英文契約書の相談・質問集200 一度締結した契約内容を変更するときの注意点はありますか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「一度締結した契約内容を変更するときの注意点はありますか。」というものがあります。
一度契約した内容を後に改定(Amendment)する際に注意しなければならない点はあるでしょうか。
日本法が準拠法となっていれば,契約内容の変更については,当事者が変更後の内容を承諾していれば,特別な注意点はないかと思います。
ただし,準拠法が英国法やアメリカの州法などになっているときは,注意が必要です。
なぜなら,considerationという考え方が英米法には存在しているからです。
Considerationは,日本語では,「約因」と約されていますが,簡単にいうと,「対価」のようなものを指します。
英米法の世界では,要するに,当事者のどちらかが一方的に義務だけ負うような約束はこのconsideration(約因)を欠いて無効であり,どちらの当事者も何らかの負担を負うようにして,約因がある状態にしないと契約は有効にならないという考えを採用しているのです。
ちなみに,consideration(約因)がないと契約が有効にならないという考えは,日本法にはありません。
そのため,例えば,契約書において英国法が準拠法になっている場合に,契約当事者の一方が,契約期間の途中で相手方当事者が一方的に不利になる負担を受ける内容の契約改定案を提案したとします。
この場合,いくら提案を受けた相手方当事者がそれで良いと考えても,相手方の当事者は従来の契約と全く同じ義務を負っているだけということになると,約因がないので,その変更は無効になる可能性があるのです。
例えば,会社と取締役との委任契約において,会社が取締役との委任契約を終了させる場合の猶予期間が当初の契約では1年間とされていたとします。
これを,会社が6ヶ月に短縮したいと考え,取締役も合意したとします。
この変更は,取締役が一方的に不利益を受け,会社は何らの対価性ある義務などを新たに負っていないので,consideration(約因)を欠いて,変更は無効となる可能性があるのです。
無効となることを防ぐためには,そのような不利益変更をする代わりに,報酬を少し増額するなど,取締役が受ける不利益に対し,会社側も何らかの負担をすると決めるとよいでしょう。
そうすることにより,consideration(約因)があるということになり,変更は有効になりやすいということになります。
日本にはない概念ですので,英米法が適用される契約書については,このconsideration(約因)という概念に注意する必要があります。
余談ですが,このようなconsideration(約因)という対価を意識するのが英米法の国の人々なので,交渉時に,自社に有利な内容を一方的に提案しても,受け入れてくれないですし,相手方の提案を単に飲めないと言っても受け入れてくれないことがよくあります。
これは,「そういう要求するなら,そちらも何か譲歩をしてよ」,「単にこちらの提案を受けないというのではなく,こういう条件なら受けられると,カウンターで条件を提案してよ」というconsiderationに基礎づけられた考えがあるからという場合があります。
そのため,交渉の際もこのconsideration(約因)を意識してみると良いと思います。
以上のように,英米法の世界では,契約を締結する場面だけではなく,契約内容を変更する場面でもconsideration(約因)の存在は問題になりますので,注意する必要があります。
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