Causation(因果関係)——英国法・コモンローにおける損害賠償請求の要件

英国University of Southampton LLMコースワーク修了・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ国際取引を得意とする弁護士が解説します。Causation(コーゼイション)とは「因果関係」のことです。コモンローにおける損害賠償請求では、原因行為と損害との間に事実的因果関係('but for' test)と法的因果関係(reasonable foreseeability)の両方が必要です。Wagon Mound事件など著名判例を交えて、国際取引に直結する因果関係の法理を詳しく解説します。

【目次】

1. Causation(因果関係)とは何か
2. 事実的因果関係——'But for' Test
3. 法的因果関係——Reasonable Foreseeability(予見可能性)
4. Wagon Mound事件——リーディングケース
5. 介在事実(Novus Actus Interveniens)による因果関係の遮断
6. 契約違反における因果関係——不法行為との違い
7. 損害賠償の範囲と因果関係——Hadley v Baxendale原則
8. 英国法・米国法・日本法の比較
9. よくある質問(FAQ)

1. Causation(因果関係)とは何か

Causation(コーゼイション)は「因果関係」を意味し、コモンローにおける損害賠償請求(不法行為・契約違反を問わず)において不可欠な要件の一つです。損害と原因行為との間に因果関係がなければ、いかに損害が大きくても、いかに被告の行為が悪質であっても、損害賠償は認められません。

損害賠償請求の要件(不法行為の場合)

▸ 義務の存在(Duty of care)
▸ 義務の違反(Breach of duty)
因果関係(Causation)——これを本記事で解説
▸ 損害の発生(Damage)
▸ 損害が遠隔すぎない(Remoteness of damage)

コモンローにおける因果関係は、「事実的因果関係(factual causation)」と「法的因果関係(legal causation / remoteness)」の2段階で判断されます。この2つの要件を両方満たして初めて、損害が「法律上の原因」によって生じたと認められます。

2. 事実的因果関係——'But for' Test

事実的因果関係の判断基準は「'But for' Test(条件関係テスト)」です。「被告の行為がなければ、この損害は生じなかったか?」という問いに対して「Yes(はい、生じなかった)」と答えられる場合に、事実的因果関係が認められます。

シナリオ But for Testの適用
欠陥品による怪我 「欠陥品でなければ怪我しなかった」→Yes→事実的因果関係あり
医療過誤 「適切な治療をすれば回復していたか」が争点——証明が困難な場合が多い
複数原因の競合 複数の原因が独立して同一の損害を生じる場合——但for testの限界があり、特別な法理が適用される

⚠ But for Testの限界

複数の独立した行為が同一の損害を引き起こした場合(例:2人が独立してそれぞれ単独でも致命的な量の毒を盛った場合)、どちらの行為についても「なければ損害は生じなかった」とは言えず、but for testでは因果関係を証明できません。こうした場合には「material contribution(実質的な寄与)」テストなどの代替基準が適用されます。

3. 法的因果関係——Reasonable Foreseeability(予見可能性)

事実的因果関係が認められても、損害が法的に賠償対象となるためには「法的因果関係(legal causation)」も必要です。コモンローでは、法的因果関係の有無を「Reasonable Foreseeability(合理的予見可能性)」で判断します。「合理的な人(reasonable person)の立場から、当該行為が当該種類の損害を生じさせることを予見できたか?」が基準となります。

Reasonable Foreseeabilityの判断ポイント

▸ 「損害の種類(type of damage)」が予見可能であれば足りる(損害の程度・規模は問わない)
▸ 損害の具体的なメカニズムまで予見できる必要はない
▸ 判断基準は「合理的な人の立場」——専門家であれば専門家の合理的予見が基準
▸ 損害が「遠隔すぎる(too remote)」場合は賠償対象外となる

4. Wagon Mound事件——リーディングケース

Overseas Tankship (UK) Ltd v Morts Dock and Engineering Co Ltd("Wagon Mound (No 1)")[1961] UKPC 1は、法的因果関係(Remoteness)に関する英国(枢密院)の重要判例です。

事案の要素 内容
事実の概要 タンカー「ワゴン・マウンド号」が過失でオイルを海上に漏出。流出したオイルが引火し、近隣のMorts Dockの造船所に火災損害が生じた
事実的因果関係 オイルを漏出させなければ汚染損害も火災損害も生じなかった——両方について事実的因果関係あり
法的因果関係の争点 当時、海上のオイルが引火し得るかについて多くの専門家が否定的だった。したがって、火災損害は「合理的に予見可能」ではなかったという議論
判決の意義 「Reasonable Foreseeability(合理的予見可能性)」を法的因果関係(remoteness)の基準として確立。従来の「直接的な結果(direct consequence)」テストに代わるルールを示した

本事案では汚染損害については法的因果関係が認められましたが、火災損害については法的因果関係の有無が問題となりました。予見可能性が損害の法的判断の中核となるという原則は、その後の英国判例にも継続的に影響を与えています。

5. 介在事実(Novus Actus Interveniens)による因果関係の遮断

因果関係の連鎖が第三者の行為や予見不能な事態によって途切れる場合、その介在事実を「Novus Actus Interveniens(新たな介在行為)」と呼び、因果関係が遮断されることがあります。

Novus Actus Interveniensの典型例

▸ 被告の行為→被害者が回復中→第三者の故意犯罪→さらなる損害——第三者の故意行為が因果関係を遮断する可能性
▸ 被告の過失→事故→被害者自身の無謀な行為→悪化——被害者自身の非常に不合理な行為が遮断となる可能性
▸ ただし、第三者の介在が「合理的に予見可能」であった場合は因果関係は遮断されない

6. 契約違反における因果関係——不法行為との違い

不法行為における因果関係の判断は上記のとおりですが、契約違反における損害賠償では因果関係の判断基準が若干異なります。

✔ 契約違反と不法行為の因果関係の違い

契約違反の場合
・But for testは同様に適用される
・損害の予見可能性はHadley v Baxendale(1854)の原則で判断:(1)通常生じる損害、または(2)契約締結時に特別の事情として知らされていた損害
・損害軽減義務(duty to mitigate)あり

不法行為の場合
・But for testの後、Wagon Moundの予見可能性テストで判断
・不法行為者は「同一の被害者感受性(thin skull rule)」のリスクを負う:損害が予見不能なほど大きくなっても責任あり
・損害軽減義務あり

7. 損害賠償の範囲と因果関係——Hadley v Baxendale原則

契約違反による損害賠償の範囲(remoteness)は、Hadley v Baxendale (1854) 9 Exch 341で確立された2段階の原則により判断されます。

段階 内容・賠償対象となる損害
第1段階(通常損害) 当該契約違反から「通常の状況において生じるであろう損害(naturally arising)」。特別な事情の知識がなくても賠償対象
第2段階(特別損害) 契約締結時に違反当事者が「特別の事情を知っており、その事情から生じる損害を予見できた」場合にのみ賠償対象

例えば、ある機械部品の配送業者が納期を守らず、工場の生産ラインが停止した場合——配送業者がその部品が生産ラインに不可欠であることを知っていた場合は生産停止による損害も賠償対象となりますが、知らなかった場合は通常の遅延損害のみが賠償対象となります。

8. 英国法・米国法・日本法の比較

因果関係に関する各法域の比較を整理します。

比較項目 英国法 米国法 日本法
事実的因果関係 But for test(条件関係)。複数原因の場合はmaterial contribution testも使用 But-for causation。但し州によりsubstantial factorテストも使用 条件関係説(なければこれなしの関係)が原則
法的因果関係 Reasonable Foreseeability(Wagon Mound基準) Proximate cause(近因)または Foreseeability(予見可能性)を使用。州により異なる 相当因果関係説(通常の事情から生じるであろう損害の範囲)が判例・通説
契約違反の損害範囲 Hadley v Baxendale原則(通常損害+特別損害) Hadley v Baxendale原則を採用する州が多い(UCC §2-714等) 相当因果関係の範囲(民法416条:通常損害+特別損害)
損害軽減義務 Duty to mitigate(被害者の合理的な損害軽減義務)あり Avoidable consequences doctrine(回避可能な損害の排除)あり 明文規定はないが、過失相殺(民法418条)・信義則等で損害軽減義務に類似する制限あり

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 損害が非常に大きくなったとしても、損害の「種類」が予見可能であれば賠償されますか?
A. はい。Wagon Mound基準では、損害の「種類(type)」が予見可能であれば足り、損害の具体的な程度・規模が予見できなくても賠償対象となります("thin skull rule")。ただし、契約違反の場合はHadley v Baxendale原則により、特別な事情から生じる損害については相手方が知っていた必要があります。
Q2. 英文契約書で損害賠償の範囲を制限するにはどうすればよいですか?
A. 損害賠償の上限(cap on liability)・間接損害の排除(exclusion of consequential damages)・特別損害の排除などを契約書で明示的に規定することが有効です。ただし、UCTAの合理性テストを通過する必要があります。また、損害賠償の上限を設定するだけでなく、損害賠償の対象となる損害の種類(direct vs. indirect)も明確に定義することが重要です。
Q3. 損害軽減義務(duty to mitigate)はどのような場合に問題になりますか?
A. 被害当事者が損害を避けるための合理的な措置を怠った場合、軽減できたはずの損害については賠償が認められません。例えば、相手方の契約違反(納品不能)を知った後も代替調達先を探さずに損害が拡大した場合、拡大部分は賠償対象外となることがあります。ただし、被害当事者に義務があるのは「合理的な措置」であり、過度な努力や費用を求めるものではありません。
Q4. 日本法の「相当因果関係」と英国法のCausationはどう違いますか?
A. 日本法の相当因果関係説(民法416条の解釈)とHadley v Baxendale原則は非常に類似した構造を持っています。いずれも「通常損害+特別事情を知っていた場合の特別損害」という二段階の構造です。ただし、英国法ではWagon Moundの予見可能性テストが不法行為に適用されるのに対し、日本法では相当因果関係説が契約・不法行為を問わず適用される点で異なります。
Q5. 間接損害(consequential damages)を契約書で排除できますか?
A. 英文契約書では「Neither party shall be liable for any indirect, consequential, or punitive damages」などの条項で間接損害を排除することが一般的です。ただし、英国法の下ではUCTAのReasonableness Testが適用されます。また、「consequential damages(間接損害)」の定義が曖昧なため、具体的にどのような損害を排除するかを明確に規定することが重要です(逸失利益・事業機会の喪失・評判損害などを列挙するアプローチが有効です)。

英文契約書のレビュー・作成はご相談ください

損害賠償の上限・間接損害の排除条項の設計も承ります

正式ご依頼まで料金不要 / 当日または翌営業日中に見積回答

✉ 無料見積依頼はこちら

この記事の執筆者

弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。

お問合せ・ご相談はこちら(無料)

 まずはお気軽にご相談・見積依頼をどうぞ

正式ご依頼まで料金不要/当日または翌営業日中に見積回答

 お問合せフォーム・メールがスムーズです

✉ お問い合わせはこちら(見積無料)

メール・電話・Web会議で対応可能 / 正式ご依頼まで料金不要

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
03-6453-6337

担当:菊地正登(キクチマサト)

受付時間:9:00~18:00
定休日:土日祝日

※契約書を添付して頂ければ見積回答致します
受付時間:24時間

 英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェック(全国対応),実績多数の弁護士菊地正登です。弁護士歴23年(国際法務歴17年),約3年間の英国留学・ロンドンの法律事務所での勤務経験があります。英文契約・国際取引を中心に取り扱い,高品質で迅速対応しています。お気軽にお問合せ下さい。

お気軽にお問合せください

お電話でのお問合せ

03-6453-6337

<受付時間>
9:00~18:00
※土日祝日は除く

弁 護 士 情 報

弁護士  菊  地  正  登
片山法律会計事務所

東京都港区芝5-26-20
建築会館4F
tel: 03-6453-6337
email: kikuchi@mkikuchi-law.com

片山法律会計事務所

住所

〒108-0014
東京都港区芝5-26-20
建築会館4F

アクセス

都営三田線・浅草線三田駅またはJR田町駅から徒歩約3分です

受付時間

9:00~18:00

定休日

土日祝日

 弁護士インタビュー動画

書  籍

士業・翻訳業者・保険会社・金融機関の方へ

各士業の先生方,翻訳業者,保険会社,金融機関のお客様の英文契約書に関する案件についてお手伝いさせて頂いております。

ご紹介頂いたお客様の初回相談料は無料ですので,お気軽にお問合せ下さい。

ご相談方法

メール・電話・Web会議・対面の打ち合わせによる対応を行っております。

サイト内検索 - 英文契約書用語の検索ができます -