英文契約書の相談・質問集189 海外本社が契約書の修正を一切認めない場合どうすればいいですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「海外本社が契約書の修正を一切認めない場合どうすればいいですか。」というものがあります。
日本企業が販売店(Distributor)となって,海外メーカーと販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結して,日本の顧客に商品を販売展開するというときに,海外メーカーが作成している契約書をそのまま顧客との間で使うようにと指示されることがあります。
これは,ソフトウェアの販売などでよく起こります。
ソフトウェアの販売の場合,販売店(Distributor)が顧客にソフトウェアを販売して終わりではなく,使用条件やその後のメンテナンスなどがあるため,メーカーの用意した契約書そのものに日本の顧客がサインする必要があるということになります。
ただ,日本の顧客の場合,長文でわかりにくい傾向にある英文契約書を敬遠しがちです。
そのため,オリジナルの英文契約書のままでは日本の顧客がサインしてくれないということがよく起こります。
この場合の対策としては,英文契約書を和訳して日本語の契約書にして使うという方法です。
この方法は,海外のメーカー本社も認めてくれることがあります。
ところが,これでも問題が起こります。英文契約書を和訳すると,長文になりますし,どうしても翻訳の限界として文意がわかりにくくなるということがあるからです。
そもそも英文契約書は一般的に英米法の概念で作られており,日本語や日本法の概念にはない概念が入っていたりもしますので,余計にわかりにくくなります。
そうすると,体裁は和文契約書であっても,日本の顧客からすると,内容が不気味でよくわからない契約書だということになり,そのままではサインしてくれないということが起こります。
この場合,顧客の要望に応じて,契約書の一部を修正したり,削除したりする必要が生じます。
ただ,海外本社としては,本来オリジナルの英文契約書の内容は一切変更したくないという方針なので,この修正はなかなか受け入れてもらえないということになります。
こうした場合は,丁寧に日本の法律について説明し,なぜ顧客が受け入れないのかについても説明し,できるだけオリジナルの英文契約書の内容と実質的な意味が変わらない内容で日本語での修正案を提示していくということになります。
ただ,まったく英文の内容と意味を変えずに修正することはできないので,できるだけ影響が小さいように修正するということになります。
削除する場合は,より困難なのですが,その理由と日本の法律にしたがった場合の帰結などを説明し,本社に修正を受け入れてもらえないか交渉します。
他にも,いったん英文の契約書のオリジナルの内容のまま和訳した契約書に顧客にサインしてもらい,その後日本語の覚書で必要な箇所の修正をするということもあります。
この方法をとっても契約の内容を変更することに違いはないのですが,このやり方のほうが,形式的には契約書はそのまま締結されるので,契約書の内容そのものを修正するよりも,本社に受け入れられやすいことがあります。
なお,この和文契約書の削除・修正の際に,販売店(Distributor)である日本企業が注意しなければならない点は,和文契約書を修正したことにより,メーカーに責任を転嫁できず,自社が責任を負うことにならないかという点です。
例えば,オリジナルの英文契約書では,メーカーが免責されると書いてあるのに,日本の顧客がそれをいやがって,免責規定を削除するように要求したとします。
これを,販売店(Distributor)である日本企業が受け入れてしまうと,もし顧客が責任追及をしたいと場面が生じた場合,顧客は和文契約書に基づき販売店(Distributor)である日本企業にクレームをし,貴社は責任を負うということになります。
ところが,メーカーとの間の販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)では,メーカーが免責されていますので,販売店(Distributor)である日本企業はメーカーに責任追及ができません。
このように,ソフトウェアに問題があるにもかかわらず,最終的な責任は,メーカーではなく,販売店(Distributor)である日本企業が負うことになるということがありえるのです。
このようなことにならないよう,基本的には,メーカーとの間の販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)の責任分配と,販売店(Distributor)である日本企業と顧客との間の契約書の責任分配の内容は同じであるべきということになります。
こうした契約書の関係を,「Mirror(鏡)の状態にある」という言い方をすることがあります。
間に介在する者として自社がすべての責任をかぶるということになっていないか,日本企業が販売代理店となる場合は注意して契約書を作成しましょう。
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