英国University of Southampton LLMコースワーク修了・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ国際取引を得意とする弁護士が解説します。「Time is of the essence(タイム・オブ・エッセンス)」条項(TOE条項)とは、契約の履行期を本質的要素として位置づけ、期日違反があった場合に解除権・損害賠償請求権を確保する条項です。コモンローの下では、単に期日を定めただけでは解除権が生じない場合があるため、本条項の意義と実務上の活用方法を詳しく解説します。
【目次】
1. Time is of the essenceとは何か
2. コモンローにおける履行期の原則
3. TOE条項の法的効果
4. TOE条項の表現方法と文例
5. TOE条項が認められる場面と否定される場面
6. 履行期を延長する場合の注意点
7. Time not of the essenceとの違い
8. 英国法・米国法・日本法の比較
9. よくある質問(FAQ)
「Time is of the essence(タイム・イズ・オブ・ジ・エッセンス)」または「Time shall be of the essence」は、英文契約書で頻繁に使われる重要条項です。略してTOE条項とも呼ばれます。この条項は、契約で定めた履行期(deadline / due date)が単なる目安ではなく、契約の本質的要素(essence)として厳守すべきものであることを明確にします。
TOE条項の本質
▸ 契約で定めた期日を「Condition(最上位の条項)」として位置づける
▸ 期日違反があれば、即座に解除権と損害賠償請求権の両方が発生する
▸ 違反の程度は問われない(軽微な遅延でも解除権が生じる)
▸ コモンローの下では期日を定めるだけでは解除権が生じないため、本条項が必要
日本法では、契約書に期日を定めた場合、期日を過ぎれば原則として契約違反(債務不履行)となり、催告の後に解除が認められます(民法541条)。また、定期行為(民法542条)では期日を過ぎた時点で即時解除が可能です。
これに対し、コモンローの下では、契約書に単に履行期を定めただけでは、その期日を過ぎても必ずしも解除権を生じる契約違反にはなりません。履行期は重要な要素ではあるものの、「Condition」として位置づけられない限り、その違反だけで解除を認めるかどうかは状況によります。
⚠ 日本法との大きな違い
日本企業の担当者が英国法準拠の契約書を作成する際、「期日を定めれば期日違反で解除できる」と思い込むことは危険です。TOE条項がなければ、コモンローの下では期日を1日過ぎても解除できない場合があります。納期や支払期日が重要な取引では必ずTOE条項を明記してください。
TOE条項が契約書に存在する場合、または別途「期日を超えたら解除できる」と定められている場合、その期日は契約の「Condition(条件)」となります。これにより、期日違反は「material breach(重大な契約違反)」を構成し、以下の効果が生じます。
TOE条項が存在する場合の期日違反の効果
▸ 被害当事者(innocent party)に即時の解除権が発生する
▸ 損害賠償請求権も同時に発生する(解除とは別に、または併せて行使可能)
▸ 違反者(期日を守れなかった側)は期日違反の事実のみで責任を負う
▸ 期日から1日でも遅れれば、法的には同様の効果が生じる
なお、解除権は権利であり、被害当事者が必ず解除しなければならないわけではありません。解除を選択せずに履行の完了を待ちながら損害賠償のみを請求することも可能です。ただし、解除権を知りながら長期間行使しなかった場合、waiverの問題が生じることがあります。
英文契約書でTOE条項を規定するためのさまざまな表現方法があります。
実務上は、特定の条項(支払日、納品日、マイルストーンなど)にのみTOEを適用する形式が多く用いられます。契約書全体に包括的にTOEを適用するアプローチは、軽微な期日遅延でも解除権が生じるため、当事者双方にとってリスクが高くなります。
TOE条項は契約書に明示的に規定するのが基本ですが、契約の性質や当事者の行為から黙示的に認められる場合もあります。また、一度TOEを設定しても、事後の行為によって放棄(waive)されることがあります。
TOEが黙示的に認められる場面
▸ 不動産の売買契約(completion dateについてコモンローは黙示的にTOEを認めることが多い)
▸ 商品取引で期日が取引の本質的要素と明らかな場合
▸ 当事者が明示的に「期日厳守」を交渉で強調した場合
⚠ TOEが放棄(waive)されるリスク
相手方が期日を過ぎても何らの抗議もせずに継続して履行を要求した場合、TOEが放棄されたと解釈されることがあります。TOEを維持したい場合は、期日違反が生じた際に速やかに書面で抗議し、解除権を留保することが重要です。
TOE条項が設定されている契約で、相手方の要請に応じて履行期を延長する場合は、慎重に対応する必要があります。
✔ 履行期延長時のチェックポイント
1. 延長する場合は「新たな期日についても time is of the essence が適用される」旨を書面で明記する
2. 口頭による期日延長の同意は証拠として弱い——必ず書面(メール可)で確認する
3. 延長の理由・条件(例:延長の代わりに遅延損害金を一部免除する等)も書面で記録する
4. 延長を一度認めたことで自動的にTOEが消滅するわけではないが、waiver主張のリスクに備えること
逆に、期日が本質的要素ではないことを明示したい場合(例:期日を目安として設定したい場合)は、「Time is not of the essence」または「The time for performance stated herein is approximate only」などの表現を用います。この場合、期日を過ぎても直ちに解除権は生じず、損害賠償請求も実際の損害が発生した場合のみ認められます。
「期日違反」の法的効果は、適用法によって大きく異なります。
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この記事の執筆者
弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。
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