英文契約書の相談・質問集316 仲裁のほうが裁判よりも安く行えるのですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「仲裁のほうが裁判よりも安く行えるのですか。」というものがあります。
確かに,裁判と仲裁の違いが書かれている記事などを読むと,仲裁のほうが裁判よりも低コストであると書かれていることもあります。
私の著書である「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」でも,基本的にこれを前提に論を進めています。
ただ,いつも仲裁のほうが裁判よりも安く済むかというと,それは限りません。
仲裁には,仲裁人の費用(報酬)がかかります。これは,タイムチャージで仲裁人が動いた時間で当事者が払うことになることが多いです。
この費用が裁判にはないため,この仲裁人の費用が多額になることが原因で,裁判よりも仲裁のほうが高くつくこともありえます。
また,仲裁であっても,当事者が徹底的に争って手続きが長引けば,その分弁護士費用がかかります。
そこは裁判と変わりがありません。弁護士費用も通常はタイムチャージで,1時間あたりいくらと定められていますので,仲裁の準備や対応に多くの弁護士が多くの時間を使えば使うほど,弁護士費用がかさみます。
そのため,仲裁手続であっても,弁護士費用だけで数億円になるということも珍しくないのです。
他方で,裁判のほうが安く済むかというとこれもそうとは言い切れません。
裁判も弁護士費用がタイムチャージでかかる点は同じですし,仲裁よりも和解に至りづらく訴訟が長引くようなことがあれば弁護士費用は仲裁よりもかかるかもしれません。
また,証拠をその裁判所が使用する言語に翻訳したりする必要があれば,翻訳コストなども馬鹿になりません。
要するに,仲裁であれ裁判であれ,紛争解決手続をするということはかなりのコストを覚悟しなければならないということです。
またお金だけではなく,時間も大量に奪われてしまいますので,その点も十分考慮する必要があります。
そのため,「いざとなれば裁判ではなく仲裁手続をとれるように仲裁合意をしてあるから安心だ」などと考えることなく,できるだけ事前に争い事が生じないように契約書などを作り込み,仲裁や訴訟を避けることをまず第一に考えることが大切です。
また,万一紛争になった場合でも,裁判や仲裁をする前に当事者間や弁護士間で話し合いをし,できるだけ話し合いで解決するという姿勢も,コスト面を考えた場合,非常に大切です。
株式投資などをされている経営者の方は,いわゆる「損切り」の重要性を想起するとわかりやすいと思います。
思い入れがあったり,その銘柄に「裏切られた」という感情的な怒りがあると,その銘柄で損失を取り戻そうとしてホールドし続けたり,ナンピン買いをしたりしてしまいますが,結果として損失が拡大してしまうことがよくあると思います。
それよりは,その銘柄は損失が小さいうちに売却してしまい,より利益を期待できる株式に乗り換えたほうがよいということはよくあることでしょう。
それと同じことが紛争にも言えます。相手に対する怒りから,その取引で損失を取り戻そうとこだわってしまうと,結局膨大な弁護士費用や時間を失い,十分な回収もできず,さらに傷口を広げてしまうことが多いです。
すでに被った時間的・金銭的損害はいわばサンクコストですので,今更やめられないと考えるのではなく,現時点で将来に向けた最善の判断をすべきです。
そのため,「損切り」を早めにしてしまい,利益を上げやすい案件で利益を上げることに集中したほうが,大局的に見て損失を回避することにつながるのです。
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