プレビュー:海外商標の無断登録・サンプル模倣トラブルとその解決法

海外商標の無断登録・サンプル模倣トラブルとその解決法

海外展開において最も深刻なトラブルのひとつが,商標の無断登録(商標ハイジャック)とサンプル・ノウハウの模倣です。中国・ASEAN・インド・中東など「先使用主義」ではなく「先登録主義」を採る国では,現地で先に商標を登録した者が権利者となるため,日本で長年使ってきたブランドが海外で使えなくなるケースが後を絶ちません。また,取引検討段階でサンプルや成分表・設計図を渡したところ,契約に至らないまま模倣品を作られたという相談も多数寄せられています。これらのトラブルは,現地での商標登録とNDAの整備を事前に行うことで大部分を防ぐことができます。

このページでわかること

✔ 商標無断登録・サンプル模倣で実際に起きた8つのトラブル事例と原因
✔ 各トラブルを防ぐための商標登録戦略・NDA設計・契約書条項の具体的な考え方
✔ 海外での商標・知財保護で最低限おさえるべき5つのチェックポイント

⚠ なぜ海外商標・模倣トラブルが頻発するのか

「先登録主義」の国で商標を取らずに進出している

中国・ASEAN・インドなど多くの国は先登録主義のため,日本で先に使っていても現地で他者が先に登録すれば権利者はその他者です。海外進出を検討し始めた段階で,すでに第三者に登録されているケースが多発します。

代理店・取引先への商標管理が契約書で手当てされていない

現地代理店・仕入先が「保護のため」と称して自社ブランドを自身の名義で登録するケースがあります。取引開始前に「商標の無断登録禁止・登録した場合は委託者に移転する」旨を契約書に明記しなければ対応が困難です。

NDA締結前にサンプル・設計情報を渡してしまっている

展示会での引き合いや新規取引先への売り込み段階でNDA締結前にサンプルや成分表・製造方法を開示し,取引が不成立に終わった後に模倣品を作られるケースが多発します。「まず見てもらわないと話にならない」という焦りがトラブルの原因です。

商標の無断登録・商標ハイジャックのトラブル事例

ブランドの海外展開で最初に直面する深刻なリスクです。

⚠ 事例① 中国に進出したら自社ブランドがすでに登録済みだった

日本国内で10年以上使用してきた自社ブランドで中国市場への参入を決定。現地パートナーを探す段階で商標調査を行ったところ,中国語表記・英語表記ともに中国企業によってすでに登録されていることが判明した。登録者は日本企業の製品を知った上で投機目的で登録したものと思われたが,中国は先登録主義のため抹消が困難で,登録者から「ライセンス料を払えば使わせてやる」との接触があった。

解決策:海外展開を検討した時点で,展開予定国に商標を優先的に出願・登録する。特に中国では,漢字表記・ピンイン・英語表記・ロゴを別々に出願することが重要。マドリッド協定議定書(国際登録)を活用することで複数国への一括出願も可能。

⚠ 事例② 現地代理店が自社商標を「保護のため」と称して無断登録

東南アジアの代理店と数年間取引を続けた後,契約を見直そうとしたところ,代理店が自社商標を自身の名義で現地登録していたことが判明した。代理店は「あなたが登録していなかったので,ブランドを守るために私が登録した。契約を続けるなら問題ない」と主張。契約書には商標に関する条項がなく,取消請求の法的根拠が弱い状態となった。

解決策:代理店・販売店契約に「本契約の商標・ロゴ・ブランド名は委託者に帰属し,代理店はこれを自己名義で登録してはならない。無断登録した場合は委託者への移転手続きを直ちに行う」旨の条項を必ず設ける。

⚠ 事例③ 商標未登録のまま輸出していたら現地で商標侵害訴訟を起こされた

数年前から自社商品をインドネシアに輸出していた。ある日,現地の全く面識のない企業から「あなたの商品は当社の登録商標を侵害している」として輸入差止・損害賠償を求める内容証明が届いた。当該企業は日本企業の商品が現地で売れているのを知って商標を先取りしており,輸入差止によって販売が停止するリスクが生じた。

解決策:輸出を開始する前に必ず輸出先国での商標調査と出願を行う。すでに無断登録された場合は,使用実績のない登録に対する不使用取消審判,悪意による登録の取消請求,無効審判などの手続きを検討する。

事例④ 代理店契約終了後も登録商標をECサイトで使用し続けられた

代理店契約を終了させたが,代理店が自身の名義で登録していた商標を根拠に,契約終了後もECサイト上で自社ブランド名を継続使用した。「商標権者は自分であるから使用を止める理由はない」と主張され,ブランド名の使用停止を求める交渉が1年以上に及んだ。商標が代理店名義のまま現地登録されていたため,契約上の解除条項だけでは商標使用を止めさせることができなかった。
解決策:現地での商標登録は必ず自社(委託者)名義で行う。代理店に使用させる場合は商標ライセンス契約を別途締結し,契約終了時の使用許諾消滅を明記する。

サンプル模倣・ノウハウ流用のトラブル事例

「取引前の開示」が模倣の入口になるケースが最多です。

⚠ 事例⑤ 展示会でサンプルを渡したら数ヶ月後に模倣品が出回った

海外展示会でアジアのバイヤーから引き合いがあり,「取引を検討したい」との申し出でサンプルと成分表を渡した。その後,取引交渉は進展しないまま数ヶ月が経過。現地の展示会で,自社製品とほぼ同一の成分・形状の商品がそのバイヤーの関連会社ブランドで販売されているのを発見した。NDAを締結していなかったため,秘密情報の流用を法的に主張する根拠が乏しかった。

解決策:サンプル・成分表・仕様書の提供前に必ずNDAを締結する。「サンプルは取引目的のみに使用し,分析・複製・第三者への提供を禁止する」旨をNDAに明記する。NDA締結を拒む相手方との取引は慎重に検討する。

⚠ 事例⑥ OEM委託先が製法・処方を使って自社ブランドで競合品を販売

化粧品のOEM製造を中国メーカーに委託。製造のために処方・配合・製法を開示したところ,委託先が全く同じ処方の製品を自社ブランドで第三者向けに製造・販売していることが後に判明した。OEM契約書にはNDA条項があったが「競業避止義務」「処方の独占使用権」の定めがなく,「秘密情報は使っていない,同じ処方を独自に開発した」と主張されて立証が困難な状況になった。
解決策:OEM委託契約に,①委託者の処方・配合・製法を第三者向け製品に使用することを禁止する条項,②委託者の製品と競合する製品の製造禁止(競業避止)条項,③委託期間中・終了後の秘密保持義務の存続条項を明記する。

事例⑦ NDAを締結したが「秘密情報の定義」が曖昧で主張が通らなかった

取引検討先とNDAを締結した上で技術資料・製品仕様を開示した。その後,取引先が類似製品を独自開発して販売したため,NDA違反を主張した。しかし締結したNDAの秘密情報の定義が「口頭で秘密と告知した情報」に限定されており,書面で渡した技術資料がNDAの保護対象に含まれるかどうかが争われた。結果として,書面交付時に「秘密情報である」と明示していなかったことが問題となり,NDA違反の主張が認められなかった。

解決策:NDAの秘密情報の定義を「開示の方法(口頭・書面・電子データ等)を問わず,本取引に関連して開示されたすべての情報」と広く定め,かつ「秘密でない情報の立証責任は受領者側にある」旨を明記する。

事例⑧ 模倣品の発見が遅れ,現地市場で自社ブランドが毀損された

現地代理店からの報告で,自社製品の模倣品が現地ECサイトに大量に出回っていることが取引開始から2年後に判明。模倣品は品質が劣悪で,消費者からのクレームが自社ブランドへの批判として広がっていた。模倣品の製造元を調査したが,複数の中間業者を経由しており特定が困難で,すでにブランドイメージの毀損が深刻な段階になっていた。
解決策:現地代理店・取引先に対して模倣品発見時の報告義務を契約書に設ける。商標登録を現地でしておくことで,税関での輸入差止(水際対策)の申請が可能になる。模倣品発見から対応までのスピードが被害の大小を左右する。

⚠ 海外での商標・知財保護で最低限おさえるべき5つのポイント

① 海外展開を決めたらすぐに現地商標を出願する

先登録主義の国では「先に出願したもの勝ち」。日本での使用実績は保護されない。展開予定国への出願はビジネス準備と並行して,できる限り早期に行う。マドリッド協定議定書を活用すれば,1つの国際出願で複数国への出願が可能。

② 代理店・取引先との契約書に商標無断登録禁止条項を設ける

「商標・ロゴ・ブランド名は委託者に帰属し,代理店は自己名義での登録を禁止する。無断登録した場合は委託者への無償移転手続きを行う」旨を契約書に明記する。商標ライセンス条項も別途整備する。

③ サンプル・技術情報の開示前に必ずNDAを締結する

NDA締結を断る相手方との取引は慎重に検討する。NDAには秘密情報の定義を広く設け,「開示方法を問わずすべての情報」「秘密でないことの立証責任は受領者側」と明記する。

④ OEM委託契約に競業避止・処方独占使用禁止を明記する

OEM・ODM委託先に処方・製法・設計図を開示する場合,「委託者以外の第三者向けに同一・類似の処方・製法を使用・販売することを禁止する」競業避止条項を設ける。委託終了後も一定期間存続させることが重要。

⑤ 商標侵害・模倣品発見時は迅速に行動する

商標登録済みであれば,①警告書(Cease and Desist Letter)の送付,②税関への輸入差止申請(水際対策),③現地での差止請求・損害賠償請求を速やかに検討する。対応が遅れるほど模倣品が市場に浸透し,ブランド毀損と損害が拡大する。

なぜ当事務所の弁護士でなければならないのか

商標登録戦略の立案と契約書への反映

どの国に・どの商標を・いつ出願するかの戦略立案から,代理店・OEM契約への商標条項の組み込みまで,商標保護と契約書設計を一体で対応します。商標登録は弁理士と連携して進めることも可能です。

実効性あるNDA・秘密保持条項の設計

秘密情報の定義・用途制限・複製禁止・開示先の制限・違反時の救済手段を適切に設計したNDA・秘密保持条項を作成します。相手方から届いたNDAに抜け穴がある場合の修正・交渉も対応します。

模倣品・商標侵害発覚後の迅速な対応

模倣品や無断商標登録が発覚した場合,警告書(Cease and Desist Letter)の作成・送付,税関への差止申請,取消審判・無効審判の手続きを迅速に進めます。「今まさにトラブルが起きている」段階からのご相談も歓迎します。

現地弁護士・弁理士との連携対応

中国・ASEAN・インド等での商標取消・差止訴訟は現地の法律事務所との連携が不可欠です。現地弁護士・弁理士へのブリーフィング,交渉方針の共有,日本語での進捗報告まで,ワンストップでサポートします。

よくある質問(Q&A)

Q. 中国で自社商標が第三者にすでに登録されていました。取り戻せますか?

A. 状況によっては取消・無効にできる場合があります。①登録から3年以上経過し,登録者が当該商標を実際に使用していない場合は「不使用取消審判」を申請できます。②登録者が日本企業の商標を知りながら悪意で登録したことを立証できれば「悪意登録」として無効にできる場合があります(中国商標法第44条等)。ただし立証には証拠収集が必要で,成功率は事案によって異なります。まず現状の調査から弁護士にご相談ください。

Q. 代理店が自社商標を無断登録していました。すぐに取り戻せますか?

A. 契約書に「商標無断登録禁止・委託者への移転義務」が明記されていれば,契約違反を根拠に移転請求・損害賠償請求ができます。契約書に規定がない場合は,悪意登録の無効申請や,委任関係に基づく移転請求(国によっては認められる)を検討しますが,立証が困難になります。代理店との取引継続中に発覚した場合は,まず交渉による任意移転を目指すことが現実的です。いずれの場合も,早急に弁護士にご相談ください。

Q. NDAを締結せずにサンプルを渡してしまいました。模倣された場合に手段はありますか?

A. NDAがない場合でも,①メール・会議録等で秘密として扱うとの合意が確認できる場合,②相手方の行為が不正競争行為(不正競争防止法・各国の不正競争関連法)に該当する場合,③特許・意匠・著作権で保護される場合,には法的手段をとれる可能性があります。ただしNDAがない分,立証難易度は上がります。現状の証拠(サンプル送付記録・メール・類似製品の写真等)を保全した上で,できるだけ早く弁護士にご相談ください。

Q. 商標をどの国に登録すればよいかわかりません。優先順位の考え方を教えてください。

A. 一般的には,①現在輸出・販売している国,②近い将来に展開予定の国,③模倣リスクの高い製造拠点(中国・ASEAN)の順で優先します。中国は特に商標ハイジャックのリスクが高く,実際に販売する予定がなくても早期登録が推奨されます。マドリッド協定議定書(国際登録制度)を使えば日本の特許庁を経由して複数国に一括出願できるため,コストを抑えながら複数国をカバーできます。具体的な戦略は弁護士・弁理士にご相談ください。

Q. 現地ECサイトで模倣品が売られているのを発見しました。すぐにできることはありますか?

A. まず模倣品の出品状況・販売者情報・商品画像等の証拠を保全してください。自社商標が現地で登録済みであれば,Alibaba・Shopee・Lazada等の主要ECプラットフォームには商標権者による削除申請(知的財産権侵害報告)の仕組みがあり,比較的迅速に出品停止を求めることができます。さらに,販売者への警告書送付,税関への輸入差止申請,現地裁判所への差止命令申請も検討できます。商標未登録の場合は選択肢が限られるため,まず現地登録の手続きを急ぐことをお勧めします。

Q. 商標侵害・模倣品対応の費用と期間の目安を教えてください。

A. 作業内容(調査・警告書作成・取消審判・差止訴訟)・対象国・証拠状況によって大きく異なります。警告書の作成・送付であれば比較的短期間・低コストで対応できます。取消審判・無効審判・差止訴訟は現地弁護士・弁理士との連携が必要で,数ヶ月〜数年を要する場合もあります。まずは現状の状況をお知らせいただければ,当日または翌営業日中に見積もりをご回答します。正式ご依頼まで料金は発生しません。

【注意事項】本ページの事例は一般的な解説を目的とした模式的なものであり,特定の実在する案件・当事者を示すものではありません。商標・知的財産権の保護・侵害への対応は,対象国の法制度・登録状況・個別の事実関係によって大きく異なります。実際にトラブルが発生している,または発生が見込まれる場合は,早期に弁護士へご相談ください。

弁護士 菊地正登

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