英文契約書の相談・質問集246 EU圏内の国の販売店に対し販売地域制限はできますか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「EU圏内の国の販売店に対し販売地域制限はできますか。」というものがあります。
例えば,日本のメーカーがドイツの企業を販売店(Distributor)に指名して,販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)を締結したとします。
その際,販売店に対し,販売地域はドイツ国内に限定し,ドイツ国外に商品を売ってはならないという義務を課したとします。
販売店契約では,このように販売地域(Territory)を制限するということは一般的に行われています。
しかしながら,販売店がEU加盟国に所属している場合,注意が必要です。
なぜなら,EUの規制(EU競争法)では,販売店が能動的に(Actively)商品を販売地域外に販売してはならないという規定は有効であるが,販売地域外のEU地域内の企業から求められて受動的に(Passively)販売することまでは禁止してはならないとされているからです。
【参考】
・EU機能条約第101条
「加盟国間の取引に影響を与えるおそれがあり,かつ,域内市場の競争の機能を妨害し,制限し,若しくは歪曲する目的を有し,又はかかる結果をもたらす事業者間の全ての協定,事業者団体の全ての決定及び全ての共同行為であって,特に次の各号の一に該当する事項を内容とするものは,域内市場と両立しないものとし,禁止する。
a 直接又は間接に,購入価格若しくは販売価格又はその他の取引条件を決定すること
b 生産,販売,技術開発又は投資を制限し又は統制すること
c 市場又は供給源を割り当てること
d 取引の相手方に対し,同等の取引について異なる条件を付し,当該相手方を競争上不利な立場に置くこと
e 契約の性質上又は商慣習上,契約の対象とは関連のない追加的な義務を相手方が受諾することを契約締結の条件とすること」
そのため,販売店契約において,「販売地域外から来た注文を受けてはならず,すべてサプライヤーにその引き合い・問合せを回さなければならない」という規定は,無効になってしまうことになります。
したがって,もし販売店がEUに属する国の企業なのであれば,あくまで販売店から能動的に販売地域外に向けて商品を販売してはならないという趣旨の規定にとどめておき,受動的な販売は禁止できないと理解しておくと良いでしょう。
ここで,何が「能動的(Actively)」な販売なのかが問題になりますが,わかりやすいのは積極的に広告宣伝や営業活動などをして販売地域外にも販売していることをアピールして販売することが挙げられると思います。
このような行為を禁止するという程度の規制であれば有効になる余地があると考えておくと良いかと思います。
もちろん,販売店との話し合いでマーケットを分割し,販売店としても自発的にドイツ国内でしか販売をするつもりはないというのであれば,特に競争法に違反するということにはなりません。
メーカーが販売店の受動的な販売行為まで禁止するという行為が問題になるということです。
もっとも,販売店の販売地域外へのactive sale(能動的な販売)のみを禁止している規定となっていても,以下のように問題になるケースがあるので,注意が必要です。
例えば,EU地域内のいくつかの国においてのみ販売店を指名していて,それ以外のEU地域内の国については販売店も指名していなければ,サプライヤーが直接その国に商品を販売するということもしていないとします。
要するに,EU圏内の国にいくつか販売店もなければサプライヤーが直販もしていない空白の商圏があるということです。
このような状態であるにもかかわらず,いくつかの国における販売店に対し,その国以外にはactive sale(能動的な販売)をしてはならないとしていると,誰も商圏を任されていない空白の地域があるにもかかわらず,販売店がactive sale(能動的な販売)を禁止されていることになります。
このような状態は,EUの経済圏における自由な経済活動に対する不当な制限であるとしてEU競争法上問題になる可能性があるのです。
とはいえ,同時期にEUの全地域に販売店を指名したり,サプライヤーが直接商品を売ったりすることは困難であると考えられます。
そのため,このような状態が作出されれば直ちに違法となるとは考えにくいですが,もしこうした状態が長期間続くようであれば,EU競争法違反の問題を生じうることには注意したほうが良いでしょう。
さらに,一定のEUのテリトリー内に2社以上の販売代理店を指名しているようなときも注意が必要です。
この場合,テリトリー内を特定の者に独占させている状況にはないため,このテリトリーに対して,たとえ能動的な販売のみであっても販売を禁止すると,EU競争法に違反する可能性があります。
そのテリトリー内に複数の販売代理店が存在している以上,そのテリトリーは特定の販売代理店に割り当てられているわけではないため,自由な市場として開放されているとすべきだという考えからだと思われます。
具体例で説明しますと,例えばフランス国内に販売店が2社指名されているときに,ドイツの販売店との販売店契約において「フランスを含めてドイツ国外の地域に能動的販売をしてはならない」とすると競争法により違法になる可能性があるということです。
加えて,もう一つ注意点があります。
それは,サプライヤーが販売代理店に対し,「その販売代理店が再販する先の小売店などが販売代理店の販売テリトリーを越えて商品を販売することを禁止しなければならない」とか,「販売代理店のテリトリー外に商品を販売することがわかっているならその小売店などには商品を卸してはならない」などという取り決めをするとEU競争法に違反するということです。
具体的に説明すると,販売代理店のテリトリーがドイツ国内である場合に,販売代理店の売先がフランスの顧客に販売していくことがわかっているとします。
このような場合を想定して,販売店契約で,販売代理店はその売先(テリトリー外=フランスの顧客に販売することがわかっている)に対して能動的に商品を売ってはいけないという禁止規定を入れることがあります。
これにより,最終的にドイツ国内をテリトリーとする販売代理店の商品が他国に流れることを防ごうという狙いがあります。
ただ,こうした規定はEU競争法に違反する可能性が高いです。販売代理店の顧客がどの地域の顧客に販売しようがそれは顧客の自由にすべきだという考えが背景にあるからです。
他にも,販売店がインターネット販売をすることを避けるために,インターネットリテーラーに対して商品を販売してはならないなどという取り決めをすることがあります。
インターネット販売は容易に国境を越えるので販売地域を守らせるために禁止したいという思惑からこのような規定が設けられることがあります。
しかしながら,このような制限の規定もEU競争法に違反することになります。
以上のように,EUでは市場の単一性を保持するために様々な規制をしており,EUの商圏をサプライヤーが考えるとおりにコントロールするのは極めて難しい状態になっていますので,注意が必要です。
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