であれば,それも差別化要因になります。
こうなると,後発組として,販売店(Distributor)の指名を別の会社が受けたとしても,思ったように販売数が伸びないということが起こります。
こうなれば,海外メーカーとしても,信用できるかどうかもわからない,実績もない別の会社を,その販売地域(Territory)で販売店(Distributor)指名する動機がないということになります。
そして,契約書上は非独占契約なので他の販売店を指名することが可能であってもそれをせず,しばらくは,その販売店(Distributor)だけを指名した状態で,販売を継続するということが起こりえます。
その後も,販売店(Distributor)が十分に販売実績を出し,販売チャネルにおける強固な信頼関係を海外メーカーに見せつけていきます。
そうすると,海外メーカーもだんだんと販売店(Distributor)を信頼し,依存するようになってきます。
こうなれば,販売店(Distributor)としても,独占販売権(Exclusive Sales Right)を取得し,独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)に切り替えることを交渉しやすくなります。
このようにして,最終的に独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)の締結に至るということもあります。
ポイントは,相手もビジネスで行っていますので,海外メーカーが喜ぶような提案と行動を行い,結果に結びつけていくことです。
販売店(Distributor)として自信がいくらあってそれをプレゼンしたとしても,最初は実績を示していないため,海外メーカーとしても疑心暗鬼になっていることがあります。
これを口頭で説得するのではなく,行動で示して説得するイメージです。
他者にはない強みを販売店(Distributor)が持っていて,それを実績値として海外メーカーに示すことができれば,徐々に態度が軟化してくるということはあります。
最初の契約の段階で独占販売権をもらえないからといって,取引をやめたり,強引な交渉をしたりすることなく,行動で説得するということが功を奏することもありますので,あせらずセカンドチャンスを狙うというのも一つの戦略であることを覚えておくと良いでしょう。
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