今回は,クロスボーダーの融資実務において最も重要かつ複雑な契約の一つである「Loan and Security Agreement(担保権付き貸付契約)」について,その構造と重要条項を詳しく解説いたします。
1. 担保権付き貸付契約の法的性質
担保権付き貸付契約は,貸主(Lender)が借主(Borrower)に対して資金を貸し付ける「金銭消費貸借契約」としての側面と,その債務の履行を担保するために借主の資産を担保に供する「担保権設定契約」としての側面の二つを併せ持った契約です。
英文契約の実務では,これらを一つの契約書にまとめる場合(Loan and Security Agreement)と,基本となる「Loan Agreement」を別途作成した上で,担保設定に関する具体的な合意を「Security Agreement」として切り出す場合があります。
2. 担保対象資産(Collateral)の範囲
担保の対象となる資産(Collateral)の定義は,契約の核となる部分です。実務上は,以下のような資産が網羅的に指定されます。
-
Tangible Assets(有形資産): 設備(Equipment),在庫(Inventory),什器備品など。
-
Intangible Assets(無形資産): 売掛債権(Accounts Receivable),特許権・商標権などの知的財産(Intellectual Property),契約上の権利など。
-
Financial Assets(金融資産): 預金口座(Deposit Accounts),有価証券(Investment Property)など。
英米法圏では,将来取得する資産(After-acquired property)や,担保資産から生じる収益(Proceeds)も担保範囲に含めることが一般的です。ただし,法域によっては包括的な担保設定に制限がある場合や,特定の登録が必要な場合があるため,対象資産の所在地の法律(Lex Situs)を確認することが不可欠です。
3. 本契約における最重要条項
ボリュームのある英文契約において,特に交渉の焦点となるのは以下の4点です。
(1) Representations and Warranties(表明保証)
借主は貸主に対し,財務状況が健全であることだけでなく,「担保資産を完全に所有しており,他者に譲渡や担保設定をしていないこと(Good and marketable title)」を保証します。この保証が真実でない場合,即座にデフォルト(債務不履行)事由となります。
(2) Affirmative and Negative Covenants(遵守事項)
貸主が借主の経営をモニタリングするための規定です。
-
Affirmative(作為義務): 資産の現状維持,適切なメンテナンス,保険の付保,定期的な財務報告,監査(Audit)の受け入れ。
-
Negative(不作為義務): 貸主の承諾なき資産の売却(Sale of Assets),合併や組織再編,追加の借入れの制限,他の債権者への担保提供(Negative Pledge)の禁止。これらは借主の資産流出を防ぐための「縛り」となります。
(3) Financial Covenants(財務制限条項)
借主に対し,一定の財務比率(自己資本比率や債務償還倍率,デット・サービス・カバレッジ・レシオなど)を維持することを義務付けます。これを下回った場合,たとえ利息の支払いが滞っていなくても,貸主は「期限の利益喪失(Acceleration)」や「担保権の実行」を検討する権利を得ます。
(4) Perfection of Security Interest(担保権の対抗要件)
契約書を締結しただけでは,第三者(他の債権者や倒産管財人)に対して「この資産は私の担保だ」と優先権を主張できない場合があります。
米国法(UCC)下であれば当局への「Financing Statement(UCC-1)」の登記(Filing),英国法などのコモンロー諸国であれば会社登記所(Companies House)への登録など,現地の登記制度に従った手続き(Perfection)が必要となります。契約書内には,これらの手続きにかかる費用を全て借主が負担することや,必要な書類作成に協力することが詳細に規定されます。
4. 債務不履行(Events of Default)と救済策
万が一,借主が契約に違反した場合,貸主には強力な救済策(Remedies)が与えられます。
-
Acceleration(期限の利益喪失): 分割払いの予定を繰り上げ,未払債務全額を直ちに請求すること。
-
Possession and Sale(占有および売却): 担保資産を差し押さえ,公売や私的売却によって回収に充てること。
5. 実務上のアドバイス
担保権付き貸付契約は,単なる書面の作成にとどまらず,対象資産が存在する現地の法律(担保法)との整合性が極めて重要です。
特に海外子会社を保証人(Guarantor)に立てたり,海外資産を担保に取る場合は,その国の法制度によって担保の有効性や優先順位が左右されるため,現地のカウンセル(弁護士)と連携したリーガル・オピニオンの取得やデューデリジェンスが欠かせません。
以上,Loan and Security Agreementの詳細について解説いたしました。この種の契約は非常に専門性が高く,貸主・借主双方にとって長期的なビジネスリスクを左右するため,経験豊富な弁護士によるアドバイスのもとで作成・交渉を進めることが強く推奨されます。