英文契約書の相談・質問集183 Specific Performance(特定履行)とは何ですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「Specific Performance(特定履行)とは何ですか。」というものがあります。
これは,英米法上の概念です。
英米法では,契約違反(Breach of Contract)があった場合の,救済措置(Remedy)には,大きく分けて,コモンローによる救済手段(Legal Remedy)と,エクイティ(衡平法)による救済措置(Equitable Remedy)があります。
コモンローとエクイティは,別の法源ですが,両方とも法的効力がある法律のようなものと考えて問題ありません。
Specific Performance(特定履行)は,後者のエクイティ(衡平法)上の救済手段になります。
コモンロー上の救済措置の代表は,損害賠償求(Damages)です。
契約違反の場合の救済措置は,原則としてコモンロー上の救済措置となるので,損害賠償(Damages)が基本ということになります。
ただ,例えば,ある彫刻家のこの彫刻を買ったというようなケースで,売主が売ったにもかかわらず気が変わって彫刻を引渡してくれないというときは,買主としては,お金を返してもらうより,その彫刻を引渡して欲しいわけです。
このような場合に,裁判所から当該彫刻の引渡命令をもらうのが,このSpecific Performance(特定履行)という救済措置(Remedy)になります。
「この彫刻家のこの彫刻作品」という場合,世界に一つしかないので,代替品の調達ができません。
このような場合に,例外的にその彫刻そのものを引き渡すように命じるというのが,Specific Performance(特定履行)による救済いうことになります。
他にも,Injunction(差止命令)も代表的なEquitable Remedyの一つです。
Injunctionは,秘密保持契約書(NDA)などでよく登場します。
前述のとおり,コモンロー上の原則的な救済措置(Remedy)は損害賠償(Damages)なわけですが,秘密保持契約書の違反の場合,その秘密を不正に利用されたら,秘密情報を保持していた企業のビジネス自体が価値のないものになってしまうというようなことがありえます。
そうすると,金銭による損害賠償だけでは,秘密情報を不正利用されたことについての損害回復として足りない,または,適切な賠償の金額など算定できないという事態がありえるのです。
このような場合に,情報受領者の情報の利用を差し止める命令を裁判所に出してもらうことができます。
これが,エクイティ上の救済措置(Remedy)であるInjunctionということになります。
トラブルになること自体そう多くはないでしょうし,もしトラブルになっても訴訟提起はハードルが高いため,実際に裁判所にエクイティ上の救済措置を求めて申立てをするということはあまりないとは思います。
ただ,上記のような場合に備えて,英文契約書では,Specific Performance(特定履行)やInjunction(差止命令)などについて規定することがよくあります。
そのため,英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際には,それぞれどういう意味なのかくらいは理解しておくと良いと思います。
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