英文契約書の相談・質問集186 先方に都合の良いことばかりを押し付けられるのですが。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「先方に都合の良いことばかりを押し付けられるのですが。」というものがあります。
特に,取引の開始段階や,取引が長く続いていても,先方にM&Aなどが起こって,経営陣が交替したというようなときに,この問題は起こりやすいといえます。
取引関係は,どうしても,利益相反的な側面があります。
例えば,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)であれば,卸価格を高くすればサプライヤーの利益になりますが,それは販売店(Distributor)にとっては不利益です。
逆に,独占販売権を販売店(Distributor)が得るということは,販売店(Distributor)の利益になりますが,販売店(Distributor)のパフォーマンスがサプライヤーの期待よりも低ければ,独占販売権を与えたことはサプライヤーの不利益になります。
このように,取引関係に入ると,どちらかの利益になることは,他方の不利益になる側面があることは否定できないわけです。
こうした利益相反的な関係性があるため,自社の利益ばかりを追求すると,反対の当事者からすれば,不利益ばかりを強要されているように感じることになります。
特に,取引の初期段階や,経営陣が交替したというタイミングは,双方が疑心暗鬼になりがちです。
サプライヤーが,卸価格の値上げを要求すれば,販売店(Distributor)が警戒しますし,販売店(Distributor)が競合品を扱いたいといえば,サプライヤーは警戒します。
お互い,特に相手に嫌がらせをしてやろうとか,取引をできないようにしてやろうとか,不当な意図があるわけではなくとも,警戒心があるなかで交渉をしていると,どうしても勘ぐってしまいがちです。
「本当は取引を中止したくて,無理難題を行っているのではないか。」,「こちらが飲めないとわかっていて要求しているのではないか。」,「足元を見られているのではないか。」などど,疑い出すとキリがありません。
また,信頼関係が大切な取引関係にも亀裂が入り,お互いにビジネスがうまくいかなくなってきてしまいます。
当然,取引関係を築くということは,お互いが利益を上げて事業全体を成長させてWin-Winの関係を作ることに意義がありますから,どちらかが儲けてどちらかが損をするというゼロサムゲームのような状態では問題なわけです。
こういうときは,代替案を出す,カウンターオファーを出すという姿勢が重要です。
ただ単に自社に有利な条件を出すとか,ただ単に先方に有利な条件を断るというのではなく,提案するなら,何か相手に有利な条件も付ける,受け入れる代わりに,相手にもこれを受けてもらうように提案してみるなどが大切です。
それには,お互いにとってその取引で何がボトルネックになっているのか,真の悩みはどこにあるのかをさぐって,提案をすることが大切です。
単純に自分に都合の良いことを伝えるという交渉をするのではなく,適切な質問を投げかけ,相手が何に悩んでいるのか,相手がこのビジネスを成長させるために必要と考えていることな何なのか,こうしたことを理解しようとしつつ,交渉するのです。
そうしないと,自社に有利な提案をするだけ,相手も不利であれば断るだけとなってしまい,提案する側は断られて,不満が募りますし,提案された側も受け入れられないような提案ばかり受けると,どんどん不安になってしまいます。
取引関係は,いわば利益相反的な立場に立たされるものだということを理解しつつ,相手の立場も考える前提でのコミュニケーションを図ることが,特に文化も法律も商慣習も異なる企業同士の海外取引では,大切だと思います。
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