企業の法務部員が英文契約書を翻訳・修正・作成する際に役立てられればと思い,英米法のポイントを解説した連載記事「英文契約書の翻訳・作成に役立つ英米法のポイント解説1」です。
なお,具体的に意味を知りたい英文契約書に関する英米法の概念がある場合は,その語句を左メニュー下にあるサイト内検索に入力して頂くと便利です。
お役立て頂ければ幸いです。
法務部員が英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に役に立つ英米法の基礎知識です。
今回は,recklessnessについての解説です。
和訳としては「無謀な」と訳されることが多いです。
より具体的には,ある事実が起こるリスクがあり,そのリスクの存在を行為者が認識していて,行為者が当該状況においてそのリスクを取ることが不合理であるにもかかわらず,これを取った場合などを指します。
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今回は,remotenessの解説です。
原因行為と結果との因果関係が希薄である場合(too remote)に,因果関係を認めないという理論があります。
当該行為がなければ当該結果が発生しなかったという意味での条件関係(「あれなければこれなし」)は認められるとしても,行為と結果との間に他の行為が介在するなどして,結果に対する行為が遠因となってしまっているようなとき,因果関係なしとされることがあります。これがremotenessという考え方です。
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今回は,Misrepresentation(ミスレプレゼンテーション)について説明します。
Misrepresentationとは,表示者が事実と異なる言動を行い,これにより言動の受け手が契約に誘引された(induce)場合に成立し得うるものです。
1) Fraudulent misrepresentation(詐欺的なもので,事実を表示した者が,虚実と知っている場合,または,表示された事実が真実であると信じていない場合)
2) negligent misrepresentation(事実を表示した者が,虚偽の事実が真実だと信じて表示したが,信じたことが合理的な根拠に基づいてない場合),及び,
3) innocent misrepresentation(虚偽の事実を表示した者が,その事実が真実であると信じていた場合で,信じたことが合理的な根拠に基づいている場合)
の3種類に分けることができます。
実際の区別は難しいですが,表示される虚偽の内容は事実に関するものでなければならず,単なる「意見」は含まれません。
例えば,レストラン経営をするためにある不動産を購入する契約を締結する際に,不動産業者が客の見込数を単なる意見として述べた場合には,misrepresentationとは認められないでしょう。
他方,既に営業しているレストランを買い受ける契約の際に,そのレストランのオーナーが,今後の見込み客数について述べたとすれば,それは過去の事実に基づいた意見ですので,単なる意見とは区別され,misrepresentationとなり得ます。
英国法においては,parol evidence rule(口頭証拠排除原則)というルールがあるため,契約書が作成されている場合は,契約書に定められた条項を変更するような効果を当該契約書以外の証拠から認めることが禁じられています。
しかし,これにも例外があり,その一つと考えられるのが,misrepresentationなのです。
例えば,契約書調印の前,交渉中に,「契約書ではこのように定めてあるが,実際にこれが起こった場合には,このようにする。」または「責任免除事由にはあらゆる原因を含んでいるように書いてあるが,実際にはこういう原因しかあり得ず,それ以外は想定してない。」などと,契約書とは異なる内容について口頭で約束されたような場合に,misrepresentationが成立し得ます。
仮にmisrepresentationの成立が認められれば,その表示者の内心などに応じて,損害賠償請求(damage or indemnity)や契約の取り消し(rescission)(取り消しはequity上のremedyのため,救済手段として認めるかは裁判所の裁量になります。)などが救済として認められます。
しかし,当然のことですが,misrepresentationの立証は困難な場合がありますし,無用な紛争を避けるため,書面と異なる口頭合意をしたり,口頭の説明に依拠して契約を締結したりすることは賢明ではありません。
必要なことは全て契約書に書かれてあり,その内容を完全に理解し,それ以外の合意は存在しないことを確認することがむしろ重要です。
そのため,実務では,契約締結の際にentire agreement(「完全合意」)という条項を入れ,調印する契約書に記載された内容以外に合意は存在しない,または,存在した合意は全て本契約によって上書きされ失効すると定め,後のmisrepresentationの主張を封殺することが多いのです。
なお,misrepresentationは言葉による表示だけでなく,無言の行動(conduct)によっても成立することがあるので注意が必要です。この点に関する著名な判例としては,Spice Girls v Aprilia World Service BV, CA (2002)が挙げられます。
これはあの有名なプロフットボーラーであるディビッド・ベッカムの妻であるヴィクトリアが所属していたガールズバンド,「スパイス・ガールズ」がある出演契約を締結する際,当時既に解散が見込まれていたのに,あたかも解散などあり得ないかのように振る舞い,その無言のconductがmisrepresentationであると認められたケースです。
Misrepresentationは,英国ではコモン・ローでも,制定法(Misrepresentation Act 1967)の下でも規律されていますが,一般に,保護に厚いと考えられているのは,立証責任の点やremedyの内容から,制定法の方です。
コモン・ローにおいても,制定法においても,詐欺によるmisrepresentationがあった場合,たとえその損害が虚偽の事実を表示した者にとって予見不可能(unforeseeable)であったとしてもmisrepresentationに起因する全ての直接的な損害(direct loss)についての賠償責任が認められます。
つまり,misrepresentationから生じたと認められる損害全てを認める傾向にあるのです。この点は,コモン・ローと制定法の両者ともに同じです。
違いがあるのは,例えば,misrepresentationがnegligenceに基づいて行われた場合です。
この場合,コモン・ローの下では,虚偽の事実の表示者が予見できる(foreseeable)損害までしか賠償責任が生じませんが,反対に,制定法の下では,詐欺(tort of deceit)のケース同様に,表示者が予見可能かどうかにかかわらず,虚偽表示によって被った直接的損害(direct loss)全部の賠償責任が生じるという判断が出されています(Royscot Trust Ltd v Rogerson [1991] EWCA Civ 12)。
この直接的損害(direct loss)全ての賠償責任を認めるというは,非常に大きな責任です。かかる損害を認定したリーディング・ケースは,例えば,Smith New Court Ltd v Scrimgeour Vickers (Asset Management) Ltd [1996] UKHL 3が挙げられます。
本事案では,House of Lords(当時の最高裁判所に相当する貴族院)は,以下の判断をしました。
すなわち,ある会社の株式を詐欺的misrepresentation(fraudulent misrepresentation)により市場価格よりも高く買わされた原告が,損害を回避するため同株式を他に転売したものの,当時の市場価格よりも安くしか転売できなかったという事実関係の下で,購入価格と市場価格の差額(これが通常の場面で認められる損害)を損害として認定するのではなく,購入価格と実際の転売価格の差額というより大きな実際上の損害についての賠償責任を認定したのです。
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今回は,exemption clauseについて解説します。
コモン・ローの世界(コモン・ローに限りませんが)では,余りに酷で重荷となる条項は裁判所の判断により無効とされる場合があります。
特にexemption clause(免責条項)を巡り問題になることが多いです。
例えば,ビジネス上の優位な立場を利用して,一方的に自己に都合の良い免責条項などを定めても,場合によってその効果を限定されたり,効力を否定されたりすることがあります。
このように,コモン・ロー上の契約自由の原則が,コモン・ロー自身によって,また,equityやstatute lawによって修正されている場合があるため,この点の調査は不可欠です。
もちろん,特に制定法の場合,契約がbusiness-to-businessで締結されているものなのか,一般消費者との間で締結されているものなのかなどにより,その保護要請の程度が異なりますから,適用される法令も異なりますし,法令等の解釈も場面により異なる可能性がありますのでこの点も調査が必要です。
日本企業が取引する場合に,より注意を要するのは,準拠法の関係から,英国制定法ではなく,コモン・ローでしょう。
そのコモン・ローにおいても,一方的に一方当事者に有利な条項などは,時に効力が否定されるので留意しなければなりません。
例えば,条項内容が特殊なもの(unusual)で一方当事者にあまりに重荷となる条項は,その条項がハイライトされているなど,特に目立つような工夫がされていなければ,裁判所の判断により無効とされることがあります(Parker v South Eastern Railway [1877] 2 CPDなど)。
また,negligenceに基づく責任を免除する条項については,その旨が明確に定められていない限り,責任免除を認めない傾向にあります(Alderslade v Hendon Laundry Ltd [1945] KB 189)。
これは曖昧な条項は,起草者,すなわちその条項によって利益を受けようとする者の不利益に解釈するというcontra proferentemの一場面と考えて良いと思われます。
この点の著名な例としては,自動車の所有者である原告が修理のために被告に自動車を預けたところ,これが被告の過失に基づき被告のガレージ内で火災被害を受けたケースが挙げられます(Hollier v Rambler Motors (AMC) Ltd [1972] 2 QB 71)。
本件では,被告が免責される損害として,“damage caused by fire to customers’ cars on the premises”を規定する条項がありました。
Court of Appeal(高等裁判所)は,この免責条項が曖昧であるとして,同条項は,被告の過失(negligence)に基づかない火災による損害のみを免責するもので,したがって被告の過失(negligence)による火災被害は免責されないと判示しました。
次に,幾つかの制定法による修正について説明します。制定法で重要な法令の一つにUnfair Contract Terms Act 1977(UCTA)があります。同法の下では,例えば,人の生命または身体に対する損害についての賠償責任を免責することは禁じられています。
さらに,同法には,一定の場合,免責条項はreasonableness test(合理性の基準)という基準をパスしなければならない旨が定められています。
このreasonableness testとは,例えば,契約により一方当事者にnegligenceがあったとしても,ある契約違反についてはその責任が免除されるという免責規定(exemption)を,たとえ明確な文言により設けたとしても,その内容が合理性を有するものではない限り,無効化されてしまうというルールです。
他にも,同法の下では,企業間取引において,目的物の仕様(description)や品質(quality)の保証について免責条項を定めたとしても,reasonableness testにより不合理と判断されれば,当該条項は無効になるとも定められています。
このreasonableness testについてはガイドラインが存在し,合理的かどうかの判断の指標として利用されています。同ガイドラインに挙げられている基準は,
1) 取引当事者の立場上の力関係(strength of the bargaining position),
2) 相手方が免責条項を承諾するにあたり何らかの誘引(例えば,価格の減額などの利益)を受けているか,または,相手方が類似の免責条項を承諾することなしに,他の者と類似の契約を結ぶ機会があったかどうか
(例えば,対象商品がレアで,他の業者から買い入れる機会がなければ,買主が当該契約の交渉時に免責条項を事実上強制されたように認定される場合があり,その場合免責条項は失効しやすくなります。
逆に他から免責条項を入れずに買い入れる機会があったにもかかわらず,敢えて免責条項付きの当該契約を締結したのであれば,任意性が見て取れるため,有効になりやすいでしょう。),
3) 慣習や過去の取引などから,相手方が免責条項の存在とその範囲について知り,または,知りうべきであったと言えるか,
4) 何らかの条件に相手方が違反したときに免責条項が発動する場合(例えば,商品の欠陥について一定期間に売主に通知するという条件),その条件を充足することが現実的に可能であると,契約時に期待することが合理的と言えるか,
5) 商品が,相手方の特別の注文(special order)により製造され,加工され,または改作・改変されたか否か(特別の注文により商品を加工などしたのであれば,免責規定も合理的だと判断されやすくなります。),というものです。こうした当事者間の公平を図った制定法には場合によって留意する必要があります。
なお,上記ガイドラインは,UCTAの適用があるかないかにかかわらず,当事者間の衡平に留意しつつ,自己に有利な免責条項を定める必要がある場合に,一つの指標として有効なものと言えるでしょう。
さらに踏み込んで検討すると,他の項目で説明しているコモン・ローの原則であるprivity of contract及びvicarious liabilityという概念と絡んだ問題も生じます。
Privity of contractとは,契約当事者間でのみ契約の権利義務が生じ,第三者には影響を及ぼさないという原則を言います。
また,vicarious liability(使用者責任)とは,従業員が業務執行中に第三者に損害を与えた場合,当該従業員の使用者もまた第三者に対して損害賠償責任を負うルールを言います。
例えば,A社とB社が契約し,A社がある契約責任につき免責条項を定めたとします。そして,A社の従業員CがB社との契約上の業務執行中にB社に損害を与えたとします。この場合,Cは免責条項を定めた契約の当事者ではない(当事者はA)ため,privity of contractによりCはこの免責条項を援用できません。
この帰結と,vicarious liabilityの理論,すなわち直接不法行為を行ったCのみならず,A社もCの使用者としてvicarious liabilityによりB社に対して損害賠償責任を負うという理屈から,結局A社が定めた免責条項は,機能しないという結果になり得ます。
これを防ぐには,契約書上,従業員CがB社に損害を与えた場合,A社のみならず,その従業員Cについても免責されると定め,Cに対して免責条項の利益を付与することが考えられます。
これによりCも免責条項を援用することができ(Rights of Third Parties Act 1999),さらにA社もvicarious liabilityを回避できるという理屈です。
英文契約書を作成,チェック(レビュー/審査),翻訳(英訳/和訳),修正をする際に登場する英文契約書用語に,One-time paymentがあります。
これは,英文契約書で使用される場合,通常,「一回払い」を意味します。
逆に分割払いは,Installment paymentと呼びます。
海外取引の場合,支払いの確保は,非常に重要なテーマです。
支払いの条項(Payments)を間違えると,せっかく苦労して海外でビジネスを行ったのに,利益を確保できないばかりか,コストがマイナスになって結局赤字撤退することになりかねません。
One-time paymentの場合,一括払いですので,一回で利益を回収し,その後の継続的な支払いを見込まないビジネスの場合に利用されます。
日本企業が商品やサービスを提供する側の場合,このOne-time paymentは商品の出荷前,サービスの提供前に支払いを受けるのが鉄則となります。
海外でビジネスをする場合,継続的なロイヤリティの支払いなどを受けるのは現実的に困難な場合があります。
売上をごまかしたり,正確なレポートを出さずにロイヤリティの金額を不正に操作するということは残念ながらよくあります。
そのため,キャッシュフローや税金の問題はありますが,確実に利益を確保するためには,あえて利益の回収を将来に回さずに一回で受け取る方が賢明という場合もあります。
海外でビジネスをする場合,日本の常識や日本で正しいとされていることが必ずしも通用しません。
利益確保や損失の予防については,海外ビジネス独特の視点から検証し,最適解を探すという姿勢が大切になってきます。
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