英文契約書でよく目にする「Warranty(ワランティ:保証)」という用語。日常的には「保証する」という意味ですが、英国コモンローでは、契約条項の種類(Classification of Terms)を示す法律用語としての重要な意味を持ちます。Warrantyは、Condition(重要条項)およびIntermediate/Innominate条項(中間的条項)と対比される概念であり、どの種類に分類されるかによって、契約違反時に解除が認められるかどうかが決まります。英文契約書を扱う法務担当者が必ず理解しておくべき、英国留学・ロンドン法律事務所勤務経験を持つ国際取引を得意とする弁護士によるわかりやすい解説です。
【目次】
1. 英国コモンローにおける契約条項の3分類
2. Condition(コンディション)——違反すれば常に解除できる重要条項
3. Warranty(ワランティ)——違反しても損害賠償のみ、解除不可
4. Intermediate / Innominate条項——違反の重大性で効果が変わる中間的条項
5. 著名判例:Hong Kong Fir Shipping v Kawasaki Kisen Kaisha [1962]
6. ラベルだけでは決まらない——「Warranty」と書いても解除できる場合がある
7. 実務上の対応——違反の効果を契約書に明確化する
8. 英国法・米国法・日本法の比較
9. よくある質問(FAQ)
英国コモンローでは、契約上の条項(Terms)を3種類に分類し、違反があった場合に被害当事者に認められる救済(解除・損害賠償)の範囲がそれぞれ異なります。
この3分類は、英文契約書のレビュー・作成において非常に重要な概念です。契約違反が起きた際に解除(Termination)ができるかどうかは、その条項がいずれの種類に分類されるかによって左右されます。
Condition(コンディション)は、契約の根幹をなす最重要条項です。当事者双方にとって、その条項の履行が契約の目的達成に不可欠である場合に、Conditionに分類されます。
Conditionの特徴
▸ 契約の中核・根幹をなす義務(Core / Essential obligation)
▸ 違反があれば、違反の軽重を問わず被害当事者は解除を選択できる
▸ 解除に加えて損害賠償請求も可能
▸ 例:売買契約における目的物の引渡し義務、代金支払義務、期日(time is of the essence)等
Conditionの違反では、違反の内容が軽微であっても被害当事者は解除を選択できます。例えば、「Time is of the Essence(期日厳守)」と明記された期日条項に1日遅れただけで、相手方は契約を解除できることになります。この点は日本法(相当期間を置いた催告が原則必要)と大きく異なります。
Warranty(ワランティ)は、契約の中核ではなく、二次的・付随的な条項です。当事者の一方がある事実を「保証する」という内容を持ちますが、違反があっても被害当事者に認められる救済は損害賠償のみであり、契約の解除は認められません。
⚠ Warrantyの重要な特徴——解除できない
Warrantyに違反した場合、被害当事者は損害賠償を請求できますが、契約を解除して自己の義務を消滅させることはできません。したがって、被害当事者は引き続き契約を履行する義務を負いながら、損害賠償のみを請求することになります。
Warrantyの典型例としては、M&A(企業買収)契約における表明保証(Representations and Warranties)条項が挙げられます。売主が「財務諸表が正確である」「係属中の訴訟はない」等を表明保証し、違反があれば買主が損害賠償請求できる仕組みです。ただし、この場合の解除の可否は契約書の別途規定による場合が多いです。
Intermediate条項(インターミディエイト)またはInnominate条項(イノミネイト)は、ConditionともWarrantyとも明確に分類できない中間的な条項です。違反があった場合の救済は、違反の重大性(severity of the breach)によって決まります。
Intermediate条項における判断基準
▸ 重大な違反(Repudiatory Breach)の場合:契約の根幹を揺るがす重大な違反→被害当事者は解除+損害賠償を選択できる
▸ 軽微な違反(Minor Breach)の場合:付随的な違反に留まる→損害賠償のみ(解除不可)
▸ 違反が「重大か軽微か」は個別の事情に応じてケース・バイ・ケースで判断される
Intermediate条項の概念は、Hong Kong Fir Shipping Co. v Kawasaki Kisen Kaisha [1962]の判例(次セクション参照)によって確立されました。この概念の導入により、英国コモンローは「すべての条項をConditionかWarrantyに二分する」という硬直的な分類から脱し、より柔軟な対応が可能になりました。
Intermediate条項の概念を確立した著名判例が、英国Court of AppealのHong Kong Fir Shipping Co. Ltd v Kawasaki Kisen Kaisha Ltd [1962] 2 QB 26です。
事案の概要
船主(香港フォー社)が傭船者(川崎汽船)に船舶を傭船した。チャーター契約には「船主は船舶の堪航性(seaworthiness)を維持する」旨の条項があった。船主側のエンジン管理に不備があり、当初の20ヶ月のチャーター期間中に計20週間の修繕停船が発生した。
争点:堪航性維持条項はConditionかWarrantyか。傭船者は解除できるか。
Court of Appealの判決:堪航性維持条項はConditionでもWarrantyでもなく、Innominate(中間的)条項である。違反の効果は違反の重大性によって決まる。本件では20週間の停船は重大な違反とはいえず、傭船者は解除できない(損害賠償のみ)。
この判例は、「条項の内容は多様であり、軽微な違反から重大な違反まで様々な態様がありうる条項については、一律にConditionまたはWarrantyに分類するのは適切でない」という考え方を示し、コモンローの契約法に重要な柔軟性をもたらしました。
実務上の重要な注意点は、契約書に「Warranty(保証する)」と書いてあるからといって、自動的にWarranty条項(損害賠償のみ)として扱われるわけではないということです。
⚠ ラベルと実質の乖離に要注意
ある条項が「Warranty」「Warrants that...」という文言で書かれていても、その条項の内容・当事者がその条項の実現をどれだけ重視しているか・契約全体の文脈などによって、実質的にConditionまたはIntermediate条項と判断される場合があります。逆に、「Condition」と書いていても、内容的にWarrantyに過ぎないと判断される場合もあります。
この問題は、英文契約書のレビューで見落とされやすいポイントです。「Warrantyとあるから損害賠償だけか」と安心するのは早計で、実際の条項内容・位置づけ・当事者の意図を踏まえた総合的な分析が必要です。
✔ 分類の判断要素
条項がCondition・Warranty・Intermediateのいずれに分類されるかは、①当事者が契約締結時にその条項の実現をどれだけ重視していたか、②条項違反がどのような影響を契約目的に与えるか、③契約書全体の構造・文脈、④業界慣行などの要素を総合的に考慮して判断されます。
「Warrantyと書けばWarranty条項になる」わけではなく、「ConditionかWarrantyかIntermediateかは裁判所が判断する」となれば、契約段階で違反の効果を明確に定めておくことが最重要の実務対応です。
契約書での明確化の方法
▸ 解除を認めたい場合:「〇〇条項の違反はMaterial Breach(重大な違反)を構成し、相手方は本契約を即時解除できる」旨を明記する
▸ 損害賠償のみとしたい場合:「〇〇条項の違反は損害賠償請求の根拠となるが、解除権を付与するものではない」旨を明記する
▸ 解除条件を限定したい場合:「Breach of Warranty(保証違反)は、当該違反が重要かつ治癒不能(material and incurable)である場合に限り解除権を付与する」旨を規定する
▸ 「Time is of the Essence」:期日条項をConditionとして明確化したい場合に明記する
英文契約書では、Termination条項(解除条項)において「いかなる違反が解除事由となるか」を具体的に列挙することも有効です。「Breach of any Warranty」を解除事由として列挙することで、WarrantyをConditionと同様の効果を持たせることができます。逆に、Warrantyの解除効果を制限したい場合は明示的な除外規定を設けます。
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弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所Hill Dickinson LLP勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。
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