英国University of Southampton LLMコースワーク修了・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ国際取引を得意とする弁護士が解説します。英文契約書において「Express Terms(明示条項)」とは当事者が明示的に合意した条項であり、「Implied Terms(黙示条項)」とは明示されていないものの契約の一部とみなされる条項です。Sale of Goods Act 1979による法定の黙示条項や、当事者の黙示的意思によるものなど、実務に直結するポイントを詳しく解説します。
【目次】
1. Express Terms(明示条項)とは
2. Implied Terms(黙示条項)とは
3. 法定のImplied Terms——Sale of Goods Act 1979
4. 当事者の黙示的意思によるImplied Terms
5. Unfair Contract Terms Act 1977によるImplied Termsの排除制限
6. Entire Agreement条項とImplied Termsの関係
7. Implied Termsの排除・修正——実務上のアプローチ
8. 英国法・米国法・日本法の比較
9. よくある質問(FAQ)
Express Terms(エクスプレス・タームズ)とは、当事者が明示的に合意した契約条項を指します。書面(契約書、注文書、確認書など)に記載された条項がその代表ですが、口頭での合意も一定の条件の下でExpress Termsとなります。英文契約書では、通常、書面化された条項がExpress Termsとして扱われます。
Express Termsの特徴
▸ 書面または口頭で明示的に合意された条項
▸ 書面契約ではEntire Agreement条項(完全合意条項)により書面の外の合意は排除される場合が多い
▸ ConditionかWarrantyかなどの効力は、文言・文脈・当事者の意思から解釈される
▸ Implied Termsとは異なり、当事者が明示的に排除・修正できる
Implied Terms(インプライド・タームズ)とは、当事者が明示的に合意してはいないものの、法律の規定、商慣習、または当事者の黙示的意思によって契約の一部とみなされる条項を指します。つまり、契約書に書かれていなくても、一定の条件を満たせば契約の義務・権利となるものです。
英国のSale of Goods Act 1979(SOGA)は、物品売買契約における売主の義務として、以下のImplied Termsを定めています。当事者が契約書に明示しなくても、SOGAの適用があれば自動的に契約条件となります。
これらのImplied Termsはすべて「Strict liability(厳格責任)」として機能します。つまり、売主が仕様や品質の不適合について過失がなかったとしても、買主はこれらの違反を理由に損害賠償等を請求できます。
当事者の黙示的意思に基づくImplied Termsは、「Business Efficacy Test(業務効率テスト)」と「Officious Bystander Test(口出し屋テスト)」という2つの基準で判断されます。
2つのテスト
▸ Business Efficacy Test(業務効率テスト):当該条項がなければ契約が商業的に機能しない場合に、その条項を黙示的に認める
▸ Officious Bystander Test(口出し屋テスト):第三者が「この条項は当然に含まれるのですよね?」と聞けば、当事者双方が「もちろん!(Of course!)」と答えるような条項は黙示的に契約の一部となる
具体例として、隣地売却の際に通行地役権(right of way)を設定することを当事者双方が当然の前提としていたにもかかわらず、証書(deed)に記載し忘れた場合、裁判所は当事者の黙示的意思に基づいてimplied easement(黙示の地役権)を認めることがあります。
SOGAのdescription・qualityなどのImplied Termsを契約書で排除しようとする場合、Unfair Contract Terms Act 1977(UCTA)のReasonableness Test(合理性テスト)による制限を受けます。
⚠ UCTAによる制限
企業間取引(B2B)においてSOGAのImplied Terms(description、quality等)を排除する条項は、UCTAのReasonableness Testに合格しなければ無効とされます。Reasonableness Testでは、当事者の交渉力の均衡、業界の慣行、条項の周知性、代替手段の有無などが考慮されます。大企業同士の対等な交渉であっても、不合理とされる場合があります。
英文契約書には「Entire Agreement(完全合意)」条項が設けられることが多く、「本契約書が当事者間の完全な合意を構成し、それ以前のすべての合意・表明を置き換える」と規定されます。この条項は、書面外のExpress Termsを排除する効果がありますが、法令によるImplied Termsを排除することはできません。
✔ Entire Agreement条項とImplied Termsのポイント
・Entire Agreement条項は、法令(SOGAなど)によるImplied Termsには及ばない
・当事者の黙示的意思によるImplied Termsも、Entire Agreement条項では必ずしも排除できない
・業界慣行によるImplied Termsを排除したい場合は、明示的に「本契約書は商慣習によるいかなる黙示条項も排除する」等の条項を設ける必要があるが、UCTAの制限を受ける場合がある
実務上、特定のImplied Termsを排除または修正したい場合のアプローチをまとめます。
明示条項・黙示条項に関する各法域の比較を整理します。
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弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。
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