英文契約書の相談・質問集176 損害額は当事者が協議して定めるという内容は無意味ですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「損害額は当事者が協議して定めるという内容は無意味ですか。」というものがあります。
契約書は,円満に話し合って解決できるならば必要ないという側面があります。
例えトラブルになっても,きちんとお互いが合理的・客観的に冷静に話し合って,妥当な結論で和解できるのであれば,契約書などなくても,事実上問題は起きないでしょう。
でも,現実は,お互いが自分の利益を主張し,妥協点が見いだせなくなることがあるので,契約書で予め決めておこうということなわけです。
これは,夫婦の関係が悪くなり,別居することになって,冷静に話し合おうといっても難しいところがあるのと同じです。
つまり,話し合う必要がないように予め解決策を書いた契約書を作成しておくという側面があるわけです。
であれば,損害額について交渉する必要があるというときは,どちらかの当事者に損害が生じてしまい,それを相手方に賠償させたいという揉め事があるときです。
こういう場合に,「当事者が話し合って決める」などとという規定はほとんど何も決めていないのと同じでしょう。
話し合ったとしても,話し合いの内容が合意できるようなものでなければ,「それで?」となってしまいます。
そして,その「それで?」の質問への回答が契約書には書いていないことになります。
このように,単に「話し合いによって解決する」という文言はほとんど意味をなさないという場合が多いのです。
特に海外取引では,文化,言語,商慣習,法律も違うので,単に話し合いを義務付けただけの条項はより意味がないことが多いでしょう。
ただ,では,損害額を予め書いたほうが良いのか,計算式のようなものを書いたほうが良いのかというと,それもそうとは限らないという難しい事情があります。
では,損害を賠償するとだけ書いておき,損害額について協議するなどという無駄な文言は書かないほうが良いのかという疑問がわきます。
矛盾するようですが,書いておいたほうが良いという考えもありえます。
話し合いを義務付けておけば,いきなり訴訟を提起されたりすることはなくなる可能性が高くなります。
また,一義的に損害が決まるということはなく,話し合って合理的な妥協点を見つけようという姿勢が書かれていますので,クレームする側から一方的に金額を突きつけられた際に,「まずは交渉しましょう」と突き返す根拠に使える可能性があります。
さらに,例えば,商品の売買契約で,買主が第三者から知的財産権侵害の損害賠償請求を受けて,それを支払った場合に,売主にその賠償額の補償を求めるというような場合,買主がよく根拠も検討せずに,第三者の言い値で賠償してしまうということを抑止する効果も期待できます。
話し合いもせずに,勝手に第三者に対し,言い値での高額な損害賠償をしてしまうことを防ぐということです。
このように,実質的に無意味と考えられる「誠実協議」条項なのですが,全く無意味とまではいえないところがあります。
とりわけ,紛争解決条項などでよく見られる「訴訟や仲裁の前に,代表者や役員同士が一定の期間交渉して,それでも解決しなかった場合にのみ,訴訟や仲裁ができる」という規定は,紛争解決のプロセスを具体的に規定するものですので,意義が大きいことがあります。
このような紛争解決時に取るべきプロセスを記載した規定は,海外取引の契約書でもよく見られます。
→【英文契約書の相談・質問集177】「合理的な」損害額という表現はあいまいではないですか。
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