Trade secret(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Trade secretがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「営業秘密/企業秘密」という意味で使用されます。
営業秘密というのは,一般に,その内容が企業に利益をもたらすもので,もしそれが外に漏れればその秘密を保有している企業の損害に繋がるような価値ある情報のことをいいます。
日本では,不正競争防止法が「営業秘密」を定義し,これを保護しています。
日本の不正競争防止法上の営業秘密として保護されるには,①秘密管理性,②有用性,③非公知性の3つの要件を充たす必要があります。
もっとも,契約書で登場するtrade secret(営業秘密)は,必ずしも上記の不正競争防止法上の営業秘密を差すものではありません。
特に日本企業が海外企業と取引する際には,準拠法を日本法として,trade secretを日本の不正競争防止法上の「営業秘密」を意味するなどと規定しなければ,まず相手は日本の不正競争防止法上の「営業秘密」であると合意したつもりはないでしょう。
そうなると,理解の前提に齟齬があるため,営業秘密の管理などにおいて運用上支障を生じるかもしれません。
したがって,不正競争防止法の「営業秘密」の内容を取引の前提とするなどという危険な発想はやめるべきで,きちんとその中身を定義すべきです。
もっとも,現場ではtrade secretが明確に契約書で定義されていることはそう多くありません。
契約上の営業秘密をどのような内容とするかは当事者が決めることですが,通常は,秘密保持契約書(NDA)などの契約書において,秘密保持義務の対象となる秘密情報を定義しており,その中にtrade secretも入っているなどとされることが多いかと思います。
つまり,実務的にはtrade secretの定義を具体的に契約書で行うことはそう多くなく,秘密情報の例として挙げられていることが多いように思います。
この場合は,不正競争防止法上の営業秘密よりも,広い意味で使用されていると一般的には考えられます。
すなわち,情報として価値があり,一般に知られている情報でなければ契約書上のtrade secret,すなわち,秘密情報として取り扱われるものと考えられます。
当然ですが,trade secretを有する企業としては,その漏洩は大損害に繋がる可能性があります。
また,営業秘密の提供を受ける側の企業にとっても,仮に漏洩させれば多額の損害賠償義務を負う可能性があります。
そのため,trade secretという用語が登場した場合,その内容について慎重に審査する必要があるでしょう。