苦労して取得した独占輸入販売権なのに,第三者が同じ商品を並行輸入して安値で販売している——そのような状況に陥った場合,「違法だから差止・損害賠償を求めよう」とすると,かえって自分が独占禁止法違反を問われるリスクがあります。日本では一定の要件を満たす並行輸入は適法であり,並行輸入の阻止行為は厳しく規制されています。実際のトラブル事例と,独禁法に違反しない範囲での有効な対策を弁護士が解説します。
このページでわかること
並行輸入トラブル——3つの典型リスク
| ① 並行輸入は原則 適法——差止困難 日本では,真正品かつ内外権利者が同一等の要件を満たせば並行輸入は適法。独占販売権だけでは第三者の並行輸入を差し止めることは難しい。 | ② 妨害行為が 独禁法違反に 並行輸入業者への妨害・海外取引先への販売停止要請・買占めなどを「価格維持目的」で行うと独占禁止法上の不公正な取引方法に該当しうる。 | ③ ブランド価値の 希薄化・価格競争 並行輸入品の安売りが正規ルートの価格・ブランドイメージを傷つける。マーケティング投資の成果を並行輸入業者に「ただ乗り」される問題も。 |
日本法上,並行輸入が「適法」とされる3要件
要件①②③をすべて満たす限り,独占販売権者であっても法的な差止手段は限られます。ただし,品質劣化・偽物混入など③の要件を欠く場合は差止の余地があります。
⚠️ 並行輸入トラブル事例・解決集
日本の輸入販売会社が,フランスのブランドメーカーから高級アクセサリー「フォンセ」の独占輸入販売権を取得した。雑誌・テレビ取材が相次ぎ,独自のマーケティング活動によってブランドの知名度を高め,販売は好調だった。ところがある時期から,複数の日本の小売店がフォンセ商品をオンラインで販売し始めた。
独占販売権者として「他社の販売は違法だ。差止・損害賠償を求めよ」と指示が出された。しかし調査の結果,当該並行輸入品は真正品であり,フランスの商標権者と日本の商標権者は同一企業グループであったため,並行輸入の3要件をすべて満たし,日本法上は適法であることが判明した。さらに,並行輸入業者への販売停止要請・海外の取引先への圧力などの対抗措置を取ろうとしたところ,それが「価格維持目的の並行輸入妨害」として独占禁止法違反に問われる可能性があることも判明した。
並行輸入を法的に止める手段が限られることを認識した上で,契約上の対策(ブランドオーナーとの契約でサブライセンス先への転売禁止を義務付ける等)と,正規ルートとしての差別化戦略(アフターサービス・正規保証書・公式マーケティング)によって並行輸入品との差別化を図ることとした。
日本の独占輸入代理店がヨーロッパのコスメブランドの独占販売権を保有していた。ある時期から,並行輸入ルートで入ってくる同一ブランドの商品に,製造日の古い商品・輸送中の温度管理不良による品質劣化品が混入しているとの消費者からのクレームが相次いだ。正規代理店の商品と並行輸入品が市場で混在しており,クレームを受けた消費者は正規代理店の商品と並行輸入品を区別できていなかった。
並行輸入品の品質劣化は,「商標の品質保証機能を損なう」として差止要件③を欠く状態にあたる可能性があった。弁護士が介入し,品質劣化品の流通実態を証拠化(購入した劣化品の成分検査・消費者からのクレーム記録等)するとともに,ブランドオーナーと連携して,品質管理不備を根拠とした並行輸入差止の根拠を整備した。
品質劣化の証拠を基に,主要な並行輸入業者に対して内容証明郵便(英文・日本語)で販売中止を求めた。複数の業者が販売を中止し,市場における品質問題は収束した。また,ブランドオーナーとの独占販売契約を改訂し,日本市場への並行輸入品流通を抑制するための条項(海外卸業者への転売禁止義務・トレーサビリティ管理義務等)を追加した。
海外ブランドとの独占販売契約を締結・更新する際に,弁護士に契約書設計を依頼した。並行輸入対策として,以下の条項を盛り込んだ。①ブランドオーナーが自社の海外卸業者・サブライセンシーに対して,日本市場向けの転売を禁止する義務を負う旨(ただし独禁法上問題のない形式で)。②シリアル番号・QRコードによる製品トレーサビリティ管理を義務付け,並行輸入品の流通経路を特定可能にする。③日本市場への並行輸入が発生した場合,ブランドオーナーが調査・是正措置を取る義務を負う。④並行輸入品と正規品を消費者が識別できる「正規品証明ラベル」の独占使用権をABC販売に付与する。
並行輸入自体を法的に「禁止」する条項ではなく,ブランドオーナーが流通経路を管理する義務を負う形にしたことで,独禁法上の問題を回避しながら実質的な流通コントロールを実現した。正規品証明ラベルの活用により,消費者が正規品を選んで購入する動機を高め,並行輸入品との差別化に成功した。
並行輸入業者が販売する商品に品質不良品・保証書偽造品が含まれていることが判明した。独占販売権者として差止と損害賠償を求めるため,弁護士に依頼した。
①保証書偽造は商標法・不正競争防止法(虚偽表示)の違反として明確な法的根拠があった。②品質不良品については,専門機関による成分・品質分析レポートを証拠として準備し,「商標の品質保証機能を損なう」ことを具体的に立証した。③弁護士が英文・日本語の警告書(cease and desist letter)を内容証明で送付し,法的手続きに移行することを明示した。並行輸入業者の大半が1〜2週間以内に販売を停止し,一部業者とは損害賠償の支払いで和解が成立した。
独禁法上NGな並行輸入妨害行為——公正取引委員会が問題視する7パターン
下記の行為が「価格維持目的」でなされた場合,不公正な取引方法として独占禁止法違反となりえます(公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」より)。
並行輸入リスクを抑える英文契約書 5つのチェックポイント
弁護士ができること
現在発生している並行輸入が適法かどうか(3要件の充足)を評価し,差止・損害賠償請求が可能かどうかを法的に判断します。品質劣化・偽造品の場合は差止の根拠整備もサポートします。
ブランドオーナーとの独占販売契約に,流通管理義務・トレーサビリティ条項・正規品識別手段の独占使用権など,独禁法に違反しない形で並行輸入を実質的に抑制する条項を設計・交渉します。
品質劣化品・偽造品・商標権侵害等,正当な根拠がある場合に,並行輸入業者に対する英文・日本語の警告書(cease and desist letter)を作成・送付し,販売停止・損害賠償を求める交渉を進めます。
並行輸入対策として検討している措置が独占禁止法・競争法上問題がないかを事前に確認し,リスクのある措置を回避します。対策の目的・方法が「価格維持」と認定されないよう,適切な形式・手順での実施をアドバイスします。
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