【実例】英文契約書をチェックせず署名した中小企業の失敗5例と,修正で防げた条項

この記事の結論:署名前のリーガルチェック(1通9万円程度〜)で防げたはずのトラブルが,実務では繰り返し起きています。以下は当事務所に寄せられた相談事例をもとに再構成した典型的な5つの失敗例です(守秘義務のため業種・金額等は変更しています)。

失敗例1:独占販売権を「期限なし」で与えてしまった

メーカー・輸出海外の販売会社から「この国では独占にしてほしい」と言われ,相手が用意したDistributorship Agreementにそのまま署名。契約期間と解約の定めが実質的にありませんでした。

販売実績がほとんど上がらないのに独占権だけが残り,その国で他の販売店と組むことができなくなりました。解消交渉は難航し,市場参入が数年単位で遅れました。

契約期間(Term)を1〜2年の更新制にする/最低購入数量(Minimum Purchase Quantity)を設定し,未達の場合は独占権を非独占に切り替えるか解約できる(Termination)条項を入れる。この2点は署名前の修正なら数行の追記で済みます。

失敗例2:最低購入数量はあるのに「未達でも何もできない」契約だった

食品・輸出最低購入数量の条項はあったため安心して署名。しかし「未達の場合にどうなるか」がどこにも書かれていませんでした。

相手が数量を大幅に下回っても,契約上の打ち手がなく独占契約に拘束され続けました。「条項がある」ことと「機能する」ことは別物でした。

未達の効果(独占権の喪失・解約権・不足分の補償など)を明記する。数量条項は必ず「未達の場合」とセットで規定するのが鉄則です。

失敗例3:無限定の補償条項(Indemnification)に気づかなかった

部品製造・OEM英文の細かい規定は「どうせ定型だろう」と読み飛ばして署名。実は自社が相手方の損害を無限定に補償する片面的なIndemnification条項が入っていました。

エンドユーザーからのクレーム対応費用・弁護士費用まで全額の負担を求められ,取引で得た利益を大きく超える支出になりました。

責任上限(Liability Cap:例えば直近12か月の取引額まで)と間接損害の除外(No Consequential Damages)を入れる/補償は双方向(Mutual)にする。英文契約では「書いていないから安心」ではなく「書かれたままに執行される」のが原則です。

失敗例4:準拠法と裁判管轄が相手国になっていた

商社・輸入末尾の一般条項(General Provisions)を確認せず署名。準拠法(Governing Law)と紛争解決地が相手国の裁判所になっていました。

代金トラブルが起きたものの,相手国での訴訟には現地弁護士費用だけで数百万円かかる見込みとなり,請求自体を断念せざるを得ませんでした。

日本法・日本での仲裁(または少なくとも中立地・仲裁機関)に修正する。交渉力の関係で相手国準拠になる場合も,仲裁地や言語だけでも有利にできる余地があります。一般条項は「最後にある定型文」ではなく,紛争時に最初に効いてくる条項です。

失敗例5:開発成果・改良技術の帰属が曖昧なままだった

機械・共同開発共同開発を伴う取引で,知的財産の帰属(IP Ownership)を明確にしないまま作業を開始し,後から相手のひな形で契約を締結しました。

自社のノウハウを投入した改良技術が契約上は相手方に帰属する形になっており,以後,自社製品への利用にも制約を受けることになりました。

既存知財(Background IP)と新規成果(Foreground IP)を区別し,帰属とライセンス範囲を明記する。技術が絡む契約は,着手前の締結と帰属の明文化が生命線です。

5つの失敗に共通すること

いずれも,署名前のリーガルチェックであれば数行の修正で防げたトラブルです。チェック費用は1通9万円程度〜(当事務所・税抜)に対し,起きてしまった後の損失は数百万円〜数千万円規模になり得ます。どの取引で弁護士に依頼すべきかの目安は「弁護士に依頼すべきケース(取引金額・契約類型別の早見表)」をご覧ください。

※本記事の事例は,当事務所の累計2,910件(2026年6月時点)の相談・案件実績のうち典型的なパターンを,守秘義務に配慮して業種・金額・経緯を変更のうえ再構成したものです。

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