会社の株主が複数存在する場合,株主間の権利義務関係や意思決定のルールを明確にするために締結されるのが Shareholder Agreement(株主間契約)です。
特に,スタートアップ,合弁会社,少数株主が存在するケースや,外国人株主が関与する場合には,定款だけではカバーしきれない実務的な取り決めを補完する重要な契約書となります。
本稿では,英文 Shareholder Agreement の基本的な位置づけと,実務上押さえておくべきポイントを整理します。
① はじめに
Shareholder Agreement については,「定款があれば足りるのではないか」「株主間でそこまで細かく決める必要があるのか」といった疑問を持たれることも少なくありません。
しかし実務上は,定款は会社と株主との関係を規律する公的なルールであるのに対し,Shareholder Agreement は株主同士の合意事項を柔軟に定めるための私的契約という役割を担います。
特に英文契約書の場合,将来の紛争や国際的な解釈のずれを防ぐためにも,事前にルールを明文化しておくことの重要性は高いといえます。
② Shareholder Agreement の目的と位置づけ
Shareholder Agreement の主な目的は,以下のような点にあります。
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株主間の権利義務関係の明確化
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経営に関する意思決定ルールの整理
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株式譲渡や資本政策に関する制約の設定
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将来の紛争リスクの低減
特に少数株主が存在する場合や,出資比率と経営関与の度合いが一致しない場合には,Shareholder Agreement による調整が不可欠となるケースが多く見られます。
③ 主な規定内容(典型条項)
英文 Shareholder Agreement では,定款だけでは十分に規律できない株主間の実務的な合意事項について,幅広く条項が設けられるのが通常です。代表的なものとしては,以下のような条項が挙げられます。
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株式の譲渡制限(Transfer Restrictions)
株主が第三者に株式を譲渡する場合の制限として,会社又は他の株主の事前承諾を要する旨や,譲渡手続の詳細が定められます。
併せて,優先交渉権(Right of First Refusal),優先購入権(Right of First Offer),共同売却権(Tag-along Right)などが規定されることも一般的です。 -
議決権行使・株主間の協調義務
株主が一定の事項について同一の議決権行使を行う義務(Voting Agreement),又は特定株主の同意を要する事項(Reserved Matters)が定められることがあります。
これにより,経営上の重要事項について,特定株主に拒否権(Veto Right)を付与する設計がなされる場合もあります。 -
取締役の選任・解任に関する事項
株主ごとの指名権,取締役数の配分,オブザーバーの派遣権などが定められることがあります。
特に投資家が関与する場合には,経営監督のための取締役選任権が重要な交渉ポイントとなります。 -
Drag-along / Tag-along 条項
会社売却や M&A の局面において,多数株主が第三者に株式を売却する際に,少数株主にも同条件での売却を義務付ける Drag-along 条項,または参加を認める Tag-along 条項が規定されます。
将来のエグジットを見据えた重要な条項の一つです。 -
資本政策・新株発行に関する規定
新株発行や転換証券の発行時における既存株主の優先引受権(Pre-emptive Right),出資比率の維持に関する取り決めが定められることがあります。
また,投資契約と一体で,希薄化防止条項(Anti-dilution)を設けるケースも見られます。 -
配当方針・財務に関する事項
配当の有無や基準,利益処分に関する考え方,内部留保との関係などが規定されることがあります。
特に,株主の属性や投資目的が異なる場合には,事前に一定のルールを設けておくことが紛争予防につながります。 -
競業避止・秘密保持義務
株主が会社と競合する事業を行うことを制限する競業避止条項や,株主として知り得た情報の取扱いに関する秘密保持義務が規定されることがあります。
これらは,株主が経営に深く関与する場合に特に重要となります。 -
デッドロック(行き詰まり)解消条項
株主間で意思決定が膠着した場合に備え,第三者の関与,強制的な株式売却,買収オプション(Russian Roulette,Texas Shoot-out など)を定めることもあります。
合弁会社などでは,実務上重要な条項となります。 -
契約期間・解除・違反時の取扱い
Shareholder Agreement の有効期間,解除事由,違反時の救済措置(損害賠償,差止め,強制履行等)が定められます。
契約違反が生じた場合の対応を明確にしておくことで,紛争時の不確実性を低減できます。
④ 定款との関係
Shareholder Agreement を検討する際に必ず確認すべきなのが,定款との整合性です。
原則として,会社法上,定款が優先される事項については,株主間契約でこれと矛盾する合意をしても効力に問題が生じる可能性があります。
そのため,Shareholder Agreement は定款を補完する役割で用い,両者の内容が齟齬を来さないように設計することが重要です。
⑤ 英文 Shareholder Agreement 特有の注意点
英文契約書では,日本語契約書と比べて次のような点に注意が必要です。
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用語の定義が詳細かつ広範になりやすい
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「reasonable」「material」など抽象的概念の解釈問題
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Governing Law(準拠法)と Jurisdiction(管轄)の選択
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強行法規(特に日本の会社法)との関係
特に,日本法人を対象とする Shareholder Agreement であっても,準拠法を外国法とする場合には,どの範囲まで有効なのか慎重な検討が求められます。
⑥ 実務上よくある検討ポイント
実務では,次のような点が論点となることが多いです。
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少数株主保護条項をどこまで認めるか
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経営のスピードと株主統制のバランス
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将来の M&A を見据えた条項設計
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創業者・投資家間の力関係の調整
これらは一律の正解があるものではなく,当事者の関係性,事業フェーズ,資本政策に応じて調整されるべき事項です。
⑦ 契約違反時の対応・救済
Shareholder Agreement では,違反が生じた場合の救済手段も定められることがあります。
損害賠償請求に加え,特定の義務履行を求める差止めや強制履行の可否,契約解除の可否など,どのような対応を想定しているのかを明確にしておくことが重要です。
⑧ 継続的見直しの重要性
Shareholder Agreement は,一度締結して終わりではありません。
株主構成や事業内容の変化,新たな資金調達,M&A の検討などに応じて,定期的な見直しが必要となる契約類型です。
特にスタートアップや成長企業においては,初期段階で作成した契約が実態に合わなくなるケースも少なくありません。
⑨おわりに
Shareholder Agreement(株主間契約)は,株主間の信頼関係を前提としつつも,将来の不確実性や利害対立に備えるための重要なツールです。
特に英文契約書の場合,後から解釈を巡る争いが生じると,時間的・コスト的負担が大きくなりがちです。
そのため,締結前の段階で,定款との関係,強行法規との整合性,実際の経営運営との適合性を慎重に検討した上で,専門家のレビューを受けることをお勧めします。