英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「米国による新たな関税(いわゆる“トランプ関税”など)が導入された場合,契約価格を見直すことはできますか。」というものがあります。
国際取引においては,取引開始時には想定していなかった関税措置(例:米国のSection 301関税措置,EUの制裁関税など)が突然導入されるケースが近年頻発しています。
こうした場合,契約価格に含まれていない追加的なコストが発生し,実務上は「このままでは採算が合わない」「取引を続けられない」といった深刻な問題に直面することになります。
では,このような新関税が課された場合に,契約価格の見直しや再協議が可能となるようにするためには,英文契約書にどのような条項を設けておくべきでしょうか。
契約書でよくある“落とし穴”
実務では,価格は「固定価格(fixed price)」として定められていることが多く,そのままでは原則として一方的に価格改定を主張することは困難です。
契約書に新関税や法改正によるコスト増加への対応条項(price adjustment clause)が設けられていない場合,追加関税分は供給者が丸抱えするリスクが生じます。
特に米国との取引においては,契約締結後に突然25%の関税が課された例(いわゆる「トランプ関税」)が複数ありますが,その負担をめぐって訴訟にまで発展した事例もあります。
有効な対応:価格調整条項(Price Adjustment Clause)の導入
このような事態に備え,英文契約書には以下のような条項を盛り込むことが実務上有効です。
> "If any change in applicable laws, including the imposition of new tariffs or duties, results in a material increase in the cost of performing this Agreement, the Parties shall negotiate in good faith an appropriate adjustment to the price or other relevant terms."
「適用される法律の変更(新たな関税や税金の課税を含む)により、本契約の履行コストに重大な増加が生じた場合、当事者は誠意をもって価格またはその他の関連条項の適切な調整について協議する。」
このように,「新たな関税や法規制の変更により重大なコスト増が発生した場合は,価格の見直しを協議する」という旨を明示しておくことが,実務的なトラブル予防策となります。
なお,単に“協議する”にとどめるのか,“価格改定に応じる義務がある”とまで書くかは,当事者の交渉力や立場によって異なります。
Force Majeure(不可抗力)条項との違い
関税措置のような制度変更について,「不可抗力条項(Force Majeure)」で対応できないかという質問もあります。
しかし,不可抗力条項は「契約履行が不可能となった場合に免責される」という趣旨であり,「価格が高くなったから履行が困難になった」という理由では免責が認められないのが通常です。
したがって,新関税の導入による価格調整は,Force Majeure条項でなく,別途の価格調整条項として契約に明記しておく必要があります。
まとめ:国際契約では“想定外”を条項でカバー
国際取引においては,制度・税制・関税の変更が日常的に起こり得ます。
契約書の段階で,「将来の不確実性」への対応策を盛り込んでおくことは,単なるリスク回避にとどまらず,交渉時の信頼性・継続的関係の維持にもつながります。
価格調整条項が適切に設けられていれば,法制度の変化による一方的な損失を回避でき,当事者双方にとって納得のいく再交渉の土台を築くことができます。
いずれにせよ,英文契約書の作成にあたっては,将来的な規制変更や経済的リスクを見据え,“何が起きたらどう対応するのか”を事前に設計することが肝要です。
適切な条項設計を通じて,不測の関税リスクにも備えた契約を整備していきましょう。