英文契約書の相談・質問集182 雇用契約書のひな形を作っておけば各国で使えますよね。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「雇用契約書のひな形を作っておけば各国で使えますよね。」というものがあります。
この質問に端的に結論だけで回答すると,「使えません。」ということになります。
確かに,多くの国では「私的自治の原則」や「契約自由の原則」という考えが採用されていて,基本的に契約当事者がこうしたいと考えて合意した内容には,国の法律は介入しないということになっています。
そのため,契約書で実現したいビジネスの内容を自由に合意できるのが原則です。
ただし,常に当事者の自由にさせていると,弱い立場にある当事者のほうが虐げられたり,一方的にどちらかが不利益を受けたりして,バランスが悪いこともあります。
そのため,多くの国が,当事者が自由に合意できず,当事者の意思に反して強制的に適用される強行法規/強行規定という法律を定めています。
こうすることで,弱い立場になりがちな人々を救済し,契約上の地位のバランスを取るわけです。この強行法規/強行規定の典型例が,労働法なのです。
日本の労働法でも,当事者が法律と違う内容で納得して合意したとしても,法律が強制的に適用される場面がたくさんあります。
例えば,労働者が残業代はいらないといって,企業と労働者が残業代は支払われないという合意をしたとしても,労働者は残業代を請求できます。
法律で残業代は必ず支払わなければならないと規定されていて,これに反する合意は無効だからです。
このことは,例え日本企業と労働者が外国法を適用法とすることを合意していたとしても,労働者が日本法を適用するとの意思を表示した場合には日本法が適用されうる(法の適用に関する通則法第12条第1項)という意味で変わりはありません。
なお,日本企業が自社の従業員を海外に赴任させる場合にも注意が必要です。
現地に赴任する従業員との間で準拠法を日本法とする旨の合意をしていないと,法の適用に関する通則法第12条第3項により,現地の労働法が適用される余地があります。
また,従業員と日本法を準拠法とする旨の合意をしていたとしても,現地法により労働者保護の強い強行法規/強行規定が存在していた場合に,当該従業員が現地法の適用を主張した場合,その法律が適用される可能性があります(法の適用に関する通則法第12条第1項)。
雇用契約書(Employment Agreement)は,労働法が絡むため,日本企業が自社の都合が良いようにひな型を作成しても,現地の労働法等の規制を受けることがありうるため,その内容が通用しないことがあります。
そのため,現地の弁護士にきちんとレビューしてもらい,現地の労働法制に従った内容で契約書を作っておかないと,リスクだらけの契約書になってしまうことになります。
では,President,CEO,Managing Directorなど経営者との委任契約書(Service Agreement)はどうでしょうか。
これは,雇用契約よりは修正される内容は少ないとは思いますが,雇われ社長などという言葉があるように,経営者と現地法人との間の契約書であったとしても,現地の労働法などにより一定の修正を受けることがありえます。
特に解任について法律や判例で制限されていることがありますので,注意が必要です。
労働法や会社法については,国によって相当に内容が異なるのが実体です。
そのため,安易に,日本の実務に従って作成した雇用契約書や委任契約書を他の国でそのまま使用していると,思わぬ重大なリスクが眠っていることになりかねません。
特に解雇・解任については,その効果を争われてしまうと現地法人の経営に重大な影響を及ぼす可能性がある重大テーマです。
解雇や解任について現地の法律の内容を正しく把握しておらず,日本の法律の考えで現地法人を管理していると,非常に危険です。
そのため,本社としても,現地法人が雇用している従業員や,経営を委託している経営者との契約がどのような内容で縛られているのかは,現地の弁護士に相談するなどして,把握しておく必要があります。
解雇や解任は法的トラブルになることが多いテーマですので,せめてこうした重要なテーマについては,予め現地の法律の内容を把握しておいたほうが無難でしょう。
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