Epidemic(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Epidemicがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「伝染病/疫病」という意味で使用されます。
英文契約書でこのepidemic(エピデミック)がよく登場する条項は,Force Majeure(不可抗力)条項です。
英文契約書では,一般条項(General Provisions)として,Force Majeure(不可抗力)免責の条項が入れられることが多いです。
不可抗力免責とは,当事者が自己の債務を履行できない理由が当事者のコントロール不可能な不可抗力事由にある場合,その当事者は債務不履行による損害賠償などの責任を免れることができるという内容です。
この不可抗力事由として,epidemicという用語が挙げられていることがあります。
他にも,contagious disease/illnessなどという言い方をすることもあります。
2020年に世界的に大流行した新型コロナウィルス(COVID-19)などがこのepidemicに該当すると考えられます。
どの程度感染症が蔓延すればepidemicに該当して免責を得られるのかはケースバイケースですが,政府が非常事態を宣言するような場面では通常不可抗力免責事由のepidemicに該当すると判断して良いかと思います。
ただし,その債務の不履行がepidemicという不可抗力によって引き起こされていない場合は,免責の効果は得られませんので,その点も注意が必要です。
ただ単に感染症が蔓延しているので,債務の履行を遅らせても責任を問われないということではなく,あくまで,その感染症の蔓延によって債務の不履行が妨げられているという因果関係も一般的に必要なので注意しましょう。
なお,epidemicのほかにpandemic(パンデミック)やendemic(エンデミック),outbreak(アウトブレイク)なども類似用語として挙げられます。
これらの違いについて簡単に解説します。
Pandemicは,epidemicと同様に,感染症の蔓延を表す用語ですが,epidemicより影響範囲がより広い伝染病の流行に対して用いられる傾向にあります。
そのため,英文契約書にepidemicが不可抗力事由として挙げられているところ,WHOがpandemicを宣言したとなると,大は小を兼ねるということで,epidemicに該当することは間違いないと見て良いかと思います。
また,endemicは,pandemicやepidemicと少しニュアンスが違う用語です。
これは「特定の地域や時代などに特有の」という意味で使用されます。
そのため,endemic diseaseとされた場合は,「地方病」や「風土病」などと訳されます。
つまり,endemicは伝染する,流行するということではなく,特定地域などに長期的に根ざすというニュアンスを持っています。
英文契約書の不可抗力事由として使われることが多いのはepidemicです。Pandemicとすると,伝染病の流行が全国的・世界的レベルでないと該当しないと解釈されるおそれがあるので,注意しましょう。
そして,outbreakは「ある病気が,一定の期間内に,特定の場所において,特定の人間の集団で,通常予測される件数より多く発生すること」を指すとされています。
おおざっぱに理解すると,outbreakはepidemicの前段階で,「感染が一定の地域を超えて拡大するepicdemicの前に,特定地域内で異常な規模にまで拡大した場合」を指すと考えて良いかと思います。
さらに,pandemicは,「epidemicが全国的・全世界的なレベルで同時に発生している場合」,または,「outbreakが長期間多数の国や地域において連続的に発生している場合」を指すと考えれば良いかと思います。