Force Majeure(不可抗力)条項とは

英文契約書に必ずと言っていいほど登場するForce Majeure(フォース・マジュール)条項。フランス語で「不可抗力」を意味するこの条項は、天災・戦争・感染症流行など当事者のコントロール外の事象が発生した際に、履行義務を免除・停止・終了させる効果を持ちます。しかし、英国法ではコモンロー上Force Majeureを当然に認める法理は存在せず、あくまで契約条項として明示的に規定することではじめて効力を持ちます。条項の文言によってその射程は大きく異なり、「any other cause」と「whatsoever」のわずか一語の差が、リスクの大小を左右します。英国留学・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ国際取引を得意とする弁護士が、実務的な視点からわかりやすく解説します。

【目次】

  1. Force Majeure条項とは——概要と英国法における位置づけ
  2. Force Majeure条項が発動するための3要件
  3. 典型的なForce Majeure事由
  4. Force MajeureとFrustration(履行不能)の違い
  5. Force Majeure条項の効果——免除・停止・終了
  6. COVID-19パンデミックとForce Majeure
  7. Force Majeure条項の審査・交渉ポイント
  8. 英国法・米国法・日本法の比較
  9. よくある質問(FAQ)

1. Force Majeure条項とは——概要と英国法における位置づけ

Force Majeure(フォース・マジュール)は、フランス語で「上位の力」または「不可抗力」を意味し、英文契約書において広く使用される概念です。Force Majeure条項は、当事者のコントロール外の事象(Force Majeure事由)によって契約の履行が不可能または著しく困難になった場合に、義務の免除・停止・終了を認める条項です。

英国法において重要な点は、Force Majeureはコモンローではなくもっぱら契約条項として機能するということです。英国のコモンローには「Frustration(履行不能)」という法理がありますが、これは要件が極めて厳格で適用場面が限られます。そこで実務では、より柔軟な対応を可能にするForce Majeure条項を契約に明示的に設けることが標準的な実務です。

英国法では、契約にForce Majeure条項がない場合、Force Majeureを理由に履行義務を免れることは原則として認められません(Tennants (Lancashire) Ltd v CS Wilson & Co Ltd [1917] AC 495)。したがって英文契約書の審査においては、Force Majeure条項の有無と文言の確認は必須の作業です。

2. Force Majeure条項が発動するための3要件

Force Majeure条項を発動(invoke)するためには、一般的に以下の3つの要件を満たすことが必要です。

要件 内容
① Force Majeure事由の発生 契約に列挙されたForce Majeure事由(天災、戦争、ストライキ等)が実際に発生したこと
② 当事者のコントロール外 当該事由が当事者の合理的なコントロールの外にあったこと。自ら招いた事情やリスクとして引き受けた事情は該当しない
③ 因果関係(Causation) Force Majeure事由と履行不能・履行遅延との間に直接の因果関係があること。単に困難・費用増大だけでは足りない場合がある

英国の裁判所は、Force Majeure条項の適用には「当事者が義務の履行を合理的に防止しようとする手段を尽くしたにもかかわらず、なお履行ができなかった」ことが必要と判断する傾向があります(Channel Island Ferries Ltd v Sealink UK Ltd [1988] 1 Lloyd's Rep 323参照)。

また、Force Majeure事由が発生した場合、発動する当事者は相手方への通知義務を負うことが通常です。通知期限(例:Force Majeure事由を知った日から14日以内など)が定められている場合、通知を怠るとForce Majeureの援用権を失うリスクがあります。

3. 典型的なForce Majeure事由

Force Majeure事由として英文契約書に列挙される事由は、契約の種類・業種によって異なりますが、典型的なものは以下のとおりです。

▸ 自然現象

地震・津波・洪水・火災・嵐・台風・暴風雪・落雷・干ばつ・疫病(epidemic)・パンデミック(pandemic)

▸ 人的事由

戦争・武力紛争・テロリスト行為・暴動・内乱・ストライキ・労働争議・サボタージュ

▸ 政府・規制上の事由

政府命令・輸出入規制・禁輸措置・国有化・法令変更・行政許可の取消し

▸ その他(キャッチオール)

「any other cause beyond the reasonable control of the party」(合理的コントロール外のその他の原因)というキャッチオール条項が設けられることも多い

注意すべきは、単に経済的困難・原材料費の高騰・市場変動・競合の増加はForce Majeure事由に該当しないのが原則です。また、自己の下請業者・サプライヤーの不履行も、別途明記されない限りForce Majeureとして認められないのが一般的です。

4. Force MajeureとFrustration(履行不能)の違い

Force MajeureとFrustrationは、いずれも「予期せぬ外部事情による契約義務の免除」に関するものですが、法的性質・要件・効果が大きく異なります。

比較点 Force Majeure Frustration
法的性質 契約条項(contractual) コモンロー法理(common law doctrine)
適用条件 契約に条項が必要。文言によって適用範囲が決まる 条項不要。コモンローが自動適用
要件の厳しさ 条項の文言次第(比較的柔軟に設計可能) 非常に厳格(単なる困難・費用増大では不十分)
効果 条項の定めによる(免除・停止・通知義務等) 契約の自動終了(automatic discharge)
既払金の返還 条項の定めによる Law Reform (Frustrated Contracts) Act 1943による

英文契約書にForce Majeure条項がある場合、まずその条項の文言に従って対応が決まります。条項の適用がない場合にはじめてFrustrationの成否が問題になります。ただし、Frustrationの要件は極めて厳格であり、単に履行が困難・費用高騰になった程度では認められません(Frustrationについては別記事を参照)。

5. Force Majeure条項の効果——免除・停止・終了

Force Majeure条項が発動された場合の効果は、条項の文言によって異なりますが、一般的には以下の3段階の効果が設けられることが多いです。

▸ 義務の一時免除・停止(Suspension)

Force Majeure事由が継続する間、影響を受けた当事者の履行義務が停止される。Force Majeure事由が解消すれば、原則として契約は再開する。

▸ 通知義務(Notice)

Force Majeure事由の発生・終了を速やかに相手方に通知する義務。通知遅延によりForce Majeureの援用を失う場合あり。

▸ 長期継続時の解除権(Termination Right)

Force Majeure事由が一定期間(例:3ヶ月・6ヶ月)継続した場合、いずれかの当事者が契約を解除できる権利が発生する。これにより長期にわたる「宙ぶらりん」状態を回避できる。

Force Majeure条項では、発動した当事者が相手方に通知をしてから一定期間内に事由が解消しない場合に解除権が発生するという構造が多く見られます。また、Force Majeureによって契約が終了した場合、既に履行済みの部分の精算方法(pro-rata支払いなど)について定めることも重要です。

6. COVID-19パンデミックとForce Majeure

2020年以降、COVID-19パンデミックはForce Majeure条項の実務的重要性を劇的に高めました。パンデミックがForce Majeure事由に該当するかをめぐって多くの紛争が発生し、英文契約書実務の在り方を見直すきっかけになりました。

英国の裁判例では、政府によるロックダウン・営業停止命令は通常Force Majeure事由(government action / government restrictions)に該当し得ると判断されています。ただし、それが条項の文言上明確にカバーされているかどうかが重要です。「epidemic(疫病)」「pandemic(パンデミック)」を明示的に列挙していない場合は、キャッチオール条項の解釈問題になります。

⚠ COVID-19対応の実務上の教訓

▸ Force Majeure条項に「epidemic(疫病)」「pandemic(パンデミック)」「quarantine(検疫)」「government shutdown」を明示的に列挙することが重要

▸ 単に「売上が落ちた」「需要が減った」だけではForce Majeureとならない(経済的困難は該当しない)

▸ ロックダウン等の政府命令と直接的な履行不能との間の因果関係の立証が必要

▸ 「beyond reasonable control」のキャッチオール条項があってもCOVID-19が自動的にカバーされるわけではない

▸ パンデミック下でも一定の対策を講じれば履行が可能だった場合、Force Majeureの発動は否定される傾向がある

7. Force Majeure条項の審査・交渉ポイント

英文契約書のForce Majeure条項を審査・交渉する際の主要チェックポイントは以下のとおりです。

列挙事由の範囲:自社がリスクとして直面し得る事由(パンデミック・サイバー攻撃・気候変動等)が網羅的にカバーされているか確認。

キャッチオール条項の文言:「beyond the reasonable control of the party」等の包括条項があるか。列挙+キャッチオールの組み合わせが理想的。

通知期限:Force Majeure事由発生後の通知期限が厳しすぎないか確認(7日・14日等)。Force Majeureに気づくまでに時間がかかることも多い。

終了権発動までの期間:Force Majeure継続によって解除権が生じるまでの期間が契約目的に合理的かどうか(長期プロジェクトでは6ヶ月以上、短期取引では1〜3ヶ月程度)。

既払金の返還・精算:Force Majeureで契約終了になった場合、既払いの対価をどう精算するか(返還義務の有無、未履行分の扱い等)が定められているか。

サプライチェーンへの影響:下請業者・サプライヤーのForce Majeureが自社のForce Majeureとして認められるか。明記がない場合は認められないのが原則。

8. 英国法・米国法・日本法の比較

観点 英国法 米国法 日本法
コモンロー上の根拠 コモンローにFM法理なし。Frustration法理のみ UCC§2-615(物品売買のImpracticability規定)あり 不可抗力の概念あり(民法415条の免責事由)
適用根拠 専ら契約条項による 契約条項+UCC§2-615(物品売買) 民法上の免責事由+契約条項
要件 条項の文言次第。通常「コントロール外の事由」「履行不能との因果関係」が必要 「commercial impracticability(商業的不能)」が基準 「不可抗力」の立証。契約上の免責条項が重要
経済的困難 原則として該当しない 市場変動による困難のみでは不十分 原則として免責されない(事情変更の原則は厳格)
パンデミック 条項の文言次第。政府命令は該当し得る 条項次第。UCC§2-615での対応は限定的 緊急事態宣言等は免責事由となりうる

9. よくある質問(FAQ)

Q1. Force Majeure条項がない契約でも、天災が起きれば履行義務は免除されますか?

A. 英国法では、契約にForce Majeure条項がない場合、Frustrationの法理によって対応することになりますが、Frustrationの要件は非常に厳格です。単に履行が困難・費用がかかるだけでは認められません。天災によって「契約の根本的な性質が変わった」「目的が根本的に達成不能になった」と言える極端な場合にのみFrustrationが認められます。実務上、Force Majeure条項がない契約では不測の事態へのリスク管理が極めて難しくなります。

Q2. 「Force Majeureにより履行が遅延した場合」と「履行が不能になった場合」は異なりますか?

A. はい、重要な違いがあります。多くのForce Majeure条項は、①完全な履行不能(impossibility)だけでなく、②著しい困難・遅延(delay/difficulty)もカバーするよう設計されています。ただし、条項の文言が「prevent(妨げる)」のみを使っている場合、単なる遅延はカバーされない可能性があります。「hinder(妨害する)」「delay(遅延させる)」という文言も含めることで、より広い保護が得られます。

Q3. Force Majeureを通知しなかった場合、権利を失いますか?

A. 通知義務はForce Majeure条項の典型的な要素です。条項に通知期限が設けられている場合(例:「14 days of becoming aware」)、期限内に通知しないとForce Majeureの援用権を失う可能性があります。英国の裁判所は、通知期限を条件(condition)と解釈する場合があるため、Force Majeure事由が発生したと判断したら速やかに書面で通知することが不可欠です。

Q4. Force MajeureとHardship条項の違いは何ですか?

A. Force Majeureは「履行が不能・著しく困難になった場合に義務を免除・停止する」条項ですが、Hardship(ハードシップ)条項は「経済的不均衡・事情変更が生じた場合に当事者が再交渉を求める権利を与える」条項です。Force Majeureは通常、物理的・法的な履行障害を対象とし、Hardshipは経済的困難・不均衡な負担を対象とします。長期契約(インフラ・エネルギー・建設など)では、両方の条項を組み合わせることが一般的です。

Q5. Force Majeureによって契約が終了した場合、違約金や損害賠償を請求できますか?

A. Force Majeureによって適法に契約が終了した場合、終了を引き起こした当事者に対して損害賠償や違約金を請求することは、原則として認められません。Force Majeureの本質は「当事者の責めに帰すことのできない事由による義務の免除」であるからです。ただし、Force Majeure事由発生前に生じた義務(既納品の代金、既履行部分の報酬等)については通常の精算が行われます。また、Force Majeureと主張しながらその要件を満たさなかった場合は、契約違反となり損害賠償責任を負うリスクがあります。

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