Due Diligence(デューデリジェンス)――英国法における「相当な注意」の意味とM&A・契約実務への影響

Due Diligence(デューデリジェンス)は英国法上「相当な注意」(reasonable care)と同義であり、英文契約書において義務の基準として設定された場合に、法的義務の範囲と免責の可否を左右する重要な概念です。また日本のM&A実務では「買収先のリスク調査」の意味でも広く使われます。本記事では法律的意味と実務での用法を詳しく解説します。

【目次】

1. Due Diligence の法的意味
2. Due Diligence = Reasonable Care(英国判例法)
3. 英文契約書における Due Diligence の用例
4. Due Diligence 義務が免責に与える影響
5. M&A・企業買収における Due Diligence
6. Legal Due Diligence の主なチェック項目
7. Due Diligence の限界と表明保証との関係
8. 英国法・米国法・日本法の比較表
9. よくある質問(FAQ)

1. Due Diligence の法的意味

Due Diligence(デュー・デリジェンス)は、英国法上「相当な注意(reasonable care)」を意味します。英文契約書において、当事者の義務の基準として設定された場合、その当事者は「一般的に合理的と考えられる注意」を払って義務を履行すれば足りることになります。

例えば、売主の品質保証義務を「due diligence をもって欠陥の発見に努める」と定めた場合、売主は最善を尽くして欠陥を検査する義務を負いますが、相当な注意を払っても発見できなかった欠陥については免責される可能性があります。

2. Due Diligence = Reasonable Care(英国判例法)

英国判例上、due diligence と reasonable care が同義であることは、House of Lords(当時の最高裁判所に相当する貴族院)の判例 Union of India v N.V. Reederij Amsterdam (The Amstelslot) [1963] 2 Lloyd's Rep. 223 によって確立されています。

Due Diligence の基準:
・「合理的に慎重な者(a reasonably prudent person)」が同じ状況下でとるであろう注意
・絶対的な義務(strict obligation)よりも基準が低く、人間として合理的に期待される水準
・専門職(弁護士・医師・技術者等)については、その分野の専門家として期待される水準

3. 英文契約書における Due Diligence の用例

英文契約書において due diligence が義務の基準として登場する典型的な用例を以下に示します。

① 船舶の堪航性(海運契約):
「The carrier shall exercise due diligence to make the ship seaworthy before the voyage.」
(運送人は航海前に船舶を堪航性のある状態にするため相当な注意を払わなければならない)

② 品質管理(売買契約):
「The seller shall exercise due diligence in inspecting goods for defects.」
(売主は商品の欠陥を検査するため相当な注意を払わなければならない)

③ 情報セキュリティ(IT契約):
「The vendor shall exercise due diligence to protect customer data from unauthorized access.」

4. Due Diligence 義務が免責に与える影響

Due Diligence を義務の基準として設定すると、本来の絶対的義務を軽減する効果が生まれます。これが due diligence 条項の最も重要な実務的意義です。

義務の形式 責任の範囲 免責の可否
絶対的義務(Strict obligation) 結果責任(結果が達成できなければ責任) 原則として免責不可
Due Diligence 義務 注意義務(相当な注意を払ったかどうか) 相当な注意を払えば免責可能

したがって、相手方から due diligence 義務を求める条項の提案を受けた場合、その条項が自社に有利か不利かを慎重に検討する必要があります。

5. M&A・企業買収における Due Diligence

日本のM&A実務では、due diligence は「買収対象会社のリスク調査」という意味で広く使われています。買収前に対象会社の法務・財務・税務・事業等のリスクを調査するプロセス全体を指します。

M&Aにおける Due Diligence の種類:
・Legal DD(法務デューデリジェンス):契約関係・訴訟リスク・規制対応等
・Financial DD(財務デューデリジェンス):財務諸表分析・負債・キャッシュフロー等
・Tax DD(税務デューデリジェンス):税務リスク・未払い税金等
・Business DD(事業デューデリジェンス):事業計画・市場分析・顧客関係等
・Environmental DD(環境デューデリジェンス):環境汚染・規制遵守等

6. Legal Due Diligence の主なチェック項目

法務デューデリジェンス(Legal DD)において弁護士がチェックする主な項目を以下に示します。

① 主要契約:取引先・顧客との契約内容・期間・解除条件・Change of Control 条項
② 知的財産権:特許・商標・著作権の登録状況・ライセンス契約
③ 訴訟・係争:現在係属中の訴訟・クレーム・潜在的リスク
④ 労働関係:雇用契約・就業規則・未払い残業リスク
⑤ 規制対応:事業に必要な許認可の取得状況・コンプライアンス体制
⑥ 不動産:不動産の権利関係・賃貸借契約
⑦ データ保護:GDPR等のデータ保護規制への対応状況

7. Due Diligence の限界と表明保証との関係

Due Diligence 調査にも限界があります。調査で発見できなかったリスク(潜在的負債・隠れた契約等)に対しては、表明保証条項(Representations and Warranties)による保護が重要です。

買主は Due Diligence 調査を実施しつつ、売主に対して会社の状態に関する表明保証を求め、虚偽または不正確な表明保証があった場合に損害賠償を請求できるよう契約書で手当てします。Due Diligence と表明保証は補完的な関係にあります。

8. 英国法・米国法・日本法の比較表

Due Diligence に関する英国法・米国法・日本法の主な相違点です。

項目 英国法 米国法 日本法
法的意味 Reasonable care と同義 Reasonable care と類似 「相当の注意」(善管注意義務と類似)
M&AでのDD 標準的実務 標準的実務(より詳細) 標準的実務
表明保証との連携 不可欠(補完関係) 不可欠 重要だが契約上の定めによる
善管注意義務 Duty of reasonable care(不法行為法上) Duty of care(州法・コモンロー) 善管注意義務(民法644条等)

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 英文契約書に「shall exercise due diligence」とある場合、どの程度の注意が求められますか?
A. 「合理的に慎重な者が同じ状況で払うであろう注意」の基準です。絶対的な結果保証ではなく、一般的に期待される水準の注意です。ただし、専門職(弁護士・技術者等)の場合はその分野の専門家として期待される高い水準が求められます。
Q2. M&AのDue Diligenceにかかる費用と期間の目安は?
A. 案件の規模・複雑さによって大きく異なります。中規模の国際M&Aでは、Legal DDだけで弁護士費用として数百万円以上、期間は2〜6週間程度かかることが一般的です。Financial DD・Tax DDを加えると費用・期間はさらに増加します。
Q3. Due Diligence 調査で問題が見つかった場合、どう対応すべきですか?
A. 発見された問題の重大性に応じて、①買収価格の調整(purchase price adjustment)、②表明保証の追加・強化、③特定のリスクに対する補償条項(indemnity)の設定、④条件付き合意(escrow 等)、⑤最悪の場合は取引の撤退(walk away)を検討します。
Q4. 海外企業との契約で「best efforts」と「due diligence」はどう違いますか?
A. 英国法では「best efforts」(または best endeavours)はほぼあらゆる手段を尽くす非常に高い義務水準です。一方「due diligence」(reasonable care)は合理的に期待される注意水準で、best efforts より低い義務です。英文契約書で自社が義務を負う際は、due diligence ベースの義務を求める方が有利です。
Q5. 日本企業が海外企業を買収する際、Due Diligence はどこまで行うべきですか?
A. 少なくともLegal DD(主要契約・知的財産・訴訟)とFinancial DDは必須です。加えて、対象国の規制に関する局法対応DD(例:英国のBribery Act対応、GDPR対応)、環境DD、労働法DDも重要です。コストとリスクのバランスを考慮しながら、弁護士・会計士と協議して調査範囲を決定してください。

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この記事の執筆者

弁護士 菊地正登(片山法律会計事務所)
弁護士歴23年・国際法務歴17年。英国University of Southampton LLMコースワーク修了、ロンドンの法律事務所勤務経験あり。英文契約書の作成・翻訳・リーガルチェックを主な業務とし、英米法の実務的観点から国際取引をサポート。著書「海外取引の成否は『契約』で9割決まる」(幻冬舎)。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的アドバイスではありません。個別案件については必ず弁護士にご相談ください。※英国法・米国法の解説は2025年時点の情報を基にしています。法改正等により内容が変わる場合があります。

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