英文契約書の相談・質問集288 販売店契約の購入ノルマは数量か金額どちらで決めるべきですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「販売店契約の購入ノルマは数量か金額どちらで決めるべきですか。」というものがあります。
 

 例えば,独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)において,販売店(Distributor)がサプライヤーから,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)として,年間1万個を購入しなければならないと数量(Quantity)で定めるのか,5,000万円分購入しなければならないと金額(Amount)で定めるのかという話です。
 

 例として,日本企業がサプライヤーで,外国企業が販売店(Distributor)として商品代金は日本円で払うということになっていたとします。
 

 そして,ここでは,商品1万個が5,000万円に相当していると仮定します。
 

 この場合,一見,数量で定めようが,金額で定めようが,ノルマとしては同じであるように思えます。
 

 ただ,当然ですが,両者の意味合いは実質的には全く異なります。
 

 例えば,個数で定めた場合,サプライヤーが契約期間中に商品の値段を上げても,販売店(Distributor)は1万個買わなければなりません。
 

 そのため,個数で定められた場合,商品の値上げ時にはサプライヤーが有利で販売店(Distributor)は不利ということになります。
 

 商品の価格は値上げはあっても値下げはあまりされないので,個数で定めるのは一般的にはサプライヤーに有利となります。
 

 では,金額でノルマを定めた場合はどうでしょうか。
 

 この場合,商品を5,000万円分購入すればノルマを達成できるわけですから,仮に商品の代金が値上げになっても,販売店(Distributor)の負担金額に変更はありません。
 

 そのため,値上げに対しては,金額でノルマを定めたほうが販売店(Distributor)にとって有利であり,サプライヤーにとって不利ということになります。
 

 では,上記とは異なり,商品代金が日本円ではなくUSドルで定められている場合,どうなるでしょうか。
 

 この場合,日本企業が販売店(Distributor)で,サプライヤーがアメリカの企業であるとしましょう。
 

 ノルマは数量で年間1万個,金額で50万ドルとしましょう。
 

 まず,数量でノルマが定められている場合はどうなるでしょうか。
 

 販売店(Distributor)は1万個のノルマがあるので,1万個の商品を年間で買わなければなりません。
 

 この際,USドル決済なので,為替リスクを日本企業が負うことになる点が,冒頭の例と異なる点です。
 

 1万個を購入するのに,円安に為替レートが進むと,当然ですが,日本企業の実質負担額は大きくなります。
 

 逆に,サプライヤー側は1万個をUSドルで発注してもらえますから,為替レートの影響は受けません。
 

 もちろん,為替レートが円高に進めば,日本企業に有利になりますので,為替レートはどちらにも振れるリスクがあるギャンブル的要素となるといえるでしょう。
 

 さらに,販売店(Distributor)は冒頭の日本円決済の例と同様,サプライヤーが商品の値段を上げた場合,その値上げ分の負担も増大することになり,この点もリスクも販売店(Distributor)が負っていることになります。
 

 つまり,USドルでの決済の場合,値上げの危険は前半の例と同様ですが,為替レートがどちらに振れるかわからないというリスクも販売店(Distributor)は負担することになるのです。
 

 次に,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)が金額で定められている場合はどうでしょうか。
 

 販売店(Distributor)は,年間50万ドル分購入する義務がありますから,50万ドルをサプライヤーに支払うことになります。
 

 この場合は,商品の値上げは関係なく,とにかく50万ドルをサプライヤーに支払えばノルマは達成できるので,値上げリスクは関係ないですが,為替レートの変動リスクは販売店(Distributor)が負うことになります。
 

 為替レートが円安方向に進行すれば,日本企業の支払金額は円ベースでは増大しますので,負担が大きくなります。
 

 逆に,為替レートが円高に進行すれば円ベースでの実質負担が減り日本企業には有利になります。
 

 このように,外国通貨決済の場合,為替レートの変動により日本企業(販売店(Distributor))が有利になるのか不利になるのかという要素が加わってくることになります。
 

 以上のとおり,独占的販売店契約(Exclusive Distribution/Distributorship Agreement)において,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)を数量で定めるのか,金額で定めるのかにより違いが生じることになります。
 

 一般的には,個数で決めるほうが,商品の値上げを想定できるのでサプライヤーに有利になり,金額で決めるほうが,商品の値上げの影響を受けないので販売店(Distributor)にとっては有利という傾向にあるといえると思います。
 

 もちろん,個数で決めた際に商品価格が値下げされれば,販売店(Distributor)にとって有利になるので,一概には言えないと思われる方もいらっしゃると思いますが,私の経験から商品価格の値下げがなされることは滅多にないので,やはり金額で定めたほうが販売店(Distributor)にとっては危険は少ないと思います。
 

 いずれにせよ,最低購入数量/金額(Minimum Purchase Quantity/Amount)は,数量で決めるのか金額で決めるのかで違いはないように見えるかもしれませんが,実際には大きな違いを生むことがあるので,慎重にどちらかを選択しなければなりません。
 

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