プレビュー:国別英文契約書危険条項ガイド

「英文契約書なら同じ」は危険——取引相手の国によってリスクは全く異なります

 

英文契約書は英語で書かれていますが,適用される法制度・商慣行・リスクの所在は取引相手国によって大きく異なります。「英文契約書だから英米法の知識があれば十分」という考え方は,特に中国・ASEAN・インド・中東との取引では通用しません。相手国ごとの法的リスクを把握したうえで契約書を設計することが不可欠です。

⚠️ 「相手国の法律は相手方の弁護士が見てくれる」では自社を守れない

相手方の弁護士は相手方の利益のために動きます。自社のリスクを正確に評価し,契約条件に反映させるのは自社側の専門家の役割です。相手国の法制度を理解した日本側の弁護士が関与することで,はじめて対等な契約交渉が可能になります。

 

 

中国企業との英文契約書——仕込まれやすい危険条項

中国企業が提示する契約書には,日本企業が見落としやすい構造的なリスクが潜んでいます。

中国法・中国裁判所を準拠法・管轄とする条項

中国企業側のドラフトは,準拠法を中国法,管轄を中国の裁判所または中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)とすることが多い。日本企業が中国で訴訟・仲裁を行うコストは甚大であり,中立な第三国(シンガポール等)を仲裁地とするよう交渉することが重要です。

技術・ノウハウ漏洩リスクと知財条項の弱さ

OEM・製造委託契約では,技術情報・図面・ノウハウの帰属・使用制限が曖昧なまま署名してしまうケースが多い。契約終了後の競合品製造禁止条項・秘密保持条項の実効性確保が特に重要で,中国法上での執行可能性も確認が必要です。

独占・専属条項で身動きが取れなくなる

中国の代理店・販売店に独占権を与えた結果,販売実績が振るわなくても契約解除ができない状況に陥る事例が多発しています。最低購入数量・業績未達時の解除条項・契約終了後の在庫処理を必ず明記する必要があります。

中国語版との二言語契約で中国語が優先される

中国の当局手続き等を理由に中国語版を添付させられ,「中国語版が正本」とする条項が英文版に入っているケースがあります。Language条項を必ず確認し,どちらの言語版が優先するかを明確にすることが必要です。

 

 

米国企業との英文契約書——日本企業が特に注意すべきポイント

英米法の本場ですが,州ごとに法律が異なり,日本の常識とかけ離れた条項が標準として使われます。

懲罰的損害賠償(Punitive Damages)リスク

米国では悪意ある行為に対して実損害の数倍の懲罰的損害賠償が認められる場合があります。契約書でPunitive Damagesの排除または上限設定をしておかないと,予想外の巨額賠償リスクを負うことになります。

州法の違いによるリスク(デラウェア州法 vs カリフォルニア州法)

同じ米国内でも,カリフォルニア州法はNon-Compete条項を原則無効とするなど,州ごとに法律が大きく異なります。準拠法として指定された州の法律の特徴を理解したうえで契約書を設計しなければなりません。

広範なIndemnification条項

米国企業のドラフトには,第三者クレームに対する包括的な補償義務(Indemnification)が自社に課される条項が含まれることが多い。補償範囲・上限・手続きを丁寧に交渉しないと,想定外の費用負担リスクが生まれます。

At-Will解除条項と不当解除リスク

米国では理由なく契約を解除できる「At-Will」条項が一般的。一方的に解除された場合の補償・通知期間・在庫・費用回収が契約書に明記されていないと,日本企業が丸損になるケースがあります。

 

 

ASEAN(タイ・ベトナム・インドネシア等)との英文契約書

ASEANは急成長市場ですが,法整備が途上の国も多く,英文契約書だけでは対処しきれないリスクが潜んでいます。

現地法優先条項で契約内容が無効になるリスク

インドネシア・ベトナム等では,現地法の強行規定が英文契約書の条項に優先することがある。準拠法を第三国法としても,現地の強行法規が適用されて,契約上有利なはずの条項が現地では執行できないケースがあります。

代理店・販売店保護法による解除制限

タイ・インドネシアなどでは,代理店・販売店を保護する現地法が存在し,契約書上は解除可能でも,現地法上は補償なしの解除が認められないケースがあります。進出前に現地法上の規制を確認することが不可欠です。

外資規制・現地法人要件の見落とし

ベトナム・インドネシアでは業種によって外資比率に上限がある。合弁契約書(JVA)や株主間契約(SHA)に外資規制への対応条項が入っていないと,許認可取得後に経営権を失うリスクがあります。

仲裁条項と現地での執行可能性

シンガポール国際仲裁センター(SIAC)での仲裁を定めても,仲裁判断の現地執行がスムーズにいかない国がある。ニューヨーク条約加盟国かどうか,現地での執行実績も確認したうえで紛争解決条項を設計する必要があります。

 

 

インド・中東との英文契約書

【インド】訴訟・仲裁の長期化リスク

インドの裁判所は案件が膨大で,判決まで10年以上かかるケースもある。紛争解決条項でインド国内の裁判所を指定した契約書は,事実上紛争解決不能になるリスクがあります。シンガポール仲裁等を活用した設計が重要です。

【インド】Stamp Duty(印紙税)未納で契約が執行不能に

インドでは契約書の種類・金額に応じたStamp Dutyの納付が必要。未納の契約書はインドの裁判所で証拠として認められない。英文契約書として形式上問題がなくても,インド法上の手続きを踏まなければ執行できません。

【中東・UAE】イスラム法(シャリーア)との抵触

UAE等では契約によってはイスラム法の影響を受ける場合がある。利息の請求・特定の条項がシャリーアに抵触するとして無効となるケースがあります。UAE法準拠の契約書設計には現地法上の制約の確認が不可欠です。

【中東】代理店保護法による解除禁止

サウジアラビア・クウェート等では,現地代理店を保護する強力な法律が存在します。一度代理店契約を結ぶと,現地法上の要件を満たさない限り解除できず,補償金が発生することがあります。英文契約書だけでは対処できないリスクです。

 

 

なぜ英文契約書専門の弁護士への相談が必要なのか

相手国の法的リスクを英文契約書に反映させる
英米法の知識だけでなく,相手国の法制度・強行法規・商慣行を踏まえたうえで,契約条項の設計・交渉を行う必要があります。これは一般的な法律知識では対応できない専門領域です。

現地弁護士との橋渡し役として機能する
国によっては,現地弁護士との連携が必要なケースがあります。英文契約書の専門弁護士が日本側の窓口として現地弁護士と連携することで,コストを抑えつつ適切なリスク対応が可能です。

相手方ドラフトの「国別の罠」を見抜く
相手国の法的リスクを熟知していなければ,相手方ドラフトに組み込まれた自社に不利な条項を見抜くことができません。どこが交渉ポイントで,どこが譲れないラインかを判断するには経験が必要です。

リスクを取るかどうかの経営判断を支援する
すべてのリスクをゼロにすることはできません。どのリスクが許容範囲で,どこに追加の手当てが必要かを整理し,経営判断をサポートするのが専門弁護士の役割です。

【ご注意】本ページの内容は各国の法制度に関する一般的な情報提供を目的としており,個別の法的アドバイスを構成するものではありません。各国の法律・規制は変更される場合があります。実際の取引・契約にあたっては,英文契約書の専門弁護士への相談に加え,必要に応じて取引相手国の現地弁護士の助言を求めることをお勧めします。

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