英文契約書の相談・質問集33 英文契約書でMOU/LOIを締結したら正式契約をしなければいけませんか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「英文契約書でMOU/LOIを締結したら正式契約をしなければいけませんか。」というものがあります。
秘密保持契約書(NDA)を締結した場合についても同じ質問を受けることがあります。
MOUとは,Memorandum of Understandingの略で,LOIとは,Letter of Intentの略です。
MOUとLOIについて解説した記事はこちらでご覧頂けます。
これらは,日本語では,「覚書」とか「予備的合意書」などと呼ばれています。
これらは様々な目的で作成されるのですが,目的としては,例えば,下記のようなものが挙げられます。
当事者が,正式な契約に入る前に,
1.検討事項を明確にしておきたい,
2.プロジェクトの目的・方向性や,当事者の役割などを確認しておきたい,
3.正式契約までのフェーズを設定し,正式契約までの交渉計画を明らかにしておきたい,
4.現段階で基本的に合意できた事項を確認しておきたい
などです。
一般的に,MOUやLOIには法的拘束力がないといわれています。正式契約を締結する前の交渉段階における指針のようなものである場合が多いからです。
ただ,法的拘束力があるかどうかは,当事者の意思,つまり,MOU/LOIに記載された内容によって決まりますので,いつも法的拘束力がないということではありません。
はっきりと法的拘束力があると英文契約書に書いていなくとも,一部については,履行することが当然とされていたり,一部の内容については違反の効果が書かれていたりすれば一部について法的拘束力があるとされることもありえますし,全体が法的拘束力をもつということもありえます。
そのため,結論としては,どういう目的でMOU/LOIを締結するのか,その目的からして法的拘束力を一部または全部にもたせるべきなのかをきちんと考えて,決まった内容を英文契約書にはっきりと書くということが大切です。
当たり前のように聞こえるかもしれませんが,法的拘束力をもたせるならそう書き,もたせないならそう書くのが安全ということです。
正式契約の締結義務も,上記のような解釈になります。
つまり,普通は,MOU/LOIには法的拘束力もありませんので,それを締結したからといって,将来正式な契約を締結したり取引をしたりする義務を生じることにはならないと考えて大丈夫でしょう。
しかしながら,正式契約締結に向けて最大限努力する(best efforts)(ベストエフォート)などとMOUやLOIに記載してあり,その他の条項も費用分担や役割分担について細かく言及されており,これらを締結する目的が,明確な一定の障害(例えば許認可が得られるかどうか)などが不明なために,一旦MOU/LOIとして締結するというような場合であれば,正式契約の締結を簡単に拒んだということが契約責任を引き起こすということはありうるかもしれません。
他にも,日本のような大陸法の国にある企業と取引する場合,Good Faithという考え方や,日本法でいうところの「契約締結上の過失」,「契約準備段階の過失」という理論など,契約交渉から正式契約に至らないという結論になった場合に,事情次第では一定の責任が生じるという考え方もあります。
まとめますと,原則として,MOUやLOIを締結したからといって,正式契約をしなければならないという義務が生じることはないです。
ただし,これらの内容の解釈や,法令/判例理論で何らかの責任を生じる可能性はあるので,正式契約の締結は義務ではないとか,どういう条件が充たされない限り義務ではないとか,書けるのであれば書いておくほうが良い場合もあるということになります。
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