Risk/Risk of Loss(英文契約書用語の弁護士による解説)
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,Risk/Risk of Lossがあります。
これは,英文契約書においては,通常,「危険負担」を意味します。
危険負担というのは,例えば,製品の売買契約がなされ,製品を船積みして海上輸送する際に,船が台風に遭遇して難破してしまい,製品が壊れてしまったような場合に,その損失を売主または買主のどちらが負担するのかという問題をいいます。
要するに,当事者の行為(責めに帰すべき事由)によって製品が滅失または毀損したのではなく,他の原因で滅失または毀損した場合に,その損失をどちらが負担するのかという問題と理解しておけばよいでしょう。
このRisk/Risk of Lossについては,貿易条件を定めているインコタームズ(Incoterms)に規定されています。
なお,インコタームズには,危険負担についての定めはありますが,物品の所有権がいつ移転するかという問題については定められていませんので,注意が必要です。
所有権の移転時期を定める場合は,インコタームズの貿易条件の選択とは別に,契約書において取り決める必要があります。
所有権はTitleという用語で表現され,危険の移転時期とは別に,所有権の移転時期が契約書で定められていることがあります。
ちなみに,現時点で,最新版は,インコタームズ2020です。インコタームズは10年毎に改定されます。
そのため,どのバージョンのインコタームズを採用しているのかも契約書に書いておきましょう。
バージョンによって貿易条件の内容が異なっていることがあるからです。例えば,FOBを選択してもバージョンによって危険の移転時期が異なっていることがありますので注意して下さい。
例えば,2020年版のインコタームズでは,FOB,CFR,CIFを選択した場合,物品の危険は「物品が本船の船上に置かれた(On board)」時に売主から買主に移転することになります。
この点,前のバージョンでは,上記の貿易条件の場合,「本船の手すり (Ship's Rail)を通過した」時と定められいてたこともありました。
このように,バージョンによって同じ名称の貿易条件でも条件の内容が異なっていることがあるのです。
ちなみに,FOBを選択した場合は,例えば,商品を船積みして,海上輸送中に台風に遭遇し,製品が滅失したような場合,船上に置かれた後の滅失ですから,すでに本商品の危険は,売主から買主に移転しています。
したがって,商品の危険は買主が負うこととなり,売主は商品が滅失していようとも,商品の代金を買主から受け取る権利があることとなります。
これが危険負担の問題です。重要さがおわかりいただけると思います。
もちろん,貿易条件とは別に,当事者の合意により危険の移転時期を定めることもできます。
要するに,インコタームズに挙げられた貿易条件を選ぶのではなく,危険負担の移転時期について契約書に具体的に記載するのです。
そのような場合,例えば,Risk of the Products shall pass from the Seller to the Buyer when the payment for the Products has been made in full.(商品の危険は,商品の代金がすべて支払われた時に売主から買主に移転する。)などと定めることになります。