英文契約書の相談・質問集340 紛争になったら徹底的に争うほうが良いですか。

 

 英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「紛争になったら徹底的に争うほうが良いですか。」というものがあります。

 

 結論から申し上げますと,常に徹底的に争うという姿勢はおすすめしていません。

 

 「負けるが勝ち」というケースも中には存在しているからです。

 

 投資やトレードをされている方ならおわかりになると思いますが,いわゆる「損切り」の発想が大切と考えて頂ければわかりやすいと思います。

 

 より利益を上げやすい場面で利益を上げることに集中すべきであり,損失を生じた銘柄にいつまでも固執していてもよいことはないことが多いのです。

 

 例えば,日本企業が販売代理店となって,海外のメーカーから商品を仕入れているケースで,欠陥品が見つかったとします。

 

 そして,仕入れた商品のうち欠陥が見つかった商品について,メーカーに対し,商品代金の返還と,商品の回収などにかかった費用を賠償するように請求をしたとします。

 

 ところが,メーカーは,欠陥の存在を否定し,商品には問題がなかったと主張し,対応をしません。

 

 このような場合に,欠陥について証明するためにしかるべき機関に調査依頼をし,調査結果をメーカーにぶつけて徹底抗戦の姿勢を見せたほうが良いのでしょうか。

 

 ここで考えるべきは,やはりビジネスとして行っているものですので,損得勘定を考慮に入れるべきだと思います。

 

 今後も取引を行っていくつもりがあり,欠陥品に対するメーカーの対応には不満があったとしても,その他の点については信頼が置け,その商品の販売展開によって大きく利益を上げられるということなのであれば,徹底抗戦については消極的に考えるべきかもしれません。

 

 なぜなら,相手との間で欠陥品についてシビアな紛争を続けながら,良好な取引関係を維持しつつ取引を継続するというのは困難がつきものだからです。

 

 特に中小企業同士の取引ですと,背後にいる人間の感情面も無視できず,一つの場面で法的な争いをしていながら,良好に取引を継続するのは感情的に難しいということがよくあります。

 

 他方で,欠陥品が生じたことやその後のメーカーの対応により不信感が募り,もはやこのような取引先とビジネスを継続することはできないと販売代理店が判断するに至った場合には,徹底抗戦をするということも選択肢の一つかと思います。

 

 また,自社としては取引を継続したいと考えていても,メーカー側がクレーム対応に不満を感じ,取引を打ち切ってくるかもしれません。

 

 このようなケースでは,将来の関係性に配慮する必要性がなくなりますので,納得いくまで闘うということはありうるでしょう。

 

 ただ,やはり紛争処理にはかなりの時間とお金がかかりますので,この点は十分に考慮しておく必要があります。

 

 特に海外企業との法的紛争の場合,日本の弁護士に加え,海外の現地弁護士にも依頼して対応することが多いです。

 

 そのため,弁護士費用もかかりますし,弁護士に任せておけば自動的に解決できるという性質のものではありませんから,担当従業員や経営者が紛争の準備などに多くの時間を割かなければなりません。

 

 このような事情がありますので,事前に日本の弁護士や海外の弁護士に費用の見積もりを出してもらい,解決の見通しと解決までにどの程度の期間を要するかを照会しておきましょう。

 

 もちろん,いざ弁護士に依頼して正式にクレームをしてみても,勝てるかどうか,または,勝ち筋で和解できるかどうかはわかりません。

 

 やってはみたものの,コストと時間だけが消費されてしまい,結局は負けてしまったということもありえます。

 

 そのため,そのような結果になったとしても,そのために費やした金銭と時間は諦めるという覚悟がある場合にのみ依頼したほうが無難ということになります。

 

 もし実質的に負けた場合でも,その経験は将来に活かせることは多いですし,やるだけやってダメであれば気持ちを切り替えて次に進めるというメリットももちろんあります。

 

 「負けるが勝ち」という言葉があるとおり,クレームをしてみて,その後の相手の様子から,あえて負けの和解をして次に進むことによって,今後類似の取引を行う場合の対策も明確になり,問題のある取引先と早めに別れられたということをもって利益ありと考えられることもあります。

 

 重要なのは,正式にクレームを入れるという最初のステップを踏み出す前に,リスクと利益を分析し,どういう事態になればどう進めて,最終的にどこで損切りして終わらせるかという事案処理の方針を予めフローチャートのように意識しておくことです。

 

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