英文契約書の相談・質問集325 英国の財産凍結命令(freezing injunction)とは何ですか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英国の財産凍結命令(freezing injunction)とは何ですか。」というものがあります。
財産凍結命令(freezing injunction)(フリージング・インジャンクション)とは,日本でいうところの民事保全手続の一つになります。
かつては,Mareva Injunction(マリーバ・インジャンクション)と呼ばれていましたが,英国では1998年の民事訴訟法規則(CPR)の成立により呼び名が変更されました。
英国が起源として認められた制度ですが,英国法系の国(カナダ,オーストラリア,シンガポール,香港など)でも類似の制度が存在します。
財産凍結命令の大きな特徴は,裁判所が被申立人の一定の財産に対する仮差押命令を発令するのではなく,被申立人に対し財産凍結命令を出す(対人命令)(order in personam)ため,被申立人の財産一般に凍結命令の効果が及ぶという点にあります。
そのため,申立人は,被申立人の仮差押の対象となる財産を特定できずとも申立が却下になることはなく,被申立人に対して財産凍結命令を申し立てられることになります。
また,財産凍結命令に付随して財産開示命令(disclosure order)(ディスクロージャー・オーダー)も出されることが一般的であるため,被申立人の財産が事前に判明していないと申し立てられないということもありません。
さらに,厳密には仮「差押」ではなく財産の「凍結」ですので,凍結命令が出された後に被申立人が取得した財産に対しても凍結命令の効果が及びます。
そして,財産凍結命令は,英国内にある財産だけではなく,全世界にある財産を対象として発令される(world-wide freezing injunction)こともあります。
これらの命令の実効性を担保するため,命令違反に対する裁判所侮辱などの制裁も定められています。
例えば,財産凍結命令に従わなければ,被申立人は拘禁などの制裁を受けるおそれがありますし,保全後の訴訟での防御権を剥奪されるというおそれもあります。
また,例えば,被申立人が銀行預金を有している場合,銀行にも財産凍結命令が通知されますが,もし銀行がその命令を知りつつ,被申立人が預金を移動させるような資産隠しに許可したような場合,銀行も裁判所侮辱の制裁を受ける可能性があります。
このように,財産の保全手続きとしては強力な効果を持っていると言えるため,保全手続きが必要な場合,英国系の財産凍結命令を得られる裁判所で保全手続きを取るということも行われます。
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