プレビュー:不可抗力(Force Majeure)条項を巡るトラブルとその解決法

不可抗力(Force Majeure)条項を巡るトラブルとその解決法

不可抗力(Force Majeure)条項は,天災・戦争・感染症など当事者の支配が及ばない事由による契約不履行を免責する条項です。COVID-19・ロシアのウクライナ侵攻・米中対立に伴う輸出規制など,近年は国際取引に影響するリスク事由が急増しており,Force Majeure をめぐる紛争も世界中で増加しています。しかし「不可抗力だから免責される」と思い込んでいても,契約書の条項設計次第では免責が認められないケースが多く,逆に相手方にFMを悪用されて自社が損害を被るリスクもあります。具体的なトラブル事例と対処法を解説します。

このページでわかること

✔ FM免責が認められなかった・悪用されたトラブルで実際に起きた8つの事例と原因
✔ 各トラブルを防ぐためのForce Majeure条項の具体的な設計ポイント
✔ 国際契約のForce Majeure条項で最低限おさえるべき5つのチェックポイント

⚠ なぜForce Majeureをめぐるトラブルが頻発するのか

FM事由のリストが古く,現代のリスクをカバーしていない

「天変地異・戦争・暴動」という伝統的な列挙では,感染症・パンデミック・輸出規制・サイバー攻撃・気候変動による物流障害などの現代的リスクがカバーされていないことが多く,「そのリストに書いていないからFMではない」と解釈されます。

通知義務・期間の条件を満たしておらず免責が失われる

多くのFM条項には「FM発生後●日以内に書面で通知する義務」が定められています。この通知を遅らせたり書面でなく口頭で行ったりすると,それだけでFM免責の権利を失うと解釈されるケースがあります。現場担当者が法務に報告しないまま時間が過ぎることが多い。

FM免責の範囲・期間の上限が曖昧なため悪用・長期化する

「FM期間中はすべての義務が免除される」と解釈して代金支払いまで拒否する相手方,「まだFM中だ」と主張して解除権行使を妨害する相手方など,FM条項の曖昧さを利用した悪用事例が増えています。免責の範囲と期間の上限を明確に定めておかなければ,FM状態が無期限に続く事態になりかねません。

Force Majeure免責が認められなかったトラブル事例

「当然FMが認められるはず」という思い込みが損害を拡大させます。

⚠ 事例① コロナによる工場停止を理由に納期遅延を免責主張したが認められなかった

2020年,中国工場がロックダウンにより操業停止し,海外バイヤーへの納期に大幅な遅延が生じた。「パンデミックによる不可抗力だ」として遅延損害金の支払いを拒否したが,契約書のFM条項には「天災・火災・地震・洪水・暴動・戦争・政府の行為」と列挙されており,「感染症・疫病・パンデミック・ロックダウン」が明示されていなかった。バイヤー側は「列挙にないものはFMに該当しない」と主張し,遅延損害金を請求した。

解決策:FM条項に「感染症・疫病・パンデミック・政府による隔離・ロックダウン・操業停止命令」を明示的に列挙する。また「上記に限らず,合理的な支配が及ばない事由」という包括条項(catch-all clause)を追記することで列挙漏れをカバーする。

⚠ 事例② FM発生の通知が遅れ,免責を主張できなくなった

台風による工場の浸水被害でラインが停止し,2週間の納期遅延が生じた。現場担当者は被害対応に追われ,契約書の通知義務を失念したまま約3週間後に相手方へ連絡した。しかし契約書には「FM事由発生後5営業日以内に書面で通知しなければならず,通知を怠った場合はFM免責を援用できない」との条件が明記されており,相手方はこれを根拠に遅延損害金の全額支払いを求めた。

解決策:FM通知義務の期間・方法・記載事項(FM事由の内容・予想される影響・代替履行の可能性等)を社内で周知し,緊急時の報告ルートを確立する。契約書上の通知期間も,実務上対応可能な合理的な期間(7〜14日)に交渉することが重要。

⚠ 事例③ 輸出規制による部品調達不能がFMと認められず損害賠償責任を負った

米国の輸出管理規則(EAR)改正により,主要部品の調達ルートが突然閉鎖され,製品の製造・納品が不可能になった。「政府規制による不可抗力だ」と主張したが,契約書のFM条項には「政府の行為(governmental action)」との文言があったものの,相手方は「輸出規制は予見可能なリスクであり,代替調達先を確保すべきだった」と主張。裁判所(準拠法:英国法)は相手方の主張を一部認め,免責が限定的とされた。

解決策:「輸出規制・輸入規制・経済制裁・貿易禁止措置・政府による取引制限」をFM事由に明示的に列挙する。また「代替手段による履行が商業的に合理的でない場合(commercially impracticable)」という要件を加えることで,代替調達の不可能性を争いにくくする。

事例④ 下請けサプライヤーの操業停止をFMとして主張したが認められなかった

主要部品を調達していた下請けサプライヤーが突然倒産・操業停止し,最終製品の製造が不可能になった。「サプライヤーの倒産は自社の支配外の事由だ」としてFMを主張したが,契約書のFM条項は「契約当事者に直接影響する事由」に限定されており,「第三者(下請け業者)の不履行」はFMに含まれないと解釈された。相手方は「別のサプライヤーから調達できたはず」とも主張した。
解決策:「自社の下請業者・サプライヤーの不履行・倒産・操業停止であって,かつ代替調達が合理的に不可能な場合」もFM事由に含む旨を明記する。また複数購買(Dual Sourcing)体制の整備やサプライヤー変更条項の確認も重要。

Force Majeure条項の悪用・解釈をめぐるトラブル事例

FM条項の曖昧さを相手方に利用されるケースも深刻です。

⚠ 事例⑤ 相手方がFMを口実に代金支払いまで拒否した

供給側がFMを宣言した際,買主側が「あなた方がFMだと言うなら,こちらもFMだ」として,すでに受領済みの製品の代金支払いを拒否した。契約書のFM条項には「FM期間中,当事者は本契約上のすべての義務を免除される」と広く規定されており,代金支払い義務もその「すべての義務」に含まれるかが争われた。FM条項の免責範囲が「履行遅延の免責」にとどまらず「代金支払義務の免除」にまで及ぶかで解釈が対立し,交渉が長期化した。

解決策:FM免責の対象を「履行期限の延長(suspension of performance obligations)」に限定し,「代金支払義務・既発生債務の弁済義務はFMによっても免除されない」と明記する。

⚠ 事例⑥ FM状態が長期化し,解除権の行使タイミングが争われた

相手方がFMを宣言してから6ヶ月が経過してもFM状態が解消されず,契約解除を申し入れた。しかし相手方は「まだFMが継続しているため解除できない。解除すれば損害賠償を請求する」と主張した。契約書には「FMが継続した場合,●ヶ月後に解除できる」という規定がなく,「相当期間の経過」という曖昧な表現しかなかったため,「相当期間」の解釈をめぐって対立が続いた。

解決策:「FM事由が●日(例:90日または180日)以上継続した場合,いずれの当事者も●日前の書面通知によって本契約を解除できる」というFM継続解除権(Termination for Extended Force Majeure)を明確に規定する。

事例⑦ 紛争地域経由の物流停止をFMとして主張したが一部しか認められなかった

ウクライナ情勢の悪化により,欧州向け陸路輸送ルートが使えなくなり,航空輸送への切り替えでコストが大幅に増加した。契約書には「戦争・武力衝突」がFM事由として列挙されていたが,相手方は「紛争地域を経由する物流の遅延・コスト増加は戦争そのものではない」と主張。仲裁廷は,物流の一部停止はFMに該当するが,航空輸送への切り替えコスト差額は当事者の負担とし,免責の範囲を限定的に解釈した。

解決策:「戦争・武力衝突・これに起因する物流障害・輸送ルートの閉鎖・著しいコスト増加」をFM事由に明記する。またコスト増加時の負担配分(例:一定割合を超えるコスト増加は再交渉の対象とする)を定めておく。

事例⑧ FM期間中に発注済み商品の代金支払い義務をめぐり交渉が膠着した

FM発生前に注文・製造着手済みの商品について,FM期間中に納品が不可能になった。買主は「FMで受け取れないのだから代金は支払わない」,売主は「製造コストはすでに発生しており,少なくとも一部は支払うべきだ」として対立。契約書にFM期間中の製造着手済み品の扱いに関する規定がなく,交渉が数ヶ月にわたって膠着した。
解決策:「FM発生時点で製造着手済みの仕掛品(work-in-progress)・完成品については,買主は一定の補償を行う義務を負う」旨,またはFM発生後の発注キャンセル条件・キャンセル料の算定方法をFM条項または発注キャンセル条項に明記する。

⚠ 国際契約のForce Majeure条項で最低限おさえるべき5つのポイント

① FM事由を現代のリスクに対応した形で具体的に列挙し,包括条項を加える

「天災・火災・戦争」という伝統的列挙に加え,「感染症・パンデミック・政府によるロックダウン・輸出入規制・経済制裁・サイバー攻撃・気候変動による物流障害・下請業者の不可抗力」を明示的に列挙する。さらに「上記に限らず,合理的な支配が及ばないすべての事由」という包括条項で列挙漏れをカバーする。

② 通知義務の期間・方法・内容を実務対応可能な形で定める

「FM発生後●日以内(5日は短すぎる,7〜14日が実務的)に,書面(メール可)で,FM事由の内容・影響範囲・予想継続期間・代替履行の可能性を通知する」と具体的に定める。通知遅延の効果(免責の喪失か損害賠償責任か)も明記する。

③ FM免責の範囲を「履行遅延の免責」に限定し,代金支払義務は除外する

「FM免責はFM期間中の履行義務の一時停止に限る。代金支払義務・既発生債務の弁済義務はFMによっても免除されない」と明記することで,FM条項の過大解釈・悪用を防ぐ。

④ FM継続期間の上限と解除権の発動条件を設ける

「FM事由が●日(90〜180日程度)以上継続した場合,いずれの当事者も●日前の書面通知により解除できる」というFM継続解除権を明記する。解除時の清算方法(仕掛品の補償・未払代金の処理)も併せて定める。

⑤ FM発生時の代替履行努力義務・回復計画提出義務を規定する

「FM当事者は,FM事由の影響を軽減するために商業的に合理的な努力(commercially reasonable efforts)を行う義務を負い,FM発生後●日以内に回復計画(recovery plan)を相手方に提出する」と定めることで,FM宣言後の「何もしない」状態を防ぐ。

なぜ当事務所の弁護士でなければならないのか

現代のリスクに対応したFM条項の設計

パンデミック・輸出規制・サイバー攻撃・地政学リスクなど,近年急増しているリスク事由を網羅したFM条項を設計します。相手方が提示した契約書のFM条項に抜け穴がある場合の修正・交渉も対応します。

準拠法によるFM解釈の違いへの対応

FM条項の解釈は準拠法によって大きく異なります。英国法では「frustration(目的達成不能)」,フランス法・ドイツ法では民法の不可抗力規定,日本法では「危険負担・免責条項」の解釈が絡みます。準拠法に応じた適切な条項設計・解釈アドバイスを提供します。

FM発生時の通知書・回復計画の作成支援

実際にFM事由が発生した際の通知書(Force Majeure Notice)の作成,相手方からのFM宣言への反論書面の作成,FM期間中の交渉・和解対応をサポートします。「今まさにFM発生中」という段階からのご相談も歓迎します。

相手方による不当なFM主張への反論

相手方が不当にFMを宣言して代金支払いや納期遵守を拒否している場合,FM要件の充足性・通知義務の遵守状況・代替履行の可能性等を精査し,FM主張を否定する根拠を分析した上で交渉・請求対応を行います。

よくある質問(Q&A)

Q. 契約書にForce Majeure条項がありません。それでも天災・感染症による不履行は免責されますか?

A. 準拠法によって異なります。日本法では「危険負担」(民法536条)や「事情変更の原則」,英国法では「frustration(目的達成不能)」,フランス法・ドイツ法では民法上の不可抗力規定が適用される可能性がありますが,いずれも要件が厳格で,単なる困難・コスト増加では認められません。FM条項を契約書に明記することで,当事者が予め合意した基準でFM免責が判断されるため,条項がない場合より確実に保護されます。

Q. コロナ・感染症による操業停止はForce Majeureとして認められますか?

A. 契約書のFM条項に「感染症・疫病・パンデミック・政府によるロックダウン・操業停止命令」が明示されていれば,一般的にFMとして認められます。これらの文言がなく「天変地異・戦争」等の伝統的な列挙しかない場合は,「感染症はリストにないからFMでない」と解釈される可能性があります。また,FM発生の通知義務を適切に履行しているかも免責の成否に影響します。

Q. FM通知の期限(例:5日以内)を守れませんでした。免責は完全に失われますか?

A. 準拠法・契約書の文言次第ですが,「通知を怠った場合はFM免責を援用できない」と明記されている場合は,免責が失われると解釈されるリスクがあります。ただし,通知遅延の程度・理由・相手方への実害がない場合には,裁量的に一部免責が認められるケースもあります。通知期限を過ぎている場合でも,できるだけ早く書面で通知するとともに,遅延の正当な理由を明記してください。状況に応じた対応策を弁護士にご相談ください。

Q. 相手方がFMを宣言しましたが,理由が不当だと思います。どう対応すればよいですか?

A. まず相手方のFM通知書の内容を確認し,①FM事由が契約書に列挙されているか,②通知方法・期間が契約書の要件を満たしているか,③代替履行の可能性が検討されたか,④主張している事由が実際に履行を不可能にしているかを検証してください。これらの要件を満たしていない場合は,FM宣言を否定する反論書面を送付し,履行請求または損害賠償請求を維持することができます。弁護士による反論書面の作成をお勧めします。

Q. 相手方がFMを宣言して6ヶ月が経ちます。契約を解除できますか?

A. 契約書にFM継続解除権(例:「FMが90日以上継続した場合,いずれの当事者も契約を解除できる」)が定められていれば,その条件に従って解除できます。規定がない場合は,準拠法上の「frustration(目的達成不能)」や「事情変更の原則」に基づく解除を検討することになりますが,要件が厳格です。長期間の交渉を強いられることも多いため,まず現状の契約書と準拠法に基づく選択肢を弁護士に分析してもらうことをお勧めします。

Q. Force Majeure条項の作成・リーガルチェックの費用と期間の目安を教えてください。

A. 作業内容(新規作成・既存条項のチェック・修正交渉対応・通知書作成)・契約書のページ数・準拠法によって異なります。見積依頼から当日または翌営業日中に回答します。正式ご依頼まで料金は発生しません。契約書をご添付いただければ,FM条項の問題点を確認した上で正確な見積もりをお伝えします。「今まさにFM紛争が起きている」という段階からのご相談も歓迎しています。

【注意事項】本ページの事例は一般的な解説を目的とした模式的なものであり,特定の実在する案件・当事者を示すものではありません。Force Majeure条項の解釈・適用は準拠法・契約書の文言・個別の事実関係によって大きく異なります。実際にトラブルが発生している,または発生が見込まれる場合は,早期に弁護士へご相談ください。

弁護士 菊地正登

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