英文契約書によくある品質を巡るトラブルとその解決法

 日本の㈱ABC企画は,ベトナムの㈱XYZデザインに,ソフトウェア開発について業務委託をしました。

 

 ベトナムの人件費は,日本よりも安く,ABCとしては,全体の制作過程コストを下げることにより,受注を多くしていくことが狙いでした。

 

 ベトナムのXYZは,かねてからの日本の取引先から紹介を受けた会社でした。ベトナム人は真面目だとも聞いており,ABCの社長は,この取引を大変楽しみにしていました。

 

 ABCは,国内で使用していた日本語の「業務委託契約書」を英語に訳し,それを英文契約書にしてXYZと締結しました。

 

 プロジェクトはスタートし,ベトナムでのソフトウェア制作が始まりました。ところが,2か月ほど過ぎると問題が発覚しました。

 

 XYZの制作するソフトウェアの「品質」が明らかに問題だったのです。納期は2か月後となっており,このままのペースでは間に合いません。

 

 何とか,現場を指揮してさらに1か月やらせてみましたが,作業工程は全体の30%ほどしか進まず,納期までに納品できないことは明らかでした。

 

 そこで,ABCの社長は,「このままだと契約違反だから,代金は一切払えない。真剣にやってほしい。無理なら契約を解除してデータを引き渡してもらう。」とXYZに伝えました。

 

 ところが,XYZは「品質が劣るというのは,根拠がない。自分たちは真面目に指示通りに動いている。まだ納期も来ていない。今の段階で納期を過ぎてないのだから契約違反はない。」と主張しました。

 

 英文契約書には,「XYZはABCが定める基準で検収合格しなければ代金の支払いは受けられない。」,「納期は重要であり,納期を過ぎた場合も支払いは受けられない。」という趣旨の条項が入っていました。

 

 そのため,ABCとしては,この条項を根拠に,XYZが支払いを受けられない事態を避けるため,品質の高い作業を繰り返してくれるものと期待していたのでした。

 

 しかし,XYZの作業は相変わらずで,ABCはとうとうしびれを切らし,契約を解除する旨を伝えました。

 

 ところが,XYZは,「まだ納期前なのだから,契約違反はない。解除は根拠がない。データを渡す根拠もない。データが欲しいなら代金を100%払え。」と主張しました。

 

 ABCの社長はこれ以上遅れるわけにはいかないと判断し,作業工程としては40%ほどしか進んでいないにもかかわらず,結局代金の80%を支払ってデータを引き渡してもらったのでした。

 

本事例の解決法

 この種の契約は,紛争になる可能性が高いと言えます。

 

 英文契約書の文言で相当にリスクヘッジしたとしても,完全にリスクを除去することはできず,依然トラブルになる可能性が高いと考えておくべきだと思います。

 

 この事例には重要な問題として2点挙げられます。

 

 1つは,「納期がまだ到来していないのだから契約違反(債務不履行)はない。」という点についてです。

 

 これは,形式的には正しい理屈です。しかし,例えば,英米法の考えにも,Anticipatory Repudiatory Breach of Contractというものがあります。

 

 これは,義務履行者が納期までに履行しないことが明らかなときに,発注者に解除権などの救済を与えようという考え方です。

 

 したがって,準拠法によっては,このような理屈でABCはXYZの主張に反論しえます。

 

 この点を,事前に英文契約書に明記しておくことも考えられます。

 

 ただし,いずれにせよ,どのような状況であれば履行しないことが明らかと言えるのかは当事者間で争いになるでしょうし,義務履行者は納期までに履行できると主張するでしょうから,英文契約書に記載したとしても,紛争に至るリスクは高いと言えます。

 

 2つ目は,「代金を支払わない限り,データを引き渡す必要がない。」という点についてです。

 

 これは,日本では,この種の契約が請負契約か準委任契約かなどの視点でも議論されている点にも関わってきます。

 

 制作者としては,代金を受け取れない以上,途中までの成果物などを引き渡すのは拒否したいでしょう。

 

 逆に注文者としては,完成させてくれない以上は,一銭も払いたくないと考えるでしょう。

 

 この点を解決するのはかなり困難ですが,現実的には,進んだ作業工程の分を評価してその分を払い,途中までの成果物の引き渡しを受けるという解決が最も妥当なのではないかと思います。

 

 この点を,あらかじめ英文契約書に記載するというのはあり得ます。しかし,どこまで作業工程が進んだのかについては,注文者と制作者で見解が異なり,紛争になりやすい傾向にあることは否めません。

 

 制作委託の契約類型は,国内でもそうですが,特に国際取引ではトラブルになりやすいものと認識すべきです。

 

 そのため,契約前に制作者についてのデューデリジェンス(信頼に足る業者かを細かく調査)を強化し,委託後は現場とのコミュニケーションを密にするなど,契約書以外でのリスクヘッジも重要視すべきでしょう。

 

 特に新興国では,「取引を継続してくれる保証を最初からくれるなら頑張るが,単発なら適当にやる」という風潮を感じる場面も少なくありませんので,より注意が必要と言えるでしょう。

 

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