英文契約書の相談・質問集184 Liquidated Damages(損害賠償の予定)の金額を決めるときの注意点は?
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「Liquidated Damages(損害賠償の予定)の金額を決めるときの注意点は?」というものがあります。
Liquidated Damages(損害賠償の予定)とは,契約当事者が契約違反をした場合の損害賠償の額を予め決めておくことをいいます。
相手方当事者が契約に違反して自社が損害を受けたという場合に,それがいくらであるのか,損害額の立証が難しい場合があるので,その場合に備えて,このLiquidated Damages(損害賠償の予定)を損害額として予め定めることがあります。
例えば,相手方が契約上の守秘義務に違反して,自社のノウハウを勝手に利用して類似品を製造して売っていたというようなときに,それによって,自社の利益がどれくらい奪われたのかを実際に立証するのは難しいわけです。
このような場合に備えて,予め契約書に,契約違反があった場合,「いくらを損害として賠償する」と,当事者が事前に約束して記載しておくのです。
では,この損害額を決める際にどういう点に注意しなければならないでしょうか。
まず,想定される損害よりも高すぎると,英米法の考えでは,Penalty(罰則)として無効とされる可能性があります。
英米法の下では,Liquidated Damages(損害賠償の予定)は有効である一方,Penalty(罰則)の定めは無効とされているのです。
日本法でも,本来契約違反によって想定される損害よりあまりにも高額であるという場合は,公序良俗違反などによって無効となることがあるでしょう。
そのため,その契約違反によって発生すると通常想定される損害額より高額にすぎるということがないようにしなくてはなりません。
反対に,損害額が少額すぎると,そもそも契約違反をしないという相手方に対する動機付けにならない可能性が出てきます。
損害賠償義務があることによって契約違反に対する一定の抑止効果を期待できるわけですが,損害賠償の予定額が少なすぎると抑止効果が弱いということです。
実際,アメリカには,Efficient Breach(効率的違反)という概念があります。
これは,要するに契約違反をしたほうが「お得」であれば,積極的に契約違反をするべきだという考えです。
どういうことかというと,例えば,当事者が契約違反をすることにより1,000万円の利益が出るとします。
他方で,英文契約書には,契約違反をした場合のLiquidated Damages(損害賠償の予定)として,700万円という金額が定められていたとします。
そうすると,違反をすることで300万円の利益が出ることになります。
こういうときには,契約違反をしないという抑止力になるどころか,違反しても儲かるので積極的に契約違反をするべきだという考えです。
こうなってしまうと,Liquidated Damages(損害賠償の予定)を定めたことにより,かえって,契約違反を促すという本末転倒な事態を引き起こすことになりかねません。
また,情報提供者の秘密情報を悪用して行う類似品販売のように毎年継続的に利益を上げられるようなビジネスの場合,違反し続ければどんどん利益が増えるということにもなりかねません。
そのため,Liquidated Damages(損害賠償の予定)を定めるときは,契約違反を抑止しつつ,Penalty(罰則)や公序良俗違反などにより無効にならない程度の金額にすることが重要です。
これにはやはり,実際に違反があった場合,どの程度の損害になるのかの見込額を算出する必要があるでしょう。
そうしないと,基準値がないため,高すぎる,安すぎるという判断のしようがないからです。
そもそも実際の損害額の立証が難しいの損害賠償の予定を定めようとしているわけですから,損害額の算定は難しいところがありますが,これまでの実績や過去の類似事例・判例などを見ながら予測していくということになるでしょう。
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