Incoterms(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Incotermsがあります。
Incoterms(インコタームズ)とは,International Commercial Termsの略称です。
このインコタームズは,国際商業会議所(International Chamber of Commerce)(ICC)というところが制定したもので,近年は10年毎に改定されています。
最新版は2020年版です。インコタームズは,貿易条件の準則のようなものを定めています。
インコタームズに書かれた貿易条件を当事者が合意して選択することで,一定の取引条件が決まることになります。
なお,インコタームズは条約や法律の類ではないので,当事者が選択をしなければ勝手に適用されることはありません。
通常は,契約書や発注書・受注書においてインコタームズを採用し,インコタームズのこの条件を選択すると記載することにより,インコタームズに従うことを決定します。
インコタームズが定めているのは,物品の売主が買主に対してどこまで運送の手配と保険の手配をするのかと,売主と買主がそれぞれどこからどこまで費用を負担するのかと,危険負担(Risk of Loss)の移転時期について定めているものです。
逆に言えば,それ以外の所有権の移転時期や,商品の代金の支払時期・方法などについてはインコタームズは触れていません。
したがって,インコタームズを適用することを選択し,貿易条件を選んだからといって,貿易に必要なすべての条件を定めたことにはならないので注意して下さい。
インコタームズが定めている具体的な貿易条件は,11種類あります。特に重要なのは危険負担の移転時期です。
よく使われるのは,EXW(Ex-Works/工場渡し),FOB(Free on Board/本船渡し),CIF(Cost Insurance and Freight)などです。
EXWでは,売主の指定場所で買主に商品の支配権が移った時点で危険負担が売主から買主に移転します。
FOBでは,売主が買主が手配した本船上に売主が商品を置いた時点で危険負担が売主から買主に移転します。
CIFでは,仕向地までの保険料を売主が負担する点がFOBと異なりますが,危険負担の移転時期はFOBと同じです。
なお,以前のバージョンのインコタームズ2000では,FOB条件の危険負担の移転時期は「指定船積港において本船の手すりを通過した時」とされていましたが,2010年版や2020年版では上記のように改定されていますので注意して下さい。
英文契約書にこれらの貿易条件を記載するときは,EXW(売主の工場の所在地)としたり,FOB(売主の地の港名)としたりします。
たまに,インコタームズの貿易条件を選択すると商品の所有権の移転時期も決められたことになると勘違いされている方がいらっしゃるので,注意して下さい。
所有権の移転時期は危険負担の移転時期と一致させることも多いですが,代金の完済までは所有権は売主に留保する(所有権留保)として,危険負担の移転時期とずらすこともあります。