英文契約書の相談・質問集328 「財務状況が悪化したら担保を提供する」という規定は意味ありますか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「『財務状況が悪化したら担保を提供する』という規定は意味ありますか。」というものがあります。
販売店契約(Distribution/Distributorship Agreement)などの継続的な契約を締結する場合,サプライヤーなど売掛金を回収しなければならない立場の当事者は,相手方の支払能力・財務状況は常に気になると思います。
そのため,契約締結時に,担保を差し入れさせたり,代表者などの連帯保証を取り付けたりすることも考えると思います。
担保としては,保証(guarantee),不動産に対する抵当権(mortgage)設定,質権(pledge)や浮動担保(floating charge)などが考えられます。
ところが,このような要求が取引開始の当初にとおることはまれで,大抵は無担保で取引が開始されるでしょう。
信用状(Letter of Credit: L/C)での取引や,全額前払いの取引などができれば,回収の心配は減りますが,全件このような条件で取引ができるとは限らないでしょう。
中には,全額後払いでの取引を余儀なくされたり,一部前払いを得られるものの大部分が後払いになるということもあると思います。
このように,取引開始のときに担保などで債権を保全することができない場合に「債務者の財務状況が悪化したときは,債務者は債権者に対し担保を提供しなければならない」などという担保提供義務を契約書に記載することがあります。
このような担保提供規定はどの程度実効性があるものなのでしょうか。
端的に結論を申し上げると,残念ながらあまり実効性は期待できません。
というのは,このような義務は「為す債務」と言って,相手方の行動を義務付ける内容なので,相手が約束どおりに担保を提供してくれれば記載した意味がありますが,もし約束を破って担保を提供するという行動をとってくれなければ,法的に担保提供を強制するのが難しいからです。
「為す債務」を強制する手段としては,裁判所に訴えて間接強制(その行為をしないと罰金のようにお金を払い続けなければならない)という方法がありえますが,現実にはこれを実行するのは困難です。
ましてや,国際取引で相手方は外国企業ということであれば,困難さが増すことは用意に想像できると思います。
もちろん,相手が約束どおりに行動してくれれば意味はありますので,記載しないよりはよいと思いますが,これに頼るのは危険です。
したがって,やはり取引開始時に全額前払いとするなど,実効性がある債権保全手段を講じておくほうがよほど重要ということになります。
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