英文契約書の相談・質問集232 裁判管轄を被告の地の裁判所にする際の注意点を教えて下さい。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「裁判管轄を被告の地の裁判所にする際の注意点を教えて下さい。」というものがあります。

 

 国際取引では,紛争が生じた際にどこの裁判所で訴訟をするのかという管轄権を予め合意して,英文契約書に記載しておくことが通常です。

 

 そうしないと,管轄について取り決めた準拠法の内容によって管轄裁判所が決まることになり,不安定・不明確になってしまうからです。

 

 ところが,契約当事者は,いずれも自社の属する国の裁判所で裁判をすることを主張しがちです。

 

 これは,具体的に考え抜いて,いざとなれば自国の裁判所で訴訟をするのが自社に有利だと判断しているというより,「なんとなく」自社が所属する国の裁判所のほうが安心だからというような抽象的な理由で主張されていることも多いです。

 

 こうして両当事者が自国の裁判所を主張して譲らないため,なかなか国際裁判管轄についての合意ができないということもよくあります。

 

 この場合の妥協案として,両当事者の所属国ではない第三国の裁判所を指定したり,訴えられるほうの当事者(被告)の属する国の裁判所を指定したりすることがあります。

 

 後者の場合を,被告地主義と呼ぶことがあります。

 

 この被告地主義を採用する場合に注意しなければならない点がいくつかあります。

 

 まずは,当然,自社が訴えるときは相手の国の裁判所に訴えなければならないので,相手の国の司法制度は信頼できるものか,訴訟を担当してくれる弁護士は見つかるかなど,訴訟の制度の充実度をチェックする必要があります。

 

 発展途上国の中には,司法が自国に属する企業に有利なように機能していたり,執行制度が整ってなくて実質的に機能していなかったりすることがあるので,注意が必要です。

 

 中には賄賂が横行しているという国も存在しています。

 

 このような国が被告の地になる場合は,被告地主義を採用せず第三国を管轄裁判所とする合意などをしたほうが良いこともあります。

 

 次に,被告地主義を採用する場合,それに伴って,「準拠法についても被告の国の法律に従う」と契約書で定められることが多いのでその点にも注意が必要です。

 

 このように契約書に定められていた場合,裁判するところまではいかないが,クレームを出したいというときに,クレームを出す段階から,クレームを受けている側の国の法律に従うことになるのでしょうか。

 

 英文契約書の文言上は,そうは書いていないこともあります。

 

 そうなると,厳密には,まだ訴えていないので準拠法が明確ではないということになってしまいます。

 

 もっとも,「訴えを受けることが予定されているほうの当事者の国」などの表現をしておけば,クレームを受けている側の国の法律に従うということでほぼ争いはなくなるでしょう。

 

 また,このような表現がされていなくとも,通常は,訴訟提起の場合に被告の地の法律に従うのであれば,その前段階のクレーム・交渉段階でも同一の法律に従って解決を図ることになるとは思います。

 

 さらに注意点を挙げると,被告地主義の場合,例えば,Aが相手方BをBの国の裁判所で訴えて,逆に,BがAをAの国の裁判所で訴えるということが理論的にありえます。

 

 具体的には,Aは代金を支払い済みだとして,B国で債務不存在確認訴訟を提起し,Bは代金の支払いを受けていないので,A国で代金の請求訴訟を提起するようなケースです。

 

 この場合,訴訟提起を受けた裁判所がその裁判所に管轄権があるかを判断することになります。

 

 そして,A国とB国の裁判所がそれぞれ管轄権を認めた場合,実質的に同じ案件の判断が別々の裁判所でなされるということがありうるということになってしまいます。

 

 もっとも,そう頻繁に起きるケースではないので,被告地主義を採用することを避けるべきだと,まで言いたいわけではありません。

 

 一応,被告地主義は上記のような特徴を持っているので,事前にこのような特徴についても検討しておくのが良いかと思います。

 

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