代金支払リスク・納品リスクとその解決法

代金が回収できない・製品が届かない——国際取引の二大リスク

 

 

海外との売買取引で最も深刻なトラブルは,製品を出荷したのに代金が払われない(輸出側)と,代金を払ったのに製品が届かない・使えない(輸入側)の二つです。いずれも英文契約書の支払い条件・検収条項・納期条項の不備が原因です。具体的な事例と対策を解説します。

このページでわかること

✔ 輸出側(売り手)が直面する代金回収リスクの典型事例と契約上の対策
✔ 輸入側(買い手)が直面する前払い詐欺・納期遅延・品質不良の事例と解決法
✔ 英文契約書の支払い条件・検収条項・納期条項に最低限盛り込むべき5つのポイント

⚠ なぜ代金・納品トラブルが後を絶たないのか

 

 

支払い条件の交渉を先送りにする

「関係ができてから決めよう」と曖昧なまま取引を開始し,契約書に前払い・後払いの条件が明記されていないケースが多発します。

検収条件が「合格するまで」となっている

検収期間・合格基準・不合格時の処理方法が不明確だと,買い手が際限なく検収を引き延ばし,代金支払いを拒絶する口実になります。

納期が「目安」になっている

納期が確定期日でなく「予定」や「目安」と記載されていると,遅延損害金を請求する法的根拠がなく,損害を泣き寝入りするしかなくなります。

 

代金回収リスク(輸出・販売する側)

製品を出荷・納品したのに代金が払われない,または減額・支払い拒絶を要求されるケースです。

事例① 「検査基準に不合格」を理由に代金を30%減額された

電子部品を東南アジアに輸出。納品後,相手方から「社内検査基準に不合格」として代金の30%減額を要求された。契約書には品質について「業界標準に適合すること」とのみ記載されており,具体的な検査基準・数値がなかったため,反論が困難だった。解決策:品質検査仕様書(QC Spec)を契約別紙として添付し,許容不良率・検査方法・判定基準・クレーム期限を数値で明記する。

⚠ 事例② L/C・貿易保険なしの掛け売り→代金回収不能

中東の新規取引先に製品を出荷。信用状(L/C)なし・貿易保険なしの掛け売りで出荷したところ,相手方が経営難に陥り代金の全額が回収不能になった。契約書には支払期日のみ記載されており,担保・保証に関する条項がなかった。解決策:初回取引は信用状(L/C)決済を原則とし,継続取引でも貿易保険(NEXI)の活用と与信管理を徹底する。契約書に支払期日・延滞損害金・担保条項を明記する。

⚠ 事例③ 「まだ検収中」と称して支払いを6ヶ月引き延ばされた

精密機器を輸出し,「検収合格後に支払う」と契約書に記載。納品後,相手方は「まだ検収中」と言い続け,代金支払いを6ヶ月以上引き延ばした。契約書に検収期間の定めも,検収完了みなし条項もなかったため,法的手段を取りづらい状況が続いた。解決策:検収期間(例:納品後14日以内)と「期間内に通知がない場合は検収合格とみなす」みなし条項を明記する。

事例④ 分割払い交渉で代金回収リスクを軽減(解決事例)

高額精密部品の輸出で,相手方が「全額検収後払い」を主張。交渉の結果,発注時30%・サンプル検査合格後40%・最終検収合格後30%の3段階払いで合意。代金回収リスクを最小化しながら受注に成功した。解決策:支払い条件は前払い・分割払いを原則とし,特に初回取引・高額取引では複数回の支払いスケジュールを契約書に明記する。

納品リスク(輸入・購入する側)

代金を払ったのに製品が届かない,届いても使えない,または生産計画を狂わせる遅延が生じるケースです。

⚠ 事例⑤ 全額前払い後に製品が届かず連絡も途絶

中国の新規取引先に「初回割引」を条件に全額前払いで発注。納品期日になっても製品が届かず,担当者も連絡不能になった。契約書はなく発注書と電信送金の記録のみ。現地での回収は弁護士を立てても困難を極めた。解決策:初回取引の全額前払いは原則拒否する。着手金のみ前払いとし,残額は検収合格後払いとする分割払い条件を契約書に明記する。

⚠ 事例⑥ 納期遅延で商戦を逃し販売機会を全損

年末商戦向けに10月納品で発注した。実際の納品は12月下旬になり,販売機会を全損した。契約書の納期欄は「2024年10月(予定)」とあり確定期日ではなく,遅延損害金条項もなかったため,損害賠償を一切請求できなかった。解決策:納期は「○○年○月○日」と確定期日で記載し,遅延1日あたりの損害金(Liquidated Damages)条項を設ける。

事例⑦ 契約仕様と異なる製品が大量納品された

輸入したOEM製品の品質規格が発注仕様書と大きく乖離していた。相手方は「業界標準は満たしている」と主張し,全額返金・作り直しを拒否。契約書に不合格品の対応方法と費用負担が明記されていなかったため,長期交渉を余儀なくされた。解決策:品質基準(QC Spec)を別紙添付し,不合格品の対応(返品・作り直し・代金減額)と費用負担を明記する。クレーム期限(例:納品後30日以内)も規定する。

事例⑧ 部分納品が続き生産ラインが停止した

1,000個を発注したところ300個のみ先に納品され,「残りは来月」と言われ続けた。生産ラインが止まり,下流の顧客への納品遅延につながった。契約書に全数一括納品義務の規定がなく,部分納品を拒否する根拠が乏しかった。解決策:一括納品を原則とし,分割納品を認める場合は各回の数量・スケジュールを明記する。部分納品による損害は売り手負担とする条項を設ける。

 

⚠ 契約書に盛り込むべき5つのポイント

① 支払い条件:前払い・分割払い・L/Cの明記
前払い比率・各回の支払いトリガー・信用状条件を具体的に規定する。「検収後払い」のみは最もリスクが高い。

② 品質基準(QC Spec)の数値化と別紙添付
「業界標準」「サンプルと同等」は無効。許容不良率・検査方法・判定基準・クレーム期限を数値で明記する。

③ 検収期間の確定と「みなし合格」条項
納品後○日以内に検収完了,期間内通知がない場合は合格とみなす旨を規定する。

④ 納期の確定記載とLiquidated Damages条項
「予定」「目安」は禁物。確定期日を明記し,遅延1日あたりの損害金額(または損害金上限)を設ける。

⑤ 不合格品・未納品の処理方法と費用負担
返品・作り直し・代金減額・契約解除の選択権と費用負担を明記する。クレーム期限(納品後30日等)も設ける。

 

 

なぜ当事務所の弁護士でなければならないのか

支払い条件は交渉力で決まる

「前払い希望」と「後払い希望」が衝突するとき,どのような分割払いスキームを提示するか,どのみなし条項を使うかは法的知識が必要です。弁護士が交渉に加わることで,双方が納得できる条件設計が可能になります。

相手方ひな形の危険条項を見抜く

海外企業が提示するひな形には,クレーム期限が極端に短い(例:納品後3日以内),損害賠償上限が代金額の10%のみ,など委託者に不利な条項が含まれていることが多く,弁護士のチェックが不可欠です。

すでにトラブルが起きている場合も対応

代金未払い・製品未着の状態からでも,契約書・メール記録・送金記録を精査した上で,交渉・仲裁・現地弁護士連携まで対応します。「今すぐ相談したい」という段階からご連絡ください。

準拠法・仲裁地で回収コストが変わる

紛争になった際,準拠法が相手国法・仲裁地が相手国では回収コストが激増します。「日本法準拠・シンガポール仲裁」など有利な条件を契約締結前に確保することが,万一の際の被害を最小化します。

 

 

よくある質問(Q&A)

Q. 海外取引で代金未払いリスクを防ぐ最善策は何ですか?

A. 最も確実なのは信用状(L/C)決済です。銀行が支払いを保証するため,契約書上の書類要件を満たせば代金回収が担保されます。L/Cが困難な場合は,①発注時前払い+残額検収後払いの分割払い,②貿易保険(NEXI)の活用,③契約書への延滞損害金・担保条項の明記を組み合わせることがリスク軽減の基本です。

Q. 「検収合格後払い」という条件は危険ですか?

A. 検収期間・合格基準・みなし合格条項のいずれかが欠けると危険です。「合格するまで払わない」という条項は,相手方に無限の支払い引き延ばし権限を与えることになりかねません。検収期間(例:納品後14日以内)と「期間内に通知がない場合は合格とみなす」みなし条項を必ず設けてください。

Q. 出荷後に代金が払われません。今からできることはありますか?

A. まず契約書・発注書・出荷書類・通関書類・メール記録を保全してください。その上で,①弁護士名義での支払い催告書の送付,②交渉・和解,③仲裁・訴訟(準拠法・仲裁地条項による),④現地弁護士との連携の順で対応を検討します。代金未払いでも,証拠が揃っていれば相当程度の回収が期待できるケースがあります。早期の相談が回収率に直結します。

Q. 全額前払いしたのに製品が届きません。取り返せますか?

A. 回収の可否は,相手方の財産状況・所在国の法制度・証拠の有無によって大きく異なります。電信送金記録・発注書・契約書があれば法的手段(仲裁・訴訟)の根拠になります。一方,契約書がなく相手方が所在不明の場合は困難です。いずれにせよ早期に弁護士に相談し,相手方が資産を隠匿する前に仮差押え等の保全手続きを検討することが重要です。

Q. 納期遅延で損害が出ました。賠償請求できますか?

A. 契約書に確定期日と遅延損害金(Liquidated Damages)条項があれば請求できます。「納期:○月予定」とのみ記載されている場合,「予定」は確定的義務ではないと主張されるリスクがあります。損害の立証(販売機会損失・代替調達費用等)も必要になるため,証拠の保全と弁護士への早期相談をお勧めします。

Q. 輸入した製品が仕様と違います。返品・賠償を請求できますか?

A. 契約書に品質基準(QC Spec)と不合格品の処理方法(返品・作り直し・代金減額)が明記されていれば請求できます。「業界標準に適合」とだけ記載されている場合,相手方が「標準は満たしている」と反論する余地が生じます。クレーム期限内(契約書の規定または準拠法の瑕疵担保期間内)に書面で通知することが必須です。まず手元の契約書と納品書類を確認の上,弁護士にご相談ください。

 

 

【注意事項】本ページの事例は一般的な解説を目的とした模式的なものであり,特定の実在する案件・当事者を示すものではありません。個別案件の法的判断は準拠法・事実関係によって異なります。実際にトラブルが発生している場合は,早期に弁護士へご相談ください。

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