英文契約書の相談・質問集285 独占販売権を制限する方法を教えて下さい。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「独占販売権を制限する方法を教えて下さい。」というものがあります。
日本のサプライヤーが,海外で販売店(Distributor)を指名して,独占販売権(Exclusive Sales Right)を与える場合に,完全な独占販売権ではなく,一部制限を課した販売権を渡したいということがありえます。
完全な独占販売権というのは,例えば,ドイツ国内を販売地域として,ドイツ国内においてサプライヤーが取り扱うすべての商品についての独占販売権を与えるということです。
これにより,販売店(Distributor)は,ドイツ国内の市場を独占することができ,サプライヤーは,ドイツ国内にほかの販売店(Distributor)を指名することもできませんし,自らドイツの顧客に商品を売ることもできないということになります。
当然ですが,これはかなりサプライヤーにとっては制約が強い契約です。
そのため,サプライヤーによっては,上記の完全な独占販売権ではなく,一部制限を課した独占販売権を渡したいと考えることがあります。
その方法は,大きく分けて4つあります。①販売地域を分ける,②製品を分ける,③顧客を分ける,④販売方法を分けるです。順に解説します。
①の販売地域を分ける方法ですが,これは,ドイツを一つの販売地域にするのではなく,ドイツ国内を地域によりさらに細分化し,販売店のA社はAエリア,B社はBエリア,C社はCエリアと地域別にそれぞれ独占販売店を指名するという方法です。
これによりサプライヤーは,独占権のリスク分散が可能になります。
ただし,この方法を採用する場合,独占禁止法や競争法(Competition Law)に違反するおそれがありますので,その点はご注意下さい。
次に,②の方法ですが,これは商品を分ける方法です。
例えば,サプライヤーが扱う製品がA,B,Cと3タイプあるのであれば,A社にAとBについて独占販売権を与えるなどとする方法です。
こうすることで,商品Cについては独占権を与えていないことになり,サプライヤーが自ら販売したり,別の販売店(Distributor)を指名したりすることができることになります。
さらに③の方法は,顧客を分ける方法です。
例えば,サプライヤーの既存顧客がドイツにある場合,その顧客に対しては例外的にサプライヤーが直接商品を販売できるとするのです。
こうすることで,販売店(Distributor)が原則販売地域内で独占販売権を取得しますが,一部の顧客についてはサプライヤーが直接販売したり,別の販売店が販売することができるようになり,サプライヤーのリスクヘッジになります。
最後に,④販売方法を分けて考える方法があります。
例えば,サプライヤーや別の販売店がEコマースにより,ドイツの顧客に商品を売ることは許されると定めるような場合です。
これにより,原則は当該販売店(Distributor)が独占販売権を持っていますが,Eコマースという販売手法では,例外的にサプライヤーや別の販売店も販売地域の顧客に販売できることになります。
やはり,完全な独占販売権を一社に与えるというのは,ビジネスのリスク分散という意味では危険です。
その販売店のパフォーマンスが悪ければそれまでということになってしまいます。そのため,可能であれば一極集中は避けて,何らかのリスク分散をしておいたほうがサプライヤーとしては無難でしょう。
そのため,以上のような方法によりサプライヤーは独占販売権を制限できることを覚えておくと良いかと思います。
もっとも,当然ですが,このような制限は販売店(Distributor)にとっては好ましくありません。
そのため,このような制限を入れることは交渉の中で難航するかもしれません。
そういう場合は,販売店(Distributor)に対し,①サプライヤーの直接販売の売上の一部を補償金として払う,②最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)からサプライヤーの直接販売の売上は控除するというメリットを提供することが考えられます。
これにより,販売店(Distributor)としても例外を設けることについての手当がなされていることになりますので,受け入れやすくなる可能性出てきます。
独占権は強い権利ですので,サプライヤーとしては,販売店(Distributor)に安易に渡すべきではなく,あらゆる防御策を検討しておく必要があるでしょう。
ただ,販売店としては完全な独占販売権を望むでしょうから,独占販売権に何らかの制約を課す場合は,それについての何らかのインセンティブを提示しないと交渉は難航するかもしれないことも理解しておきましょう。
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