【英文契約書の相談・質問集(特別編2)】ロシアの金融機関のSWIFT排除による取引への影響はありますか。
英文契約書の作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正の依頼を受ける際によく受ける相談・質問に,「ロシアの金融機関のSWIFT排除による取引への影響はありますか。」というものがあります。
最も直接的に影響するのは,ロシア企業から何らかの原材料や商品を仕入れている日本企業が今までどおりの銀行決済による支払いができなくなる可能性があるという点でしょう。
もし,買主である日本企業が,売主であるロシア企業に対して,ロシア金融機関のSWIFT排除により代金を決済できないとなった場合,日本企業はロシア企業に対して債務不履行責任を負うのでしょうか。
日本企業としては,自社に責任があるような原因で銀行決済ができなくなったのではなく,あくまでロシア側の政治的な情勢によって決済不能となったのだから,代金の支払いが約束どおりにできなくても責任はないと主張したいでしょう。
これは,いわゆる不可抗力による免責の問題と考えられます。
つまり,買主が期日までに代金を支払えない理由が不可抗力によるものとして債務不履行責任(具体的には約定または法定利率による遅延損害金の支払いや契約解除など)を免れることができるのかということです。
この点は,英文契約書をまずは見ましょう。おそらく不可抗力(Force Majeure)について定めた条項があるはずです。
この不可抗力(Force Majeure)条項では,通常「不可抗力事由を原因とした契約違反があっても契約違反をした当事者は責任を負わない」などという表現で債務不履行をした当事者の免責が定められています。
ただ,一般的には,不可抗力の対象となる債務に金銭の支払債務は含まれていないことが多いです。
英文契約書に「ただし,金銭支払債務を除く」(However, monetary payment obligations are excluded)などと明記されている場合は,金銭の支払債務について不可抗力免責を主張するのが難しいことは容易に理解できると思います。
逆に,もし「当事者のコントロールできない事情(戦争による制裁など)で銀行決済ができないような事態になったときには金銭支払債務の不履行について責任を負わない」と英文契約書に記載があれば,免責主張できる可能性は高まるでしょうが,このようなケースはあまり多くないと思います。
また,金銭債務の免責について明記されていない場合でも,金銭の支払債務について不可抗力免責を主張するのは難しい場合が多いと思います。
契約書に記載がない場合は,契約書の準拠法(Governing Law)条項を見て,どの国の法律が適用されるかをチェックします。
そして,その適用される国の法律が上記のようなケースについてどのように定めているか,その内容に従うことになります。
例えば,日本の民法は,419条3項において,金銭債務の不履行について債務者は「不可抗力をもって抗弁とすることができない」と定めています。
これにより,上記の例において,ロシア企業に対する支払いが,ロシアの金融機関がSWIFTから排除されたことが原因で滞ったとしても,買主は,それを不可抗力によるものとして免責を主張し債務不履行責任を免れることはできないことになってしまいます。
おそらくこのような法律や判例がある国は多いものと思います。
したがって,買主としては,戦争のような異常事態で銀行決済ができなくなっているのだから,支払いが遅れてもやむを得ないだろうと安易に考えると,後でロシア企業から遅延損害金の請求や契約解除などの主張をされる可能性があることに注意すべきでしょう。
なお,以上述べたケースとは逆に,日本企業が売主となり,ロシア企業に何らかの商品を輸出していた場合,今回のロシアのSWIFT排除により日本企業が売掛を回収できないという事態が考えられます。
この場合は,前述のとおり,買主であるロシア企業は,銀行決済ができないことを不可抗力として金銭債務の支払いについての免責を主張できないことが多いと思われます。
したがって,こちらのケースの場合は,現実的に可能かどうかはともかく,日本企業としては,他の支払方法により引き続き期日までの債務の履行を求める,債務不履行を理由に契約を解除する(買主が金銭債務の不履行の免責を主張できないとすれば売主は契約解除などの制裁が可能)などの対応が考えられるでしょう。
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