Irreparable damage(英文契約書用語の弁護士による解説)
海外進出・海外展開をするときに必要になる英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正する際によく登場する英文契約書用語に,Irreparable damageがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「回復不能な損害」という意味で使用されます。
この用語がよく登場するのは,秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement: NDA/Confidentiality Agreement: CA)です。
秘密保持契約書における秘密保持義務に違反されると,自社の機密情報が漏洩し,甚大な損害を蒙ることがありえます。
例えば,その企業のビジネスの肝となる技術に関する秘密情報が漏れてしまったことにより,模倣品が出回り,もはやその技術に価値が無くなってしまったというような極端な事例を思い浮かべれば理解しやすいかと思います。
このような場合,すでに秘密情報が広まってしまった以上,人々の認識からこの情報を除去することはできませんし,いったん起こってしまったことによる損害を元に戻すことは不可能ということになってしまいます。
こうしたことが秘密保持義務違反では想定されているのです。
そのため,秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)では,このようなIrreparable damageを想定し,違反された当事者は,違反した当事者に対し,原則的な救済措置である損害賠償請求だけではなく,情報の使用差止請求やその他法律で認められているあらゆる法的救済措置を取ることができると定めることが一般的です。
損害が回復不能な程度に達することがありうる以上,金銭的な賠償では損害の穴埋めには足りず,他の救済措置に頼るのが妥当という場合があるからです。
英米法のコモン・ローの世界では,裁判所で認められる救済(remedy)は原則として損害賠償(damages)とされています。
そのため,衡平法上の救済(equitable remedy)である差止請求(injunctive relief)などが例外的にどうしても必要な場合は,その必要性を契約書に記載するということが実務的に行われているのです。
こうした理由から,もし秘密保持義務違反があれば,損害賠償では回復不能な損害を開示当事者が被るおそれがあることを受領当事者が認識しているという規定を入れるということが行われています。
以上のように,秘密保持義務違反は取り返しのつかない損害を生じる可能性があるので,秘密情報を開示する側も,秘密情報を受領する側も十分に注意しなければなりません。