Strict Liability(厳格責任)——英国法・コモンローにおける無過失責任の法理

英国University of Southampton LLMコースワーク修了・ロンドンの法律事務所勤務経験を持つ国際取引を得意とする弁護士が解説します。Strict Liability(ストリクト・ライアビリティ)とは「厳格責任・無過失責任」のことです。英国法では、契約違反は原則として過失の有無にかかわらず責任が生じるStrict Liabilityとして扱われます。これは日本法の「帰責事由(故意・過失)」を要件とする考え方と根本的に異なります。製造物責任や環境責任との関係も含めて詳しく解説します。

【目次】

1. Strict Liabilityとは何か
2. 契約違反におけるStrict Liability
3. 契約条項の種類とStrict Liability
4. 製造物責任(Consumer Protection Act 1987)
5. 環境・危険物質責任——Rylands v Fletcher原則
6. Strict Liabilityと過失責任(Negligence)の違い
7. Strict Liabilityへの実務的対応——免責条項・保険
8. 英国法・米国法・日本法の比較
9. よくある質問(FAQ)

1. Strict Liabilityとは何か

Strict Liability(ストリクト・ライアビリティ)とは、故意・過失(fault)の有無にかかわらず責任が認められる「厳格責任」または「無過失責任」のことです。通常の過失責任(negligence)と異なり、行為者が注意を尽くしていたかどうか、知識があったかどうかは問いません。責任を生じさせる事実(契約違反、欠陥製品の製造など)さえあれば責任が発生します。

Strict Liabilityが適用される主要な場面

契約違反全般:コモンローでは契約上の義務違反は原則としてStrict Liability
製造物責任:Consumer Protection Act 1987による欠陥製品の責任
危険物質・活動:Rylands v Fletcher原則による土地上の危険物質の逸出
法定義務違反:特定の法令が定める義務違反に基づく責任

2. 契約違反におけるStrict Liability

英国コモンローの最も重要な特徴の一つは、契約違反における責任がStrict Liability(無過失責任)であるという点です。契約上の義務を履行できなかった場合、その不履行が当事者の故意・過失によるものでなくても、原則として損害賠償責任を負います。

⚠ 日本法との根本的な違い

日本法では、債務不履行に基づく損害賠償請求のためには、原則として債務者の「帰責事由(責めに帰すべき事由)」——つまり故意・過失または信義則上これと同視できる事由——が必要です(民法415条)。これに対し、英国法では契約違反自体がStrict Liabilityを生じさせるため、「過失がなかった」という抗弁は原則として通りません。日本企業が英国法準拠の契約を締結する際は、この点を十分に理解する必要があります。

もっとも、英国法においても完全に無制限の責任が生じるわけではありません。Force Majeure(不可抗力)条項や、Frustration(契約目的の達成不能)の法理など、一定の例外により責任を免れることができます。しかし、これらは厳格に解釈されており、予見可能なリスクには適用されません。

3. 契約条項の種類とStrict Liability

英国法では、契約条項はCondition、Warranty、Intermediate(Innominate)の3種類に分類されますが、いずれの類型においても損害賠償はStrict Liabilityとして認められます。条項の類型によって異なるのは「解除権の有無」であり、損害賠償請求の可否はどの類型でも違反の事実のみで認められます。

条項類型 損害賠償(Strict Liability) 解除権
Condition 過失不問で常に認められる 違反の事実のみで発生
Warranty 過失不問で常に認められる 発生しない
Intermediate 過失不問で常に認められる 違反が根本的に重大な場合のみ

4. 製造物責任(Consumer Protection Act 1987)

製造物責任(Product Liability)の分野では、Consumer Protection Act 1987(消費者保護法)がStrict Liabilityを明文で規定しています。製造業者・輸入者等は、自社製品の欠陥によって消費者に損害が生じた場合、過失の有無にかかわらず責任を負います。

Consumer Protection Act 1987のポイント

責任主体:製造業者・EU輸入業者・自己のブランドで商品を販売する者
責任の要件:①欠陥製品、②損害の発生、③欠陥と損害の因果関係——過失は不要
「欠陥」の定義:「合理的に期待される安全性(reasonable safety)」に欠ける製品
主な抗弁:開発リスク(development risk defence)——製品製造時点での科学技術水準では欠陥を発見できなかった場合

日本の製造物責任法(PL法)も同様に製造者のStrict Liabilityを定めており、この点では英国法と同様です。ただし、「開発リスク(development risk)」の抗弁については、英国法は認める一方、日本のPL法は限定的です。

5. 環境・危険物質責任——Rylands v Fletcher原則

Rylands v Fletcher [1868] LR 3 HL 330は、危険物質の逸出に関する英国コモンローのリーディングケースです。この判決が確立した原則は、「土地上に危険な物を持ち込んだ者は、その物が逸出して他者に損害を与えた場合、過失の有無にかかわらず責任を負う」というものです。

Rylands v Fletcher原則の要素 内容
危険物の持ち込み 「土地の通常の利用(natural use)」を超えた危険な物質・物の持ち込み(水・ガス・化学物質等)
逸出 危険物質が当該土地の外に逸出した
損害 逸出によって第三者(隣地所有者等)に損害が生じた
過失の不要性 逸出を防ぐための注意を尽くしていたとしても責任を負う——Strict Liability

6. Strict Liabilityと過失責任(Negligence)の違い

Strict Liabilityと過失責任(Negligence)の最大の違いは、行為者の過失(fault)の有無が責任の要件となるかどうかです。

比較項目 Strict Liability(厳格責任) Negligence(過失責任)
過失の要否 不要(事実のみで責任発生) 必要(Duty of care + Breach + Damage)
英国法での適用場面 契約違反(全般)、製造物責任(CPA 1987)、危険物質の逸出(Rylands v Fletcher)など 通常の不法行為全般(交通事故、医療過誤など)
被害者の立証負担 過失の立証不要——事実(製品の欠陥など)のみ立証すればよい 過失(duty of care breach)の立証が必要

7. Strict Liabilityへの実務的対応——免責条項・保険

英国法準拠の契約を締結する際、Strict Liabilityのリスクに対処するための実務的なアプローチがあります。

✔ Strict Liabilityリスクへの実務的対応

1. Force Majeure条項:不可抗力(天災・戦争・政府規制等)による不履行の免責を明示的に規定する
2. 損害賠償上限条項(Liability Cap):賠償額の上限(例:契約金額の100%)を設定する
3. 間接損害の排除:Consequential damages(間接損害・逸失利益等)を賠償対象から除外する
4. Indemnity保険:Professional indemnity保険・製品賠償責任保険でStrict Liabilityリスクをカバーする
5. 品質管理・検査体制:製造物責任リスクを軽減するための品質管理システムを構築する

8. 英国法・米国法・日本法の比較

Strict Liabilityに関する各法域の比較を整理します。

比較項目 英国法 米国法 日本法
契約違反の責任 Strict Liability(過失不要) Strict Liability(過失不要)——英国法と同様 帰責事由(故意・過失)が原則必要(民法415条)。ただし解除には帰責事由不要(2020年改正)
製造物責任 Consumer Protection Act 1987——Strict Liability。開発リスクの抗弁あり Restatement (Third) of Torts: Products Liability——製造上の欠陥はStrict Liability、設計上の欠陥は合理性テスト 製造物責任法(PL法)——Strict Liability。開発リスクの免責は限定的
危険物質責任 Rylands v Fletcher原則(コモンロー)——Strict Liability Abnormally Dangerous Activities(Restatement §519)——Strict Liability 特別法(土壌汚染対策法等)で無過失責任を定める場合があるが、一般的にはNegligenceが基本
不可抗力の扱い Force Majeure条項(明示的に規定が必要)またはFrustration法理で免責可能 同様。Force Majeure条項の明示的規定が重要 帰責事由(過失等)がない場合は損害賠償責任なし(民法415条但書)。解除は別途可能

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 英国法準拠の契約で「過失がなかった」と主張することは有効な抗弁になりますか?
A. 原則としてなりません。英国法ではcontract breach(契約違反)はStrict Liabilityですので、「注意を尽くした」「故意・過失がなかった」という抗弁は損害賠償責任を免れる根拠にはなりません。ただし、Force Majeure条項が発動する事由がある場合(当事者の合理的なコントロールの外にある事由)や、Frustrationの法理が適用される場合には免責が認められることがあります。
Q2. Force Majeure条項があれば、Strict Liabilityを完全に回避できますか?
A. Force Majeure条項が発動する事由に限って免責されます。英国法のForce Majeure条項は厳格に解釈されるため、予見可能なリスク(例:原材料の価格上昇、一般的な経済不況、通常の労使紛争)には適用されません。またForce Majeureはコモンローに自動的に存在する法理ではなく、契約書に明示的に規定する必要があります。
Q3. 日本のPL法(製造物責任法)と英国のConsumer Protection Act 1987の違いは何ですか?
A. いずれもStrict Liability(無過失責任)を定める点では同様ですが、主な違いとして、①英国法は「開発リスク(development risk defence)」——製造時点での科学技術水準では欠陥を発見できなかった場合の抗弁——を広く認めますが、日本のPL法ではより限定的です。②英国法は消費者(個人)による請求を主な対象としますが、日本法は企業間取引にも適用範囲が広い点が異なります。
Q4. 英文契約書にLiability Cap(損害賠償上限)を設ける際の注意点は何ですか?
A. Liability Capは英文契約書において重要なリスク管理手段ですが、以下の点に注意が必要です。①UCTAのReasonableness Testを通過する必要があります。②上限額の設定(例:契約金額の100%、または固定額)を適切に設計する必要があります。③Liability Capから除外する損害(死亡・人身傷害、詐欺、知財侵害等)を明確に規定することが重要です。④間接損害・結果損害を別途排除する規定とセットで設計することが効果的です。
Q5. 英国の通常の不法行為(Negligence)にはStrict Liabilityは適用されないのですか?
A. 正しいです。通常の不法行為(Negligence)は過失責任です。Duty of care(注意義務)の存在→その違反→損害→因果関係の4要件をすべて立証する必要があります。Strict Liabilityが適用されるのは、製造物責任(CPA 1987)、Rylands v Fletcher原則(危険物質の逸出)、法令違反など特定の場面に限られます。なお、契約違反については(不法行為ではなく)Strict Liabilityが適用されます。

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この記事の執筆者

弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。

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