英文契約書の相談・質問集181 契約書で製造物責任(Product Liability)を免責にできますか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「契約書で製造物責任(Product Liability)を免責にできますか。」というものがあります。

 

 販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などでは,製造物責任(Product Liability)について記載することがあります。

 

 製造物責任(Product Liability)とは,簡単にいうと,製品に欠陥があり,その欠陥が原因で,人が怪我をしたり亡くなったりした場合の損害や,物が壊れてしまった場合の損害について,メーカーなどがユーザーに対して責任を負うというものです。

 

 日本の「製造物責任法」をはじめ,多くの国で,この製造物責任(Product Liability)に関する法律が定められており,メーカーは,欠陥製品により怪我をしたり死亡したりした人の損害を賠償することが義務付けられています。

 

 通常,この製造物責任(Product Liability)は,メーカーに過失がなくとも,責任が認められます(無過失責任)し,約款などでユーザーに対して免責を定めておいても免責規定は無効となるとされています。

 

 ただ,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などで,メーカーと販売店(Distributor)との間で,メーカーが製造物責任(Product Liability)を販売店(Distributor)に対して負わないという規定自体は有効になることがあります。

 

 直接被害を被ったユーザーが,メーカーにクレームをしてきた場合,ユーザーに対してはメーカーは免責されませんが,このユーザーがまずは販売店(Distributor)にクレームを入れ,販売店(Distributor)がユーザーに賠償し,これをさらにメーカーに賠償してきたような場合の免責規定です。

 

 この規定は,メーカーと販売店との契約当事者間の合意ですので,有効になる余地があるわけです。

 

 ただ,以下に述べるとおり,メーカーは,こうした賠償責任について簡単に完全な免責は受けられないという点に注意が必要です。

 

 製造物責任が問題になるときは,商品に欠陥がある場合ですから,契約責任として契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)や,契約書上の保証条項があればそれによって,メーカーが売主の立場で責任を負うことがあるからです。

 

 メーカーが,契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)も免責としておき,品質保証もせずに現状有姿で製品を販売していたというような場合でなければ,製造物責任でなくとも契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)や保証責任として損害賠償請求を受ける可能性があるわけです。

 

 製造物責任(Product Liability),契約不適合責任(旧瑕疵担保責任),保証責任すべてについてメーカーは免責されるという内容は,なかなか販売店(Distributor)に受け入れてもらえないでしょう。

 

 そのため,メーカーが一切の責任から免責されるというのは,相当にハードルが高いのです。

 

 なお,契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)や保証責任は契約書に定めておき,製造物責任(Product Liability)だけが免責されるという内容であった場合は,ユーザーの人身事故に関する損害分については,メーカーは販売店(Distributor)に対して責任を負わないと解釈される可能性があります。

 

 つまり,メーカーは,契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)または保証責任として欠陥商品の代金を販売店(Distributor)に返金する必要があるが,それ以外のユーザーの人身事故についての損害は製造物責任(Product Liability)に関する損害のため免責されるということです。

 

 契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)や保証責任とともに,責任制限(Limitation of Liability)を定めておき,製品の代金を賠償金額の上限とするという内容が英文契約書に書かれていることもあります。

 

 この場合は,より明確に,商品の代金分についてはメーカーが販売店(Distributor)に賠償する必要があるが,ユーザーの人身事故に関する損害については賠償責任がないとされる可能性が高まります。

 

 このように,一つの事象が生じた場合,理論的にいくつもの責任が同時に生じうることがありますので,どの場合にどの責任が生じうるのかをよく考え,どれを免責にするのが有効なのかを考える必要があります。

 

 そして,契約には相手がいますので,相手の都合も考え,どういう内容であれば,相手も妥協し合意できるのかについてもよく考えて,英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際に免責規定を作る必要があります。

 

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