独占販売権と並行輸入トラブルの解決法——対策の限界と独禁法リスク

苦労して取得した独占輸入販売権なのに,第三者が同じ商品を並行輸入して安値で販売している——そのような状況に陥った場合,「違法だから差止・損害賠償を求めよう」とすると,かえって自分が独占禁止法違反を問われるリスクがあります。日本では一定の要件を満たす並行輸入は適法であり,並行輸入の阻止行為は厳しく規制されています。実際のトラブル事例と,独禁法に違反しない範囲での有効な対策を弁護士が解説します。

このページでわかること

  • 日本法上,並行輸入が適法とされる3要件と,差止が認められるケース
  • 独占販売店が取りうる並行輸入対策と,独占禁止法・競争法上の限界
  • 公正取引委員会が問題視する7つの並行輸入妨害行為のパターン
  • 英文契約書(独占販売契約)に盛り込むべき並行輸入防止条項の設計ポイント
  • 品質劣化・偽物混入など,正当な根拠がある場合の差止請求事例

並行輸入トラブル——3つの典型リスク

並行輸入は原則
適法——差止困難
日本では,真正品かつ内外権利者が同一等の要件を満たせば並行輸入は適法。独占販売権だけでは第三者の並行輸入を差し止めることは難しい。
妨害行為が
独禁法違反に
並行輸入業者への妨害・海外取引先への販売停止要請・買占めなどを「価格維持目的」で行うと独占禁止法上の不公正な取引方法に該当しうる。
ブランド価値の
希薄化・価格競争
並行輸入品の安売りが正規ルートの価格・ブランドイメージを傷つける。マーケティング投資の成果を並行輸入業者に「ただ乗り」される問題も。

日本法上,並行輸入が「適法」とされる3要件

以下の3要件をすべて満たす場合,並行輸入は日本の商標権侵害にならない(最高裁判例)
  1. 真正商品性:輸入商品に付された商標が,輸入元の国の商標権者等によって適法に付されたものであること
  2. 内外権利者の同一性:輸入元の国の商標権者と日本の商標権者が同一人,または法律的・経済的に同一人と言える関係にあること
  3. 品質管理の同一性:日本の商標権者が直接・間接に商品の品質管理を行っており,商標の出所識別機能・品質保証機能を損なわないこと

要件①②③をすべて満たす限り,独占販売権者であっても法的な差止手段は限られます。ただし,品質劣化・偽物混入など③の要件を欠く場合は差止の余地があります。

⚠️ 並行輸入トラブル事例・解決集

⚠ ① 独占販売権を持っていても並行輸入を止められない——差止要求が逆に独禁法リスクに
状況

日本の輸入販売会社が,フランスのブランドメーカーから高級アクセサリー「フォンセ」の独占輸入販売権を取得した。雑誌・テレビ取材が相次ぎ,独自のマーケティング活動によってブランドの知名度を高め,販売は好調だった。ところがある時期から,複数の日本の小売店がフォンセ商品をオンラインで販売し始めた。

会社の判断と問題点

独占販売権者として「他社の販売は違法だ。差止・損害賠償を求めよ」と指示が出された。しかし調査の結果,当該並行輸入品は真正品であり,フランスの商標権者と日本の商標権者は同一企業グループであったため,並行輸入の3要件をすべて満たし,日本法上は適法であることが判明した。さらに,並行輸入業者への販売停止要請・海外の取引先への圧力などの対抗措置を取ろうとしたところ,それが「価格維持目的の並行輸入妨害」として独占禁止法違反に問われる可能性があることも判明した。

経緯と結果

並行輸入を法的に止める手段が限られることを認識した上で,契約上の対策(ブランドオーナーとの契約でサブライセンス先への転売禁止を義務付ける等)と,正規ルートとしての差別化戦略(アフターサービス・正規保証書・公式マーケティング)によって並行輸入品との差別化を図ることとした。

⚠ ② 並行輸入品に品質劣化品が混入——ブランドイメージへの損害が発生
状況

日本の独占輸入代理店がヨーロッパのコスメブランドの独占販売権を保有していた。ある時期から,並行輸入ルートで入ってくる同一ブランドの商品に,製造日の古い商品・輸送中の温度管理不良による品質劣化品が混入しているとの消費者からのクレームが相次いだ。正規代理店の商品と並行輸入品が市場で混在しており,クレームを受けた消費者は正規代理店の商品と並行輸入品を区別できていなかった。

法的な問題点と対応

並行輸入品の品質劣化は,「商標の品質保証機能を損なう」として差止要件③を欠く状態にあたる可能性があった。弁護士が介入し,品質劣化品の流通実態を証拠化(購入した劣化品の成分検査・消費者からのクレーム記録等)するとともに,ブランドオーナーと連携して,品質管理不備を根拠とした並行輸入差止の根拠を整備した。

経緯と結果

品質劣化の証拠を基に,主要な並行輸入業者に対して内容証明郵便(英文・日本語)で販売中止を求めた。複数の業者が販売を中止し,市場における品質問題は収束した。また,ブランドオーナーとの独占販売契約を改訂し,日本市場への並行輸入品流通を抑制するための条項(海外卸業者への転売禁止義務・トレーサビリティ管理義務等)を追加した。

✅【解決事例①】英文契約書の条項整備で並行輸入を実質抑制——正規ルートのブランド価値を維持
対応内容

海外ブランドとの独占販売契約を締結・更新する際に,弁護士に契約書設計を依頼した。並行輸入対策として,以下の条項を盛り込んだ。①ブランドオーナーが自社の海外卸業者・サブライセンシーに対して,日本市場向けの転売を禁止する義務を負う旨(ただし独禁法上問題のない形式で)。②シリアル番号・QRコードによる製品トレーサビリティ管理を義務付け,並行輸入品の流通経路を特定可能にする。③日本市場への並行輸入が発生した場合,ブランドオーナーが調査・是正措置を取る義務を負う。④並行輸入品と正規品を消費者が識別できる「正規品証明ラベル」の独占使用権をABC販売に付与する。

成功の要因

並行輸入自体を法的に「禁止」する条項ではなく,ブランドオーナーが流通経路を管理する義務を負う形にしたことで,独禁法上の問題を回避しながら実質的な流通コントロールを実現した。正規品証明ラベルの活用により,消費者が正規品を選んで購入する動機を高め,並行輸入品との差別化に成功した。

✅【解決事例②】品質劣化品の差止と損害賠償——証拠収集と弁護士交渉で解決
経緯

並行輸入業者が販売する商品に品質不良品・保証書偽造品が含まれていることが判明した。独占販売権者として差止と損害賠償を求めるため,弁護士に依頼した。

成功の要因

①保証書偽造は商標法・不正競争防止法(虚偽表示)の違反として明確な法的根拠があった。②品質不良品については,専門機関による成分・品質分析レポートを証拠として準備し,「商標の品質保証機能を損なう」ことを具体的に立証した。③弁護士が英文・日本語の警告書(cease and desist letter)を内容証明で送付し,法的手続きに移行することを明示した。並行輸入業者の大半が1〜2週間以内に販売を停止し,一部業者とは損害賠償の支払いで和解が成立した。

独禁法上NGな並行輸入妨害行為——公正取引委員会が問題視する7パターン

下記の行為が「価格維持目的」でなされた場合,不公正な取引方法として独占禁止法違反となりえます(公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」より)。

⚠ 価格維持目的でこれらの行為を行うと独禁法違反になりうる
海外の流通ルートから並行輸入業者への商品供給を妨害すること
並行輸入品の入手経路を調査し,海外取引先に対して並行輸入業者への販売停止を求めること
国内の購入者(小売店等)に対して並行輸入品の購入・販売を妨害すること
正規品でないと虚偽のことを言い,商標権侵害として並行輸入品の販売差止を求めること
並行輸入品を市場から排除するために買い占めること
修理対応が可能にもかかわらず,自社取扱品でないことのみを理由に並行輸入品の修理・部品供給を拒否すること
広告媒体に圧力をかけて,並行輸入品の広告掲載を妨害すること
※ 上記の行為も,①商品仕様・品質が異なり消費者が正規品と誤認するおそれがある場合,または②品質劣化品が流通して消費者の健康・安全を害する場合は,正当な対抗措置として許容されます。

並行輸入リスクを抑える英文契約書 5つのチェックポイント

ブランドオーナーに流通管理義務を課す条項を入れる 「ブランドオーナーは,自社の海外卸業者・サブライセンシーが日本市場向けに商品を転売しないよう,契約上の義務を課す」旨を独占販売契約に明記する。ブランドオーナー側の努力義務として規定することで,独禁法上の問題を避けながら流通経路のコントロールを求めることができる。
製品トレーサビリティ管理を契約上の義務にする シリアル番号・QRコード・ICタグなどによる個品管理を契約上の義務として規定する。並行輸入品が発生した際に流通経路の特定が可能になり,ブランドオーナーへの対処要請や,品質劣化・偽造品であった場合の差止の根拠になる。
正規品識別手段(正規品証明ラベル等)の独占使用権を確保する 「正規輸入品」「公式保証書付」などの識別ラベル・シールの独占使用権を契約で確保し,消費者が正規品を選択できる環境を作る。並行輸入品を法的に「禁止」することは難しくても,正規品としての付加価値を明確にすることで市場での差別化を図ることができる。
品質管理義務・品質不良品への対処条項を整備する ブランドオーナーによる品質管理基準・輸送条件・保管条件を契約書で定義し,これを満たさない並行輸入品が流通した場合の差止根拠を確保する。品質劣化品・偽造品が流通している場合は,それを「商標の品質保証機能を損なう」として差止を求める法的根拠になる。
独禁法・競争法コンプライアンスを踏まえた対策設計をする 並行輸入への対抗措置を実施する際は,日本の独占禁止法・EU競争法・各国反トラスト法などの規制を踏まえた設計が必要。「価格維持目的」と認定される行為は違法になりうるため,ブランド保護・消費者保護・品質管理を目的とした措置として実施する。弁護士と連携して法的リスクを確認した上で進めることが不可欠。

弁護士ができること

並行輸入の適法性・差止可能性の評価

現在発生している並行輸入が適法かどうか(3要件の充足)を評価し,差止・損害賠償請求が可能かどうかを法的に判断します。品質劣化・偽造品の場合は差止の根拠整備もサポートします。

独占販売契約の並行輸入対策条項の整備

ブランドオーナーとの独占販売契約に,流通管理義務・トレーサビリティ条項・正規品識別手段の独占使用権など,独禁法に違反しない形で並行輸入を実質的に抑制する条項を設計・交渉します。

✉️ 並行輸入業者への警告書(英文・日本語)

品質劣化品・偽造品・商標権侵害等,正当な根拠がある場合に,並行輸入業者に対する英文・日本語の警告書(cease and desist letter)を作成・送付し,販売停止・損害賠償を求める交渉を進めます。

⚖️ 独禁法コンプライアンス確認

並行輸入対策として検討している措置が独占禁止法・競争法上問題がないかを事前に確認し,リスクのある措置を回避します。対策の目的・方法が「価格維持」と認定されないよう,適切な形式・手順での実施をアドバイスします。

よくある質問(FAQ)

独占輸入販売権があれば,並行輸入を差し止めることができますか?
原則としてできません。日本では,①真正品であること,②内外の商標権者が同一または同一と見なせる関係にあること,③商標の品質保証機能が損なわれていないこと,の3要件を満たす並行輸入は商標権侵害にならないとされています。独占販売権はあくまでブランドオーナーとの契約上の権利であり,第三者による真正品の並行輸入を法的に止める根拠にはなりません。ただし,品質劣化品・偽造品・保証書偽造などの場合は差止の余地があります。
並行輸入業者への販売停止要請は違法になりますか?
「価格維持目的」でなされた場合,独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する可能性があります。一方,品質劣化品・偽造品の流通を防ぐための要請は正当な目的として認められる場合があります。対応を取る前に,その目的・方法・証拠が独禁法上問題ないかを弁護士に確認することを強くお勧めします。
海外のブランドオーナーに,並行輸入業者への販売停止を求めることはできますか?
独占販売契約にブランドオーナーの流通管理義務を規定している場合は,その履行を求めることができます。ただし,ブランドオーナーが海外卸業者に「日本向け転売禁止」を課す行為自体も,その国の競争法(EU競争法・米反トラスト法等)に抵触する可能性があるため,ブランドオーナー側も慎重な対応が必要です。契約上の義務を設計する際は,各国の競争法を踏まえた弁護士の関与が不可欠です。
並行輸入品と正規品を区別してもらうための有効な方法はありますか?
最も有効なのは,消費者が正規品を識別できる仕組みを整えることです。具体的には,①正規輸入品証明ラベル・正規保証書の添付,②QRコードや専用アプリによる正規品確認機能,③正規品のみに付与される保証・アフターサービスの差別化,などが効果的です。また,ブランドオーナーと連携して「正規品であることの公式アナウンス」を行い,消費者の認知を高めることも有効です。
並行輸入品が安売りされて正規品の価格・ブランドイメージが下がっています。法的に対応できますか?
並行輸入品が真正品であれば,価格競争自体を法的に止めることは原則できません。ただし,①並行輸入品の品質に問題がある場合(品質劣化・保証書偽造等),②並行輸入品が商標の品質保証機能を損なっている場合,③独占販売契約に流通管理義務条項があり,ブランドオーナーが是正義務を負っている場合,などには法的な対応の余地があります。まずは現状の証拠収集と弁護士への相談から始めることをお勧めします。
今後締結する独占販売契約に,並行輸入対策として何を盛り込むべきですか?
①ブランドオーナーの流通管理義務(海外卸業者への日本向け転売禁止義務付け),②製品トレーサビリティ管理の義務化,③正規品識別手段(ラベル・QRコード等)の独占使用権,④品質管理基準と品質不良品への対処義務,⑤並行輸入が発生した場合のブランドオーナーによる調査・是正義務,の5点を基本として盛り込むことをお勧めします。ただし,各国の競争法と整合するかどうかを弁護士と事前に確認することが必要です。
※ 本ページに記載の事例は,守秘義務の観点から実際の事案を改変・一般化したものです。個別案件の結論は事実関係・準拠法・相手国の法制度等によって異なります。具体的なご相談は弁護士に直接お問い合わせください。

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