GDPR・個人情報条項

EU・英国企業との取引,個人情報の取り扱いは契約書で手当てできていますか?

EU一般データ保護規則(GDPR)および英国GDPR(UK GDPR)は,EU・英国内に拠点を置く企業のほか,EU・英国内の個人に商品・サービスを提供し,またはその行動を監視する企業に,所在地を問わず適用されます。日本に拠点を置く企業であっても例外ではありません。英文契約書にGDPR対応の条項が適切に組み込まれていなければ,最大で全世界年間売上高の4%または2,000万ユーロ(UK GDPRでは1,750万ポンド)のいずれか高い方の制裁金が科される可能性があります。

⚠️ 日本企業が見落としやすい3つの盲点

「日本に拠点があるから関係ない」は誤り

EU居住者に商品・サービスを提供したり,EU居住者の行動を監視したりする場合,所在地に関係なくGDPRが適用されます。

「個人情報保護法を守っていれば大丈夫」は誤り

GDPRと日本の個人情報保護法は要件が異なります。日本法準拠の契約書では,GDPRの要件を満たせないケースが多数あります。

契約書だけでなく運用も問われる

GDPR対応は条項を入れるだけでは不十分です。データ処理の記録・同意取得・漏洩通知など,契約と運用の両面を整える必要があります。

実際に起きたGDPR・個人情報条項をめぐるトラブル事例

「自分たちには関係ない」と思っていた日本企業が直面した,契約書上の個人情報条項をめぐるトラブルの場面です。

事例① DPA(データ処理契約)なしでサービス提供

EU企業向けにSaaSサービスを提供していた日本企業。EU顧客から「GDPRが要求するData Processing Agreement(DPA)を締結してほしい」と求められたが,対応できる条項が契約書になかった。DPAなしでのデータ処理はGDPR違反であり,取引停止と損害賠償請求を受けるリスクが生じた。

事例② データ移転条項(SCC)の欠落

EU拠点の取引先から個人データを受け取り,十分性認定のない第三国(インド等)や,米国のうちData Privacy Framework(DPF)認証を受けていない事業者の拠点・クラウドで処理していた企業。十分性認定のない国へのデータ移転には,欧州委員会が定めるStandard Contractual Clauses(SCC)の締結などGDPR46条の適切な保護措置が必要だが,古い契約書にはその規定がなく,GDPR施行後も気づかないまま運用を続けていた。監督機関から調査通知を受けた。なお,日本は十分性認定を受けているため,日本への移転自体には原則としてSCCは不要だが,日本から第三国への再移転には別途手当てが必要。

事例③ データ漏洩通知義務を契約に入れていなかった

システム委託先でデータ漏洩が発生。GDPRでは個人データ侵害の発覚から72時間以内に監督機関への通知義務がある。しかし委託契約書にデータ侵害時の通知義務・タイムラインが規定されておらず,委託先からの報告が遅延。通知義務違反による制裁金リスクを自社が負うことになった。

事例④ 「目的外利用禁止」の範囲で取引先と紛争

マーケティング目的で取得した顧客データを,提携先企業へ共有する条項が契約書に含まれていた。GDPRでは個人データの利用目的を特定・限定することが必要で,当初の目的と両立しない目的外利用には,原則として本人の同意などの別途の法的根拠が必要。取引先への提供がGDPR違反に該当するとしてEUの顧客から苦情・損害賠償請求を受けた。

事例⑤ 「個人情報」の定義の違いで認識がずれた

日本法基準で「個人情報ではない」と判断してB2B契約書に個人データ保護条項を入れなかった。しかしGDPRにおける「個人データ」の定義は日本法より広く,IPアドレス・Cookie・位置情報なども対象になる。EU側取引先から契約違反として問題提起された。

事例⑥ 委託先の再委託でデータ管理が破綻

EU企業から個人データ処理を受託し,さらに国内の協力会社に再委託していた。GDPRでは再委託(Sub-processing)には管理者の事前の書面による承認(個別承認または一般的承認)が必要だが,契約書にその規定がなく,再委託先での不適切な管理が発覚。自社が直接GDPR違反の責任を問われた。

事例⑦ 旧来の秘密保持契約書(NDA)で個人データをカバーしていた

GDPR施行(2018年)以前に締結したNDAをそのまま使い続け,個人データの取り扱いもNDAでカバーできると認識していた。しかしGDPRはNDAとは別にData Processing条項・DPAの締結を要求しており,NDAだけでは法令要件を満たさないと指摘を受けた。

事例⑧ M&A後に買収先のGDPR違反が発覚

欧州企業を買収した際,デューデリジェンスでGDPR対応状況を確認しなかった。買収完了後に買収先がGDPR違反の状態でデータを処理していたことが判明。買収者として制裁金リスクと顧客対応コストを引き継ぐ結果になった。契約書上の表明保証条項にGDPR遵守が含まれていなかったことも問題だった。

英文契約書でGDPR対応として確認すべき主要条項

以下はGDPRに関連して英文契約書に組み込む必要がある,または確認が必要な主要条項です。いずれも専門知識なしに正確に判断するのは困難です。

確認条項 01

Data Processing Agreement(DPA)

個人データの処理を委託・受託する場合に必須。処理目的・手段・期間・データ主体の権利保護等を規定。

確認条項 02

Standard Contractual Clauses(SCC)

十分性認定のない国へのデータ移転に必要な条項。2021年改定版SCCへの対応が必要(旧版SCCは2022年12月27日をもって失効)。英国からの移転には,EU SCCではなく英国のIDTAまたはUK Addendum(2022年3月21日発効)が必要。

確認条項 03

Data Breach Notification条項

データ侵害発生時の通知義務・タイムライン(72時間以内)・手順を明記。委託先からの報告義務も規定。

確認条項 04

Sub-processing(再委託)条項

個人データの再委託を行う場合の事前承認・再委託先への同等義務の課し方を規定。

確認条項 05

データ主体の権利対応条項

アクセス権・削除権(忘れられる権利)・訂正権・データポータビリティの権利への対応。委託先としての協力義務を含む。

確認条項 06

GDPR Compliance表明保証条項

相手方がGDPRを遵守していることの表明保証。M&AやSaaS導入時に特に重要。違反時の補償も規定。

なぜ自社だけで判断するのが難しいのか

① GDPRと日本の個人情報保護法は別物
日本法に精通した法務担当者でも,GDPRの要件・条項の解釈は別の専門知識が必要です。「個人情報」の定義の違いだけでも,対応が大きく変わります。

② 規制が頻繁に改定される
SCCは2021年に全面改定。EUとUKでは規制が分岐。十分性認定の状況も変化します。常に最新の規制動向を踏まえた契約書設計が必要です。

③ 契約書と運用の両方を整える必要がある
条項を入れるだけでなく,実際の運用(同意取得・記録管理・対応手順)との整合性も必要です。弁護士と社内の実務担当者が連携して設計する必要があります。

④ 違反時の制裁は事業規模に関わらず重大
GDPRの制裁金は売上高4%または2,000万ユーロが上限。中小企業でも数千万円規模の制裁金が科された事例があります。「うちは小さいから大丈夫」は通用しません。

【ご注意】本ページの内容はGDPRおよび個人情報保護に関する一般的な情報提供を目的としており,個別の法的アドバイスを構成するものではありません。GDPRへの対応は,取引の内容・相手方・データの種類・適用される国の規制によって異なります。実際の対応にあたっては,英文契約書を取り扱う弁護士への相談に加え,必要に応じてEU・英国等の現地弁護士の助言を求めることをお勧めします。

弁護士 菊地正登

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執筆 弁護士 菊地正登(第二東京弁護士会/片山法律会計事務所)

2003年弁護士登録。英国 University of Southampton のLL.M(法学修士)コースワークで英米法・国際取引法等を学び,ロンドンの法律事務所 Hill Dickinson LLP で実務経験。英文契約書・国際取引を中心に取り扱っています。プロフィール

【ご注意】本ページは,執筆・更新時点(2026年9月)において一般的なレベルで調査した結果を参考情報として記載したものにすぎず,個別の案件についての法的助言ではありません。外国の法令・判例・実務は改正等により変更されることがあり,本ページの内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。実際にお取引を検討される際は,必ず現地の法律に精通した弁護士に最新の情報をご確認ください。

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