英文契約書の相談・質問集197 Attorney-client privilege(秘匿特権)とは何ですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「Attorney-client privilege(秘匿特権)とは何ですか。」というものがあります。
イギリスでもアメリカでも,Attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)というものが存在しています。
これは,イギリスでいうところのDisclosure,アメリカでいうことろのDiscoveryという証拠開示制度に関連して認められている特権です。
証拠開示制度とは,簡単にいうと,裁判手続の際に,当事者は事件に関係するすべての証拠を開示しなければならず,事件に関連する証拠を隠し持っていてはならないという制度です。
日本には,イギリス・アメリカのような証拠開示制度はなく,限定的な文書提出命令がある程度ですので,事件に関係ある証拠がすべて訴訟に出されるわけではありません。
そのため,日本にはAttorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)という概念はありません。
余談ですが,私がイギリスに留学中,ロンドンの弁護士に,「日本は,証拠開示制度がなくってどうやって裁判しているの?」と真顔で聞かれたことがあります。
確かに,証拠開示制度が前提になっている国で裁判をしていれば,自社に不利な証拠は裁判に出さなくてもよいし,相手も相手に不利な証拠は出さなくてもよいとなると,真実が明らかになるはずもなく裁判にならないのではないかと考えるのも理解できます。
ちなみに,アメリカのDiscoveryのほうがイギリスのDisclosureよりも開示範囲が広いといわれています。
最近では,e-Discoveryなどと呼ばれ,電子データなどの開示も要求されていますので,開示範囲が膨大です。
この証拠開示に対応する業務を提供する業者があるくらいです。
この証拠開示制度の例外に当たるのが,Attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)ということになります。
簡単にいうと,依頼者が依頼した弁護士とのやり取りは,証拠として開示しなくて良いということです。
依頼者が弁護士に相談する際には,弁護士に対し,自社とって有利なことも不利なことも含めてすべてを伝え,アドバイスをもらう必要があります。
弁護士も,依頼者のためだけに,依頼者にとって利益になるアドバイスをします。
それなのに,依頼者と弁護士の通信記録などもすべて証拠開示の対象になってしまっては,せっかく依頼者のためだけにされた弁護士のアドバイスが公開されてしまうので意味のないものとなり,ひいてはそもそも弁護士から適切なアドバイスを期待できなくなってしまいます。
そのため,Attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)が認められているのです。
ただし,このAttorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)は,認められるための要件が複雑です。
また,Attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)の例外というものもあり,ある要件を充たすと,弁護士と依頼者のやり取りであっても,開示しなければならなくなるということもあります。
そのため,訴訟に至る可能性のあるようなデリケートな紛争となった場合,現地の弁護士の指示にきちんと従い,不用意にAttorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)を失うことがないようにしなければなりません。
私がイギリスの法律事務所で執務していたときも,日本のクライアントが不用意な行動で,このAttorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)を自ら放棄してしまったというケースを見たことがありました。
海外展開は,いろいろな問題が自国内で完結しないので,「郷に入っては郷に従え」の精神で,現地の法制度などの調査を怠らないことが大切です。
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